甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【彦根市】新神社

今回は滋賀県彦根市の新神社(しん-)について。

 

新神社は彦根市街の雨壺山南麓に鎮座しています。

創建は1440年(永享十二年)。日吉大社から山王権現が勧請されたのがはじまりで、当初は新宮(しんぐう)または新宮大権現と呼ばれたようです。創建以来、当地の総社として庶民の崇敬を集めました。明治初期には神仏分離令によって「新宮大権現」の神号・社号が使えなくなったため、現在の「新神社」に改めています。

現在の境内や社殿は江戸後期のもの。本殿は白木の彫刻で飾られた派手な造りとなっています。

 

現地情報

所在地 〒522-0037滋賀県彦根市岡町156(地図)
アクセス 彦根口駅から徒歩5分
彦根ICから車で10分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト 新神社
所要時間 15分程度

 

境内

手水舎

新神社の境内は南東向き。入口は住宅地の道路に面しています。

右の社号標は「新神社」。

入口には石造明神鳥居が立ち、扁額は「新神社」。

 

参道左手には手水舎。

桁行2間・梁間1間、入母屋造、桟瓦葺。

 

柱は几帳面取り角柱。柱間は、飛貫の位置に長押が打たれ、頭貫の位置に虹梁がかかっています。飛貫と虹梁のあいだは菱組の欄間。

虹梁に木鼻がつき、虹梁の上には台輪が通っています。柱上の組物は出三斗、中備えは蟇股。

内部は小組格天井が張られています。

 

妻面。

入母屋破風に木連格子が張られ、破風板に蕪懸魚が下がっています。

飛貫と虹梁のあいだの欄間には小壁が張られ、三つ巴の紋の形状に繰りぬかれています。

 

二の鳥居は石造明神鳥居。

境内は3段の構成になっており、鳥居の先の石段をのぼると境内中段に拝殿があります。

 

拝殿

拝殿は、桁行3間・梁間3間、入母屋造、銅板葺。

4面すべてが吹き放ちで、神楽殿に近い造り。滋賀県内の神社の拝殿でよく見られる形式です。

 

柱間は正面側面ともに3間。

柱は角柱で、柱上は舟肘木。柱間には長押が打たれています。正面および背面の中央の柱間は、長押が高い位置に打たれ、しめ縄が下がっています。

内部は折り上げ小組格天井。

 

左側面。

入母屋破風の妻飾りは豕扠首。破風板の拝みには蕪懸魚が下がっています。

 

拝殿向かって左側には、神饌所と思われる社殿があります。

入母屋造、銅板葺。

母屋向かって左は土間床になっており、板戸が設けられています。向かって右は高床で縁側が設けられ、柱間に舞良戸が入っています。

 

神門と透塀

拝殿の後方はさらに一段高い区画となっており、神門と透塀のうちに本殿が鎮座しています。

 

中央の神門は、向唐門、銅板葺。

 

柱は円柱。正面と側面には唐獅子の木鼻がつき、柱上は出三斗。

 

虹梁中備えは蟇股。唐獅子の彫刻があります。

妻飾りは虹梁大瓶束。大瓶束の右には彫刻の入った笈形がありますが、左側の笈形は欠落しています。

破風板の拝みには鳳凰の彫金がつき、兎毛通は花の彫刻。左右の桁の木口の近くには唐草の彫刻がついています。

 

左側面から見た図。

側面は1間で、柱間に菱組みの格子が入っています。

 

背面。

こちらは几帳面取り角柱が使われ、拳鼻がついています。

虹梁中備えの蟇股は彫刻がなく、大瓶束の左右の笈形も渦状の線彫りがついだだけの比較的簡素なものです。

 

破風板の拝みには、鳳凰の彫金と花の彫刻。

正面のものと同じ意匠です。

 

神門と本殿とのあいだには、渡り廊下のような棟があります。

向唐破風、銅板葺。

柱は角柱で、柱上は舟肘木。簡素な木鼻や蟇股が使われています。

 

神門の左右には透塀。こちらは向かって左側(北側)のもの。

透塀は、切妻造、桟瓦葺。

透塀と神門とのあいだには、屋根のない袖塀が設けられています。

 

透塀の柱はいずれも角柱。腕木で桁を持ち出し、小天井を張っています。

柱間にはまばらな連子が入り、長押の上の欄間には唐草の彫刻が入っています。

 

本殿

神門の後方には本殿が鎮座しています。

本殿は、一間社流造、正面千鳥破風付、向拝1間、軒唐破風付、銅板葺。

案内板(設置者不明)によると、寛政年間(1789-1801)の造営とのこと。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。柱上は連三斗。

しめ縄の影になってしまいましたが、柱の側面に獏の木鼻がついています。

 

虹梁中備えは竜の彫刻。立体感のある造形で、力作だと思います。

竜の彫刻の上には虹梁大瓶束があり、大瓶束の左右には麒麟の彫刻が配されています。

 

向拝には5段の階段が設けられ、擬宝珠付きの欄干が立てられています。

階段の下には浜床が張られていますが、浜床のふちに低い壁が立てられています。

 

向拝柱と母屋柱のあいだには海老虹梁。向拝側は組物の上から出て、母屋側は組物の肘木の位置に取りついています。

向拝の桁隠しには蕪懸魚が下がっています。

 

母屋は正面側面ともに1間。

正面には桟唐戸が設けられています。

 

側面の柱間は横板壁。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。縁側の側面後方には脇障子が立てられています。

 

脇障子の彫刻。

題材は牡丹に唐獅子。

 

母屋柱は円柱。頭貫には唐獅子の彫刻。

軸部は貫と長押で固められ、長押の上の欄間には波の彫刻があります。

柱上の組物は出組。台輪の上の中備えにも出組があり、出組のあいだに雲の彫刻が配されています。

 

妻飾りは二重虹梁。大虹梁の下には軒支輪があります。

大虹梁の中央には猿の彫刻。猿は日吉大社の神使とされます。猿の彫刻の左右には、大瓶束が立てられています。

二重虹梁の上には笈形付き大瓶束。笈形は植物の葉の意匠。

 

破風板の拝みには鰭付きの三花懸魚。桁隠しは蕪懸魚です。

 

背面。

柱間は横板壁で、こちらも長押の上に波の彫刻があります。中備えに出組がある点や、組物のあいだの雲の彫刻も側面と同様。

 

左側面の脇障子。

反対側と同様に、唐獅子が彫られています。

 

以上、新神社でした。

(訪問日2025/03/23)