世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【山梨市】大井俣窪八幡神社 ~後編・国内最大の十一間社流造~

今回は山梨県のマイナー観光地、大井俣窪八幡神社(おおいまた くぼはちまん-)について。

前編では摂社末社を紹介しました。今回は後編ということで、窪八幡神社の本殿の解説をしていきます。この神社の本殿は規模が大きいだけでなく、非常に見所が多いため解説も長文と相成りました。ご了承ください。

hineriman.hatenablog.jp

f:id:hineriman:20190429202737j:plain

神社の本殿は拝殿より小さいことが多いのですが、前編で紹介した拝殿に負けず劣らず本殿も長大です。流造ですが、一体この本殿は何間社でしょうか? この写真からは分かりにくいので、答えは後ほど述べます。

ここで注目して頂きたいのは、向拝の柱です。黒く塗装されていて少々見づらいですが、円柱になっています。母屋も向拝も角柱、という例は近現代の新しい神社ならよくありますが、母屋も向拝も円柱という例は珍しいです。

円柱は角柱よりも成形が難しいので、神の鎮座する母屋には円柱を、俗人が礼拝する向拝には角柱を使うことで格のちがいを表現するのが神社建築のセオリーです。しかし、この本殿はセオリーに反して向拝にまで円柱が使われています

基礎の基礎とも言える作法を破っていますので、これは宮大工の単なるミスとは考えにくいです。何かしらの意図を持ってわざとやったと考えるほうが自然です。その意図については、憶測の域を出ませんが、境内にある立派な摂社末社との格差を示すため、敢えて向拝にまで円柱を使って格を高めようとしたからではないでしょうか。

私の説に納得できない方のために、参考として別の説を掲載しておきますが、“八幡造の外殿を簡略化して庇にしてしまったことを、その柱の形の相違で表示した”という考察もあります(著:三浦正幸『神社の本殿』p163より引用)。

 

f:id:hineriman:20190429203101j:plain

柱の話はこの辺にして、先ほど出したクイズ、本殿が何間社かを確かめるため、裏手に回ってみましょう。写真中央に見えるのは前編で述べた若宮八幡神社、右の長い社殿が窪八幡神社の本殿です。

f:id:hineriman:20190429203013j:plain
数えてみると... 柱間が11! つまり“十一間社流造”(じゅういっけんしゃ ながれづくり)です!

神社の本殿は、一間社、ニ間社、三間社... といった順で規模が大きくなって行きます。では何間社が最大かというと、石清水八幡宮(京都市)と広峯神社(姫路市)並びに窪八幡神社の十一間社が最大で、それ以上のものは私の知る限りでは存在しません。そして石清水八幡宮は八幡造、広峯神社は入母屋造です。よって、窪八幡神社流造の本殿として最大と言っていいでしょう。

 

f:id:hineriman:20190429203306j:plain

f:id:hineriman:20190429203322j:plain

さらに柱間をよく観察してみると、柱間の幅が等間隔ではないことがわかります。右から2間目と左から2間目、そして真ん中の柱間だけ、ほかよりも幅広です。この十一間社の社殿は、3つの三間社を連結させて造られたものとのことで、柱間が広くなっている箇所は元の三間社の中央部分だったのでしょう。

なお、このような経緯を持つ連結式の神社本殿は国内に幾つかありますが、そのほとんどが近畿地方に鎮座しており、甲信および東日本では希少です。

長くなりましたが本殿の解説は以上になります。

 

f:id:hineriman:20190429203416j:plain

最後に参道から見上げた窪八幡神社拝殿の写真を。

今回、この神社には30分くらい滞在していましたが、やはり境内に人気はなく、上の写真に写り込んでいる3人の他は誰とも行き会いませんでした。平成最後の10連休の初日なのに、素晴らしいとしか言いようのない社殿が幾つもあるのに、どうしてこんなに閑散としているのか不思議で仕方ありません。甲府方面に観光に来る人は、窪八幡神社を見ないで一体何を見ているのでしょうか? 私なら、こんな素晴らしい神社が自宅から最速1時間半の距離にあるという事実だけでも感激なのですが...

なお、写り込んでいた3人は、お婆さん1人とその孫と思しき子供2人でしたが、拝殿の前で柏手を打って礼拝したらすぐに踵を返して帰って行ってしまいました。やっぱり世の中の人間のほとんどは、寺社建築になんて興味ないんですね... 確かに、興味関心のない人からしたら、この神社はただの神社に過ぎず、それ以上でもそれ未満でもない代物かもしれません。ウェブで寺社巡りのブログを検索してみても、パワースポットとか御朱印とかいった内容で溢れ返っており、世間がいかに寺社建築に対して無関心であるかが如実に反映されています。

しかし、だからこそ私は、当ブログを通してなるべく多くの人に寺社建築の面白さと楽しみかたを知って貰いたいと思っています。

 

以上、大井俣窪八幡神社でした。

(訪問日2019/04/27)