今回は長野県千曲市の波閇科神社(はべしな-)について。
波閇科神社は上山田温泉の南部の山際に鎮座しています。
更級郡(さらしなぐん)に11社ある延喜式内社の1つと比定される古社。ヤマトタケルがこの近くの峠にアマテラスを勧請したという伝説があり、江戸中期までは百科大明神と呼ばれたようです。
社殿については大規模な茅葺の神明造本殿があります。さほど古くはないものの、古式かつ正式な神明造を踏襲しており、式内社に列するにふさわしい風格をそなえています。
現地情報
所在地 | 〒389-0822長野県千曲市上山田3503-イ(地図) |
アクセス | 戸倉駅から徒歩40分 更埴ICまたは坂城ICから車で20分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 10分程度 |
境内
参道と社殿
波閇科神社の境内は南向き。
鳥居はわずかに反りのついた神明鳥居で、銅板の屋根がついています。
鳥居の扁額と社号標は「波閇科神社」。
参道の右手には神楽殿。寄棟、鉄板葺。
正面側はなぜか左のほうに柱があり、完全な吹き放ちになっておらず、左右非対称の造り。
拝殿は、入母屋、茅葺型鉄板葺。
向拝はありません。扁額は「波閇科神社」。
白い幕には五三の桐と菊の紋がありますが、大棟と賽銭箱の紋は三つ巴。
本殿
拝殿の裏には覆いがかかった本殿が鎮座しています。
本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社神明造、茅葺。
1813年(文化十年)造営*1。市指定有形文化財。
神明造の本殿は正面(桁行)や側面(梁間)を減らした略式のものが多い中、この本殿は正面3間・側面2間の構造をした正式な神明造。国宝の仁科神明宮(大町市)と同じ構造です。
一方、たいていの神明造は正面の扉が1組だけであるのに対し、この本殿は扉が3組あります。そしてそれに合わせて正面の階段も左右に長いものとなっています。この扉と木階が波閇科神社本殿の最大の特徴でしょうか。
祭神は神明造なのでアマテラス。その左右にはヤマトタケルとトヨウケビメが祀られているとのこと。
屋根には鰹木と千木。千木は先端が水平にカットされた外削ぎ。
千木は菱形の穴が開いており、破風板と一体化して屋根から突き出ています。
千木は屋根に「置かれる」ことが多いパーツですが、この本殿の千木のように破風板と一体化したものが千木として古式かつ正式なものです。
破風板からは鞭懸(むちかけ)という棒が突き出し、室外に立つ棟持柱が棟を受けています。これも正式な神明造の特徴。
江戸後期の神社本殿は派手な彫刻が施されることがよくありますが、神明造は古風な建築様式なので、彫刻や装飾などとは無縁の質素な外観です。軒下や妻壁を見ても、蟇股や木鼻のような意匠は一切ありません。組物も、舟肘木さえありません。
縁側は、壁面と直交に板を張った切目縁(きれめえん)が正面と左右の計3面にまわされています。欄干はなし。
さすがに江戸後期の造営なので、母屋柱は「床上は円柱だが床下は八角柱」となっており、見えにくい床下の成形を簡略化してありました。
最後に本殿全体の俯瞰図。
本殿は神明造として正式かつ大規模なだけでなく、茅葺が維持されている点がすばらしいです。素朴で格調高い古式の神明造は貴重だと思います。
以上、波閇科神社でした。
(訪問日2020/04/14)
*1:棟札より