甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【彦根市】賢木神社

今回は滋賀県彦根市の賢木神社(さかき-)について。

 

賢木神社は彦根駅南側の住宅地に鎮座しています。

現在地にはかつて金剛寺宝珠院*1という寺院があり、その一画にあった境内社の神明宮が当社の前身とのこと。1694年(元禄七年)、藩主・井伊直興(直治)の命により、神明宮に大神宮*2が勧請され、社殿が造営されました。これが当社の創建とされます。1705年(宝永二年)には藩主の寄進で拝殿が建立されたとのこと。創建以降、幕末まで金剛寺とともに井伊家の庇護を受け、庶民の崇敬を集めました。しかし明治初期には廃仏毀釈により金剛寺が廃寺となり*3、1869年に「賢木神社」として独立しました。1960年には、道路工事のため現在地へ移転しています。

現在の境内は戦後に整備されたもの。社殿は明治以降のものと思われます。本殿は2社が並立していますが、2つの棟が連結した独特の構造となっています。

 

現地情報

所在地 〒522-0082滋賀県彦根市安清町1-1(地図)
アクセス 彦根駅から徒歩10分
彦根ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

参道と手水舎

賢木神社の境内は西向き。境内向かって左側(北側)には幹線道路が平行しています。

入口には木造神明鳥居。

右の社号標は「賢木神社」。

 

参道右手には手水舎。

切妻造、桟瓦葺。

 

柱は几帳面取り角柱で、柱上は舟肘木。

破風板に懸魚が下がっているほか、とくに目立つ装飾はありません。

 

拝殿

参道の先には拝殿。

入母屋造、向拝1間、軒唐破風付。

 

唐破風の拝みには円い装飾がつき、中央に菊の紋があしらわれています。その下には兎毛通が下がっています。

 

虹梁にはしめ縄がかかり、中備えは蟇股。波のような意匠の彫刻が入っています。

唐破風の妻飾りは虹梁大瓶束。大瓶束の左右には、若葉の意匠の笈形が添えられています。

 

向拝柱は面取り角柱。側面には拳鼻。

柱上の組物は出三斗。

 

向拝の組物の上には板状の手挟があり、軒裏を受けています。

縋破風に桁隠しはありません。

 

母屋は正面3間、側面2間。正面の柱間は蔀、側面は縦板を張った引き戸。

柱は角柱で、柱上は舟肘木。

縁側は切目縁が4面にまわされ、正面と側面に階段が設けられています。欄干は跳高欄で、親柱は擬宝珠付き。

 

入母屋破風には板が張られ、Y字型の独特な妻飾りがあります。

破風板の拝みには蕪懸魚。

 

本殿

拝殿の後方には本殿が鎮座しています。

一間社神明造(あるいは一間社流造?)、向拝各1間、銅板葺。2棟を連結して1棟とする。

 

概観は1棟となっていますが、軒下を見ると向拝と母屋が2つに分かれており、2つの棟を屋根だけ連結した構造となっています。向かって右側が内宮で、祭神はアマテラス。向かって左側が外宮で、祭神はトヨウケです。

向拝柱は面取り角柱が使われ、柱上は舟肘木。水引虹梁はありません。

 

向拝柱と母屋柱とのあいだには海老虹梁。袖切や絵様などの彫りがない、無地のものです。

母屋柱は円柱で、柱上は舟肘木。正面1間、側面1間の母屋が2つあり、どちらの母屋も正面に板戸が設けられています。

 

母屋の外には棟持ち柱が立てられ、棟木を受けています。

破風は直線的な形状で、破風板には鞭掛のほか植物の葉の意匠の彫金がついています。

 

破風板の拝みには鞭掛(4本の棒)。

大棟は棟覆い板が張られ、棟覆い板を破るように千木が伸びています。千木は先端の切口が水平(内削ぎ)で、長方形に開口されたもの。

 

反対側(北面)。

千木は屋根両端のケラバ近くに各1組あり、どちらも内削ぎ。なお、内宮と外宮を別棟で祀る場合、内宮は千木を内削ぎにし、外宮は千木を外削ぎ(先端の切口が垂直)にすることが多いです。

鰹木は大棟の上に4つあります。

 

縁側は母屋の正面と両側面に設けられ、内宮母屋と外宮母屋とのあいだの空間は縁側を共有しています。欄干は擬宝珠付きで、脇障子が立てられています。

向拝には7段の階段が設けられ、階段の下には浜床。浜床も、内宮と外宮とで共有となっています。

母屋柱、向拝柱、縁束は基壇の上に据えられていますが、棟持ち柱は基壇の外に据えられています。

 

境内社

本殿の左右には境内社が並立しています。

こちらは本殿向かって左側(北側)にある摂社・猿田彦神社。

入口には木造神明鳥居。

 

猿田彦神社本殿は、一間社流造、銅板葺。

向拝は1間で、こちらも水引虹梁がありません。向拝の下には階段と浜床。

 

母屋柱は円柱で、柱上は舟肘木。

正面は板戸、側面は横板壁。

妻飾りは豕扠首。

 

大棟や千木の構造は神明造に近いですが、この本殿は棟持ち柱や鞭掛けといった神明造に特有の要素がありません。

千木は内削ぎ。鰹木は3本あります。

 

本殿(内宮と外宮)向かって右側は摂社・春日神社。

一間社流造、銅板葺。

 

向拝柱は面取り角柱、母屋柱は円柱。柱上は舟肘木。

構造や細部意匠は、前述の猿田彦神社とほぼ同じです。

 

大棟や千木と鰹木も同様で、千木は内削ぎ、鰹木は3本です。

 

以上、賢木神社でした。

(訪問日2025/03/23)

*1:長浜市の総持寺の末寺だった

*2:案内板には“坂田郡宇賀野村鎮座の大神宮”とあり、坂田神明宮(米原市宇賀野)のことと思われる

*3:仏像仏具は同市の長光寺に引き取られた。堂宇は同市里根町の広慈院に移築されたが、現存の有無については不明。