甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【彦根市】彦根神社

今回は滋賀県彦根市の彦根神社(ひこね-)について。

 

彦根神社は彦根市街の雨壺山西側に鎮座しています。

創建は不明。当初は「田苗大明神」「川流れの明神」と呼ばれたようです。1734年(享保十九年)には、彦根の地名の由来となったイクツヒコネ(活津彦根命)が合祀されました*1。合祀にともない、社号を田中神社から彦根神社に改めています。また、田中神社は明治初期の廃仏毀釈を避けるため、彦根神社の境内社「岡神社」に改められています。

現在の境内社殿は、江戸後期の文政年間のものと思われます。境内の奥には2棟の本殿が並立し、主祭神の彦根神社と、当初の祭神だった田中神社が並立して祀られています。

 

現地情報

所在地 〒522-0086滋賀県彦根市後三条町122(地図)
アクセス 彦根駅から徒歩25分
彦根ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

拝殿など

彦根神社の境内は北西向き。入口は住宅地の一画にあり、鳥居向かって左(北東)へ50メートルほど行くと長久寺の入口があります。

道路上には一の鳥居が立っています。石造明神鳥居で、扁額は「彦根神社」。

 

道路を進んで境内に入ると二の鳥居と拝殿があります。

石造明神鳥居。扁額は「彦根神社」。

 

境内の中心部には拝殿。

入母屋造、桟瓦葺。

 

柱は角柱で、柱上は舟肘木。

入母屋破風に木連格子が張られ、拝みに蕪懸魚が下がっています。

 

拝殿向かって左には手水舎。

切妻造、銅板葺。

 

虹梁、木鼻、出三斗などの意匠が使われています。

懸魚は蕪懸魚を変形させたような独特の形状。

 

拝殿向かって右には名称不明の社殿。

入母屋造(妻入)、桟瓦葺。

 

彦根神社本殿

拝殿の後方は一段高い区画になっていて、瑞垣に囲われています。本殿は2棟が並立し、向かって左(北)が彦根神社、右(南)が田中神社です。

 

2棟の本殿の前には神門。

切妻造、銅板葺。

門扉は桟唐戸で、三つ巴の紋が入っています。軒裏は板軒。

 

向かって左の彦根神社本殿は、一間社流造、桟瓦葺。

文政年間(1818-1831)の造営かと思われます。

滋賀県神社庁によると、享保年間(1716-1736)の棟札と文政年間の棟札が保存されているとのこと。細部の意匠が江戸後期のものに見えるため、文政年間のものではないかと推定しました。

 

祭神はイクツヒコネ(活津彦根命)。

 

正面の虹梁。若葉の絵様が彫られています。

中備えは蟇股。中央には、井伊家の家紋「丸に橘」。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。側面に獏の木鼻がついています。

柱上の組物は連三斗。

 

階段は5段設けられ、擬宝珠付きの昇高欄がついています。

階段の下には浜床。

 

海老虹梁は、向拝の組物の上から出て、母屋柱の頭貫の位置に取りついています。

 

正面には桟唐戸が設けられ、戸の上の扁額は「彦根神社」。

側面は横板壁。

縁側は切目縁が3面に設けられ、跳高欄と脇障子が立てられています。

 

母屋柱は円柱。軸部は長押と貫で固められ、頭貫には拳鼻がついています。

柱上は出三斗。頭貫の上の中備えは蟇股。

妻虹梁の上には笈形付き大瓶束。笈形は雲状の意匠です。

 

破風板の拝みには猪目懸魚。桁隠しには、開口されていない懸魚が下がっています。

 

背面。こちらにも中備えの蟇股があります。

柱間は横板壁。

 

田中神社(岡神社)本殿

向かって右の田中神社本殿は、一間社流造、銅板葺。

彦根神社と同様に、江戸後期の文政年間のものかと思います。

 

祭神は田苗大明神なるものが祀られているようで、当地の氏神とのこと。田中神社(田苗大明神)は明治初期の廃仏毀釈を避けるため、式内社の岡神社(米原市)の分社を名乗っていたようです。

 

正面の虹梁には、花の意匠の絵様が彫られています。

中備えは竜の彫刻。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。正面に唐獅子、側面に獏の木鼻があります。

柱上は連三斗。

 

階段は5段あり、昇高欄は親柱に擬宝珠がついたもの。階段の下には浜床。

 

海老虹梁は向拝の木鼻と同じ高さから出て、母屋の頭貫の位置に取りついています。

向拝の組物の上には手挟。手挟には雲が彫られています。

 

母屋正面には桟唐戸。扁額は「田中神社」。

側面の柱間は横板壁。

 

縁側は切目縁が3面にまわされています。欄干は跳高欄。側面後方は脇障子でふさがれています。

縁の下は縁束で支えられ、縁束と床下の桁との接続部には、拳鼻のような繰型のついた持ち送り材が添えられています。

 

母屋柱は円柱。長押と貫でつながれています。

柱間には虹梁がわたされ、唐獅子の木鼻がついています。

柱上の組物は出組。柱間にも出組が配され、詰組になっています。

 

妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は雲の意匠です。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。拝みの懸魚の鰭や、桁隠しも雲の意匠です。

 

背面。柱間は横板壁。

側面と同様に、頭貫の位置に虹梁がわたされ、中備えに詰組が配されています。

 

以上、彦根神社でした。

(訪問日2025/03/23)

*1:近江八幡市の活津彦根神社から勧請されたとする説がある