今回は愛知県豊川市八幡町(やわたちょう)の八幡宮(はちまんぐう)について。
八幡宮は市西部の川沿いの住宅地に鎮座しています。通称は豊川八幡宮。
創建は社伝によると飛鳥時代。672年に宇佐神宮から勧請されたらしく、三河地域では最古の八幡宮です。奈良時代には近隣に国分寺が造られ、国分寺とともに隆盛したようです。平安以降は源氏の崇敬を受け、源頼朝から社領の寄進を受けています。室町時代は牧野氏や今川氏の崇敬を受け、江戸時代には幕府の庇護を受けました。
境内は社叢に覆われ、古社の趣をただよわせます。現在の主要な社殿は近世以降のものと思われますが、本殿は室町前期に造られた大型の流造で、国の重要文化財に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒442-0857愛知県豊川市八幡町本郷16(地図) |
アクセス | 国府駅から徒歩20分 音羽蒲郡または豊川ICから車で15分 |
駐車場 | 50台以上(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道と神門
八幡宮の境内は南向き。入口の生活道路に並行するように境内が伸びています。
一の鳥居は石造明神鳥居。扁額は「八幡宮」。
参道を進むと二の鳥居があります。
石造明神鳥居。扁額は「八幡宮」。
二の鳥居の先には橋が3つかかっており、その先に三の鳥居があります。
三の鳥居は石造明神鳥居。扁額はなく、額束が入っています。
三の鳥居をくぐると境内の中心部に到着します。
中心部の区画の入口には神門が設けられています。
神門は、桁行3間・梁間1間、切妻、桟瓦葺。
柱は円柱が使われています。組物はなく、柱が軒桁を直接受けています。
柱間は貫でつながれています。木鼻や中備えといった意匠はありません。
妻飾りは豕扠首。
破風板の拝みには梅鉢懸魚。
神門をくぐると右手に手水舎があります。
切妻、桟瓦葺。
拝殿
参道の先には拝殿があります。
切妻、向拝3間、銅板葺。
向拝の中央の柱間。
向拝柱は几帳面取り。柱間にわたされた虹梁には、牡丹の花の絵様があります。
中備えは蟇股。若葉の彫刻が入っています。
向かって左の柱間。
柱の正面と側面には木鼻がついています。
こちらの虹梁は幅が短く、絵様も若葉だけの比較的簡素なものとなっています。中備えの蟇股の彫刻も簡素です。
柱上の組物は出三斗と連三斗。
母屋の正面および側面。訪問時は祭事の準備中で、犬走に鞍や鐙などの馬具が並べられていました。
母屋柱は円柱。柱間は連子窓や横板壁、ガラス戸が入っています。
右側面(東面)の妻壁。
組物の上に太い梁をわたして大瓶束を立て、その上に二重虹梁を設けています。二重虹梁の上では蟇股が棟木を受けています。
破風板の拝みには猪目懸魚。桁隠しには形状の異なる猪目懸魚が2つ下がっており、破風板にはつごう5つの懸魚があります。
本殿
拝殿の後方には塀に囲われた本殿が鎮座しています。祭神は、誉田別命、神功皇后、宗像三女神。
桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、檜皮葺。
1447年(文明九年)造営。国指定重要文化財*1。
向拝柱(写真左)は大面取り角柱で、柱上に連三斗があります。母屋柱(写真右)は円柱で、こちらも柱上は連三斗です。
向拝柱と母屋柱のあいだにはまっすぐな梁がわたされ、すだれがかかっています。
向拝柱の組物の上と母屋柱の頭貫の位置とのあいだにも梁(貫?)があり、梁と軒裏のあいだの欄間には雲状の彫刻が入っています。
母屋は側面2間。柱間は横板壁。
軸部は貫と長押で固定され、頭貫に木鼻があります。
柱上の組物は連三斗と平三斗。
縁側は切目縁が3面にまわされ、背面側には脇障子を立てています。
中備えは蟇股。植物を題材にしたと思われる彫刻が入っています。
室町前期のもののため、造形も平板で抽象的です。
妻虹梁の上には3本の大瓶束が立てられています。中央の長い束と左右の短い束とのあいだは、小さい海老虹梁(境内案内板には“笈形”と書かれていました)でつながれています。
海老虹梁と軒裏のあいだの欄間にも、雲状の彫刻が入っています。
破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。拝み懸魚と桁隠し懸魚をつなぐように、雲状の板材が破風板から下がっています。
3本の大瓶束や破風板の装飾材は、私の知る限りでは他所の神社本殿では見られない意匠で、野趣に富んだ独創的な造りだと思います。
背面は3間。柱間は横板壁。
柱上の組物は連三斗と出三斗が使われています。中備えは省略されています。
境内社
拝殿の周辺には摂社末社が点在しています。
こちらは拝殿向かって左手に東面する社務所。
入母屋、桟瓦葺。玄関は向唐破風、桟瓦葺。
玄関部分。
唐破風の拝みには兎毛通が下がり、軒下の妻面には神紋(五三の桐と三つ巴)があります。
庇の瓦には竜の彫刻が乗っています。
社務所の北側には天満天神社と高良社が東面しています。
両社とも一間社流造。高良社は見世棚造。
天満天神社の軒下には、蟇股や木鼻などの彫刻があります。
拝殿左手前(南東)には3棟の境内社が南面しています。
右の1棟は招魂社で、当地から出征した戦死者を祀ったものと思われます。
左の2棟は、一間社流造、銅板葺。
左端の社殿。
蟇股は若葉の意匠。向拝柱の側面には象鼻。
中央の社殿。
向拝柱の木鼻が、内側と外側の両方についているのが独特です。
拝殿の手前の参道の左右にも境内社があります。こちらは参道左手(西側)のもの。
訪問時は祭事のため厩舎に神馬が控えていました。
こちらは参道右手(東側)のもの。西側のものとほぼ同じ造りです。
一間社流造、こけら葺。
向拝柱の上には板状の手挟。
母屋柱は円柱で、頭貫の上に中備えはありません。
妻飾りは笈形付き大瓶束。破風板の拝みには蕪懸魚。
参道をもどって二の鳥居の手前まで引き返すと、境内東側に弁財天社があります。
以上、八幡宮(八幡町)でした。
*1:厨子1基、棟札3枚