世をひねる

甲信地方(山梨県と長野県)の寺院・神社建築を語る雑記。

【山梨市】大井俣窪八幡神社 ~後編・国内最大の神社本殿「十一間社流造」~

今回は山梨県のマイナー観光地、大井俣窪八幡神社(おおいまた くぼはちまん-)について。

前編では摂社末社を紹介しました。今回は後編ということで、窪八幡神社の本殿の解説をしていきます。この神社の本殿は規模が大きいだけでなく、非常に見所が多いため解説も長文と相成りました。ご了承ください。

所在地などの情報については、下記リンクをご参照ください。

 

 

窪八幡神社 本殿

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見どころ満載の大井俣窪八幡神社の境内、その中枢に鎮座するのがこちらの本殿。ご覧のとおり、恐ろしいほどに横長です。神社の本殿は拝殿より小さいことが多いのですが、拝殿に負けず劣らず長く大きいです。

屋根は正面側が長く伸びた流造(ながれづくり)というありふれた様式ですが、横幅の長さが尋常ではありません。とはいえ、横幅に目をつむれば、赤・白・黒を基調とした配色で彫刻もなく、シンプルで飾り気のない、清楚な見た目をしていると思います。

 

ここで注目して頂きたいのは、向拝の柱です。黒く塗装されていて少々見づらいですが、円柱になっています。母屋も向拝も角柱、という例は近現代の新しい神社ならよくありますが、母屋も向拝も円柱という例は珍しいです。

円柱は角柱よりも成形が難しいので、神の鎮座する母屋には円柱を、俗人が礼拝する向拝には角柱を使うことで格のちがいを表現するのが神社建築のセオリーです。しかし、この本殿はセオリーに反して向拝にまで円柱が使われています

基礎の基礎とも言える作法を破っていますので、これは宮大工の単なるミスとは考えにくいです。何かしらの意図を持ってわざとやったと考えるほうが自然です。その意図については、憶測の域を出ませんが、境内にある立派な摂社末社との格差を示すため、敢えて向拝にまで円柱を使って格を高めようとしたからではないでしょうか。

私の説に納得できない方のために、参考として別の説を掲載しておきますが、“八幡造の外殿を簡略化して庇にしてしまったことを、その柱の形の相違で表示した”という考察もあります(著:三浦正幸『神社の本殿』p163より引用)。

 

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柱の話はこの辺にして、裏手に回ってみましょう。正面側と背面側とで柱の数は同じようなので、背面側から間口がいくつあるか数えてみようと思います。

写真中央に見えるのは前編で述べた若宮八幡神社、右の長い社殿が窪八幡神社の本殿です。

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本殿の裏側を端から端まで歩いて数えてみた結果、柱間が11ありました。この本殿は世にも稀な、というか他に例のない“十一間社流造”(じゅういっけんしゃ ながれづくり)です!

よって、この本殿は「檜皮葺の十一間社流造で正面11間・側面2間、向拝11間」。

神社の本殿は、一間社、ニ間社、三間社... といった順で規模が大きくなって行きます。では何間社が最大かというと、石清水八幡宮(京都市)と広峯神社(姫路市)並びに窪八幡神社の十一間社が最大で、それ以上のものは私の知る限りでは存在しません。そして石清水八幡宮は八幡造、広峯神社は入母屋造です。よって、窪八幡神社は流造の本殿として最大と言っていいでしょう。

 

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さらに柱間をよく観察してみると、柱間の幅が等間隔ではなく、真ん中の柱間だけが他よりも幅広です。それと、右から2間目と左から2間目も若干広くなっています。この十一間社の社殿は、3つの三間社を、1間置いて連結させて造られたものとのことで、柱間が広くなっている箇所は元の三間社の中央部分だったのでしょう。

なお、このような経緯を持つ連結式の神社本殿は国内に幾つかありますが、そのほとんどが近畿地方に鎮座しており、甲信および東日本では希少です。

長くなりましたが本殿の解説は以上になります。

 

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最後に参道から見上げた窪八幡神社拝殿の写真を。

今回、この神社には30分くらい滞在していましたが、やはり境内に人気はなく、上の写真に写り込んでいる3人の他は誰とも行き会いませんでした。平成最後の10連休の初日なのに、素晴らしいとしか言いようのない社殿が幾つもあるのに、どうしてこんなに閑散としているのか不思議で仕方ありません。甲府方面に観光に来る人は、窪八幡神社を見ないで一体何を見ているのでしょうか? 私なら、こんな素晴らしい神社が自宅から最速1時間半の距離にあるという事実だけでも感激なのですが...

なお、写り込んでいた3人は、お婆さん1人とその孫と思しき子供2人でしたが、拝殿の前で柏手を打って礼拝したらすぐに踵を返して帰って行ってしまいました。やっぱり世の中の人間のほとんどは、寺社建築になんて興味ないんですね... 確かに、興味関心のない人からしたら、この神社はただの神社に過ぎず、それ以上でもそれ未満でもない代物かもしれません。ウェブで寺社巡りのブログを検索してみても、パワースポットとか御朱印とかいった内容で溢れ返っており、世間がいかに寺社建築に対して無関心であるかが如実に反映されています。

しかし、だからこそ私は、当ブログを通してなるべく多くの人に寺社建築の面白さと楽しみかたを知って貰いたいと思っています。

 

以上、大井俣窪八幡神社でした。

(訪問日2019/04/27)

 

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