今回は長野県長野市の戸隠神社(とがくし-)について。
戸隠神社は長野市北部の山間に鎮座しています。
長野市を代表する観光地の1つで、旧戸隠村の周辺に点在する多数の社殿のうちの5つが「戸隠神社五社」と呼ばれています。建築的な見どころはそれなりですが、奥社参道の杉並木をはじめ境内の雰囲気は良好で、予備知識がなくとも充分に楽しめる内容となっています。
当記事では前編として宝光社、火之御子社について解説していきます。
宝光社
宝光社(ほうこうしゃ)は戸隠の集落の中心部に鎮座しています。
急坂の車道の奥に参道があり、その奥にある社殿は戸隠5社の中でも最大級のものとなっています。
現地情報(宝光社)
所在地 | 〒381-4101長野県長野市戸隠2110(地図) |
アクセス | 信濃町ICから車で30分、または長野ICから車で50分 |
駐車場 | 20台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
所要時間 | 15分程度 |
参道
宝光社の参道は南向き。鳥居は木製の明神鳥居。
参道の右手には銅板葺の切妻の手水舎。
石段を200段ほど登った先に社殿があります。
参道の両脇に控えている狛犬は、頭が大きくややアンバランスなスタイル。
社殿
石段を登った先には宝光社社殿。
社殿は銅板葺の入母屋(妻入)。正面5間・側面7間、向拝は1間で軒唐破風(のき からはふ)付き。1861年(文久元年)の造営。
案内板(設置者不明)によると“寺院建築の様式を取り入れた権現造り”とのことですが、どうみても単純な入母屋です。拝殿・幣殿・本殿が一体になっている、という意味で“権現造り”と言っているのでしょうか?
神社建築としては異様に大規模で前後に長く、他社とは一線を画す巨体。神社と言うよりは寺院と言ったほうが合点が行きます。明治以前は宝光院と呼ばれる神仏習合の霊場だったようで、寺院と見紛うような社殿はこのときの名残のようです。
現在は純粋な神社となっており、祭神は天表春命(アメノウワハルノミコト)。
向拝の軒下には多数の彫刻。彫刻は北村喜代松という彫り師によるもの。
唐破風から垂れ下がる兎毛通(うのけどおし)は鳳凰。
唐破風の軒下。江戸末期らしい精緻な彫刻がびっしりと置かれています。
上のほうの彫刻は鶴と麒麟(?)。中央の中備えは龍。
向拝(正面の庇)を支える柱は、几帳面取りされた角柱。
角柱に付けられた木鼻は、正面側は唐獅子。隠れていて見えないですが、側面の木鼻は象です。
角柱と虹梁のあいだには、波の意匠の持ち送りもつけられています。
向拝と母屋のつなぎの個所は複雑な構成をしています。
太い梁の上に大瓶束(たいへいづか)が置かれ、その上に細い梁と小さな海老虹梁が渡されています。
大瓶束の上にも桁が通っていたり、大瓶束の母屋側(写真右側)のほうに象の木鼻がついていたりと、なかなか個性的でおもしろい構成だと思います。
母屋の柱は円柱。
軒裏は二軒(ふたのき)の繁垂木。軒先には積雪対策のため、つっかえ棒が立てられています。
組物は木鼻と尾垂木が突き出た出組で、梁や桁が一手先に持出しされています。
欄間にも多数の彫刻がありますが、ひとつずつ挙げているときりがないので割愛。
縁側は正面と左右の計3面にまわされていますが、側面は途中で途切れていました。床板は壁面と直交に張った切目縁(きれめえん)。欄干は擬宝珠付き。
縁側の床下はシンプルな腰組と束で支えられています。
背面の床下。
母屋の柱は円柱なのですが、礎石と長押のあいだのわずかな区間は八角柱になっていました。こんなわずかな区間だけ手抜きするくらいなら、全部を円に成形してもよかったのでは...?
この大きさの建物にしては意外と基礎が頼りなく、雪でぬかるんだ土の上に立っているせいもあって、こんな土台で大丈夫なのかと心配になってしまいます。
以上、宝光社でした。
火之御子社
火之御子社(ひのみこしゃ)は宝光社と中社の中間の道路沿いに鎮座しています。
境内も社殿も小規模で、戸隠5社でもスルーされがちな神社ですが、社名の由来となった「岩戸隠れ」の伝説のキーパーソンといえる神が祀られています。
現地情報(火之御子社)
所在地 | 〒381-4101長野県長野市戸隠2410(地図) |
アクセス | 宝光社から車で5分、または宝光社から徒歩20分 |
駐車場 | 3台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | なし(宝光社と中社が兼務) |
所要時間 | 5分程度 |
参道と社殿
火之御子社の境内は南向き。入口には石製の明神鳥居。
写真左は駐車場で、鳥居のすぐ手前は車道となっています。休日の昼はわりと通行量が多いので要注意。
社殿は鉄板葺の入母屋(妻入)。向拝なし。柱は角柱。
屋根には内削ぎの千木がありますが、このほかに目立つ装飾は見られず。
祭神はアメノウズメ。おかめや双体道祖神と同一視されることもある芸事の神。
神話での活躍についてはWikipediaに譲ることにしてここでは割愛。
軒裏は一重のまばら垂木。縁側は切目縁で跳高欄(はねこうらん)もついていますが、宝光社と同様に途中で途切れています。
背面側は特にこれといった意匠はありませんでした。
以上、火之御子社でした。