甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【香取市】香取神宮 前編(勅使門と楼門)

今回は千葉県香取市の香取神宮(かとり じんぐう)について。

 

香取神宮は市南部の丘陵に鎮座する下総国一宮です。

鹿島神宮、息栖神社とならぶ東国三社の一社。

 

創建は不明。社伝によると、初代神武天皇の時代とされます。上古の時代、関東平野には巨大な内海が広がり、当社と鹿島神宮は沿岸の拠点として、ヤマト政権に重要視されていたようです。史料では奈良時代の『常陸国風土記』に当社の分社について記載があり、この頃には確立されていたと考えられます。

平安時代の『延喜式』にも記載があり、「神宮」の社号で記載されたのは、当社と鹿島神宮と伊勢神宮の3社のみです。平安時代には鹿島神宮とともに藤原氏から篤く崇敬され、鎌倉以降は武神として鎌倉幕府、室町幕府、江戸幕府の庇護を受けました。室町前期までは、20年に1回程度の間隔で社殿が造替されていたようですが、室町後期から造替が途絶え、江戸中期に5代将軍・徳川綱吉の命で再建された社殿が現存しています。

境内は亀甲山(かめがせやま)という低い丘陵の一画にあり、現在も深い社叢に覆われています。社殿は前述のとおり江戸中期の再建で、楼門と本殿が国重文。本殿は拝殿や幣殿と一体化した「権現造」であるのに加え、背面にも庇がついた「両流造」に近い特異な形式で造られています。

 

当記事ではアクセス情報および勅使門と楼門について述べます。

本殿、神饌殿、祈祷殿については後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒287-0017千葉県香取市香取1697(地図)
アクセス 香取駅から徒歩30分
佐原香取ICから車で5分
駐車場 100台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 香取神宮 | 千葉県香取市
所要時間 30分程度

 

境内

総門

香取神宮の境内は南東向き。

一の鳥居は境内の南側にあるようです。こちらは二の鳥居で、石造明神鳥居。扁額は「香取神宮」。

 

鳥居の先には神門。

三間一戸、八脚門、切妻、正面軒唐破風付、銅板葺。

 

柱は、前後の控柱は面取り角柱、中央部の主柱は円柱が使われています。

柱上は舟肘木。

頭貫や虹梁の上の中備えは、蟇股。

頭貫には、鯖尾状の角ばった木鼻がついています。

 

内部は天井がなく、化粧屋根裏。

外観はふつうの切妻屋根ですが、内部は切妻の屋根裏が前後に2つならんだ構造となっています。

柱と舟肘木の上には梁がわたされ、その上では板蟇股が棟木を受けています。

 

神門の左右の屋根。こちらは向かって左のもの。

切妻、銅板葺。

こちらも前後の控柱は角柱で、中央の主柱は円柱です。

ただし内部はふつうの切妻の化粧屋根裏となっていました。

 

勅使門

二の鳥居向かって右手には勅使門(ちょくしもん)が西面しています。

一間一戸、四脚門、切妻、茅葺。

1781年(天明元年)造営。県指定有形文化財*1

 

柱はいずれも角柱。

柱の配置的に、四脚門に近い構造となっています。

 

内部の扁額は「神徳報」。

手前の梁の上には、蟇股や平三斗が置かれています。

 

向かって左手前の控柱。

面取り角柱が使われ、柱上は連三斗。側面には象鼻が付き、巻斗を介して組物を持ち送りしています。

 

向かって右の妻面を内部から見た図。

虹梁の上には笈形付き大瓶束。

 

手水舎と境内社

神門の先には手水舎。

切妻、銅板葺。

 

正面向かって左の柱。

柱はいずれも面取り角柱。側面には波の意匠の木鼻。

柱上には彩色された出三斗。

 

頭貫の中備えは蟇股。はらわたの彫刻は波。

蟇股の上に巻斗が2つ乗り、実肘木を介して軒桁を受けています。実肘木も、両端に波の意匠があります。

 

内部。写真右が正面側、左が背面側。

背面側には2本の控柱が添えられ、正面側は柱2本、背面側は柱6本で、つごう8本の柱が使われています。風変りな造りです。

 

妻虹梁の上には笈形付き大瓶束。

束の根元の結綿や、左右の笈形は、波の意匠。

 

神門の先は参道がクランク状に折れ曲がり、神門から楼門までの参道は東西方向に伸びています。

訪問時は七五三と菊祭りの期間中でした。

 

こちらは境内西端にある末社2棟。

左は天降神社、右は市神社。

2棟とも、一間社流造、板葺型銅板葺。見世棚造。

 

向かって左の天降神社。

向拝柱は糸面取り角柱。柱上の舟肘木は、正面側が黒く彩色されています。

 

母屋柱は円柱。柱上は舟肘木。

破風板の拝みには蕪懸魚。

向かって右の市神社も同様の造りでした。

 

こちらは楼門の近くにある末社、諏訪神社。

天振神社や市神社と同様の造りです。

 

楼門

参道を進むと、楼門が南向きに鎮座しています。

三間一戸、楼門、入母屋、銅板葺。

1700年(元禄十三年)造営。後編で述べる本殿とともに、「香取神宮 2棟」として国指定重要文化財

 

下層。

正面3間で、うち1間が通路(三間一戸)。

左右の柱間の内部に置かれている神像は、右が武内宿禰、左が藤原鎌足らしいです。

 

中央の通路部分の柱間。

頭貫の上には蟇股が置かれ、菊の花の彫刻が入っています。

 

向かって右の柱間。蟇股の彫刻は梅。

飛貫と頭貫のあいだの欄間には、緑色の連子が入っています。

柱はいずれも円柱で、組物は二手先。

 

右側面。

こちらにも、彫刻の入った蟇股があります。

 

上層。扁額は「香取神宮」。東郷平八郎の揮毫とのこと。

見づらいですが、柱間は板戸や連子窓が使われています。

軒裏は二軒繁垂木。

 

柱は円柱。頭貫木鼻はありません。

組物は尾垂木三手先。中備えは間斗束。

 

背面の全体図。

左右には回廊がつながっています。

 

背面向かって右側(楼門西側)の回廊。

切妻、銅板葺。

 

柱は円柱。柱上は大斗と舟肘木。

柱間には虹梁がわたされ、板蟇股で棟木を受けています。内部は化粧屋根裏。

外側の柱間には、緑色の連子窓が張られています。

 

回廊の折れ曲がった部分。

軒先のぶつかる部分は、隅木のような部材をはさむことで処理しています。

 

回廊の西側。

写真奥の神饌殿の近くまで伸びています。

 

反対側(楼門東側)の回廊。

こちらの回廊も同様の造りをしていますが、西側よりも規模が短くなっています。

 

回廊の妻壁。

妻飾りは豕扠首。拝みには猪目懸魚。

 

勅使門と楼門などについては以上。

後編では、本殿、神饌殿、祈祷殿などについて述べます。

*1:2022/03/18指定