甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲良町】甲良神社(尼子)

今回は滋賀県甲良町尼子(あまご)の甲良神社(こうら-)について。

 

甲良神社は田園地帯に面した住宅地に鎮座しています。

創建年代は不明。社伝によると高良大社(福岡県久留米市)から勧請されたとのこと。社記によると治暦年間(1065-1069)に甲良荘の総社となったらしく、その頃には確立されていたようです。幕末までは松宮大明神、高良大明神などと呼ばれていて、明治時代に現在の社号に改められました。

現在の主要な社殿は明治以降のもの。本殿の脇に鎮座する権殿(旧本殿)は江戸前期のもので、国の重要文化財に指定されています。また、当地は室町後期に山陰地方で活躍した大名家・尼子氏の出身地です。

 

現地情報

所在地 〒522-0242滋賀県犬上郡甲良町尼子1(地図)
アクセス 尼子駅から徒歩15分
彦根ICから車で15分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

拝殿

甲良神社の境内は南西向き。

入口の鳥居は石造の神明鳥居。

右の社号標は「甲良神社」。

 

参道左手には手水舎。

切妻、桟瓦葺。

 

柱は角柱、柱上は舟肘木。

妻虹梁の上は豕扠首。

 

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

参道の先には拝殿。

入母屋、銅板葺。

柱間に建具がなく、すべての面が吹き放ち。また、縁側や床板がなく、神社ではめずらしい土間床となっています。

 

柱は円柱。柱上は舟肘木。

内部は折り上げ格天井。

 

側面と破風。

破風の妻飾りには、蟇股や虹梁大瓶束が見えます。

 

幣殿と本殿

拝殿の先には幣殿(拝所?)。

切妻、銅板葺。

神明造の意匠を多く取り入れた造り。

 

柱は円柱。柱上に組物や肘木はありません。

柱の上に梁が乗り、軒桁を受けています。

 

中央の柱の側面には、冠木が突き出ています。神明造というよりは、四脚門に近い造りに見えます。

 

破風板の拝みには鞭掛(4本の棒)。

大棟には棟覆板がかかり、千木と鰹木が乗っています。

 

幣殿の内部。拝殿と同様、こちらも土間床になっています。

賽銭箱と垂れ幕の紋は「平四つ目」。京極氏や尼子氏の紋です。

 

幣殿の拝所部分の奥には切妻(妻入)の廊下が伸び、最奥部の本殿につながっています。

本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社神明造、銅板葺*1

1883年(明治十六年)の造営と思われます。祭神は武内宿祢。

 

本殿の正面は廊下や板で隠れており、観察できず。

母屋柱は円柱。縁側は4面にまわされ、欄干は跳高欄。

 

母屋の外には棟持柱が立てられ、縁側の床板を貫通して上へ伸び、棟木を受けています。

側面は2間ですが柱間が狭く、神明造にしては腰高な印象。

 

大棟には千木と鰹木。

千木は屋根から突き出たタイプのもの。先端が水平にカットされたいわゆる女千木で、長方形の風穴があけられています。

鰹木は、紡錘形のものが8本。

 

本殿の両脇には境内社。

本殿と同じく、神明造、銅板葺。縁側は省略されています。

反対側(本殿向かって右)にある境内社も同様の造りでした。

 

権殿(旧本殿)

境内の北側、本殿向かって左手には、権殿(ごんでん)が鎮座しています。

 

桁行正面1間・背面2間・梁間1間、一間社流造、檜皮葺。

1634年(寛永十一年)造営*2国指定重要文化財

もとは当社の本殿として使われていた社殿で、1883年の新本殿の造営にともない現在地へ移されたようです。

 

向拝柱は几帳面取り(あるいは唐戸面取り)角柱。

組物は連三斗。向拝柱の側面に拳鼻が出て、皿斗を介して組物を持ち送りしています。

 

虹梁中備えは透かし蟇股。はらわた部分の彫刻は、欠損してしまっています。

 

向拝と母屋のあいだには、海老虹梁が渡されています。向拝側は組物の上から出て、母屋側は頭貫と組物のあいだの微妙な位置に取り付いています。

 

向拝の軒下には、角材の階段が7段。階段の下には浜床。

階段の欄干は、浜床にも伸びています。欄干の親柱は擬宝珠付き。

 

母屋の正面には桟唐戸(扉)が使われています。

扉の下には蹴込板がはめ込まれて、風変わりな造り。

 

蹴込板は左右2枚に分かれ、それぞれ格狭間が設けられています。格狭間の中には、若葉や唐草を図案化したと思しき彫刻が入っています。

 

扉の上の中備えは蟇股。樹種はわかりませんが、3輪の花の彫刻が入っています。

 

母屋の側面は横板壁。

縁側は切目縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

 

母屋柱は円柱。柱上の組物は連三斗。

頭貫には木鼻がつき、組物や海老虹梁を持ち送りしています。

 

反対側の木鼻と組物の詳細。

木鼻には、渦状の繰型がついています。海老虹梁を受ける木鼻(写真右)は細長い形状で、上に乗った巻斗は皿付き(皿斗)。

組物(連三斗)は、実肘木を介して軒桁を受けています。

 

側面。こちらも中備えは蟇股。

妻飾りは虹梁と大瓶束。

 

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

背面は2間。こちらは、中備えの蟇股がありません。

腰長押は、縁側の床板よりもかなり高い位置に打たれています。

 

権殿の周辺の境内社。上は稲荷神社、下は社名不明。

両社とも一間社流造、銅板葺。

 

以上、甲良神社(尼子)でした。

(訪問日2022/10/15)

*1:神明造はほとんどが桁行3間・梁間2間の三間社なので、省略して単に「神明造、〇〇葺」と表記するだけで充分かもしれない

*2:肘木の墨書より