甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【彦根市】長久寺

今回は滋賀県彦根市の長久寺(ちょうきゅうじ)について。

 

長久寺は彦根市街の雨壺山に鎮座する真言宗豊山派の寺院です。山号は普門山。

創建は1041年(長久二年)。後三条天皇の勅願を受け、皇后の勅願寺として開かれました。創建以来、大いに隆盛して、現在の彦根市の北半分に相当する広大な寺領を所有し、湖東三山(金剛輪寺、百済寺、西明寺の3寺)や比叡山とならぶ大寺院だったようです。室町後期は、1510年の六角氏と京極氏の騒乱で境内の大部分を焼失し、寺勢を失って荒廃しました。1571年の比叡山焼き討ちの際にはすべての伽藍が焼却され、廃寺にひとしい状態となりました。江戸時代には後水尾天皇の勅命を受けた井伊氏によって、江戸前期に現在の長久寺が再興されました。もとは天台宗でしたが、再興時に真言宗に改められています。

現在の境内は江戸前期に整備されたもの。本堂は江戸前期の再興時のものと考えられ、県の文化財に指定されています。ほか、毘沙門天立像と不動明王立像は平安時代のものと考えられ、市の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒522-0086滋賀県彦根市後三条町59(地図)
アクセス 彦根駅から徒歩15分
彦根ICから車で10分
駐車場 10台(無料)
営業時間 09:00-17:00(境内は随時)
入場料 無料
寺務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

山門

長久寺の境内は西向き。入口は住宅地の中にあり、伽藍は丘陵上に点在しています。

山門は、薬医門、切妻造、本瓦葺。

 

冠木の上から腕木(男梁)を突き出し、軒桁を受けています。

柱は角柱。柱から前方に肘木(女梁)を伸ばし、巻斗を介して腕木を受けています。

 

右側面(南面)。

腕木の上には板蟇股が置かれ、棟木を受けています。

破風板の拝みには蕪懸魚。

 

背面。

門扉は正面から見ると板戸ですが、背面から見ると桟唐戸のような木枠があります。

柱はこちらも角柱ですが、背面の柱は上端が絞られています。背面の柱間には虹梁がわたされ、木鼻もついています。

 

護摩堂

境内の南へ進むと、閼伽井(写真左端)と護摩堂があります。

護摩堂は、宝形造、向拝1間、銅板葺。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。柱上は皿付きの出三斗。

虹梁には若葉の絵様が彫られ、拳鼻がついています。

 

虹梁中備えは蟇股。

 

母屋柱は角柱、柱上は舟肘木。

柱間には格子の引き戸が入っています。

 

護摩堂の近くには閼伽井。

 

本堂(観音堂)

境内の中心部には本堂が鎮座しています。別名は観音堂。

桁行3間・梁間3間、入母屋造、向拝1間、銅板葺。

高欄の擬宝珠の銘より、1629年(寛永六年)造営*1。県指定有形文化財。

 

向拝は1間で、柱間の頭貫に鰐口がかかっています。

頭貫の上の中備えは蟇股。竜の彫刻が入っていて、彩色されていた跡があります。

 

向拝柱は面取り角柱。江戸前期の建築のため、面取りの幅がやや大きいです。

柱上の組物は連三斗。柱の側面には木鼻がつき、木鼻の上の巻斗が組物を持ち送りしています。

 

向拝柱の組物の上には手挟。波の彫刻になっています。

縋破風の桁隠しは猪目懸魚。

 

母屋正面は3間。

柱間は半蔀で、軒裏から吊り金具が下がっています。

 

向かって左の柱間。

柱は円柱。軸部は貫と長押で固められ、頭貫に拳鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。彩色の跡があります。

頭貫の上の中備えは蟇股。植物を題材にした彫刻が入っています。

 

正面中央の柱間。

こちらの蟇股も、植物が題材です。

 

側面は3間。

柱間は、前方の1間が板戸、後方の2間が横板壁。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は跳高欄。

 

組物に出三斗が使われているのは正面と同様ですが、側面は中備えに撥束が使われています。

 

背面。

柱上の組物は、木鼻のついた平三斗が使われています。中備えは側面と同じ撥束。

 

入母屋破風。

妻飾りは虹梁大瓶束。

破風板の拝みに猪目懸魚が下がり、大棟には鬼瓦。

 

毘沙門堂など

本堂の北側の斜面にも多数の伽藍が並んでいます。手前は虚空蔵堂、その陰にある棟が鐘楼、最奥にあるのが毘沙門堂。

虚空蔵堂は、入母屋造、向拝1間、本瓦葺。

 

向拝は1間。

向拝柱は几帳面取り角柱で、側面には獏の木鼻。柱上は連三斗。

虹梁中備えは、繰りぬかれた蟇股。

 

母屋柱は角柱が使われ、柱上は大斗と肘木を組んだもの。

柱間は正面側面ともに3間。正面は半蔀、側面は舞良戸と横板壁。

正面中央には扁額がかかっていますが、私の知識では判読できませんでした。

 

境内中段には鐘楼。

切妻造、本瓦葺。

 

柱は円柱が使われ、頭貫には拳鼻がついています。

柱上な出三斗。中備えは透かし蟇股。

 

妻面の蟇股には彫刻が入っていますが、大部分が欠損してしまっています。

妻飾りは虹梁大瓶束。

破風板には蕪懸魚が下がっています。

 

境内の最上段には毘沙門堂が鎮座しています。左側面(西面)が石垣から突き出ていて、懸造となっています。

桁行3間・梁間3間、入母屋造、向拝1間、桟瓦葺。

 

向拝は1間。

虹梁に中備えはなく、木鼻も取り付けられていません。

向拝柱は几帳面取り角柱。柱上は連三斗。

 

母屋正面は3間。柱間は半蔀。

頭貫の上に中備えはありません。

 

母屋柱は円柱。頭貫に木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗と平三斗。隅の柱は出三斗が使われています。

 

縁側は切目縁が4面に設けられています。

左側面の縁側からは彦根市街を見下ろせますが、床板が腐朽しかけているように見えたため縁側に上るのは自重しました。

床下の柱間には、補強のために付け足したと思われる貫が多数見られます。

 

母屋側面は3間。

柱間は引き戸と縦板壁。正面と同様に中備えはありません。

 

以上、長久寺でした。

(訪問日2025/03/23)

*1:滋賀県教育委員会の案内板より