今回は長野県辰野町の矢彦神社(やひこ-)について。
矢彦神社は辰野町の国道153号線(遠州街道)沿いに、小野神社とともに並んで鎮座しています。
矢彦神社と小野神社は北小野(塩尻市)の集落の中にあり、社叢も共有しています。しかし矢彦神社は南小野(辰野町)の氏神だったため、社叢の南半分は辰野町の飛び地となっています。
社殿は神楽殿と拝殿が県宝に指定されており、名工・立川和四郎の手がけた豪壮な社殿を拝むことができます。
現地情報
所在地 | 〒399-0601長野県上伊那郡辰野町大字小野(地図) |
アクセス | 小野駅から徒歩15分 塩尻ICから車で15分 |
駐車場 | 小野神社境内北に10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道
矢彦神社の境内入口。
境内は小野神社と同じで東向き。鳥居の扁額は「矢彦社」。
なお、境内の南側(写真左のほう)にも境内の入口と鳥居があり、手水舎はそちらにありました。
境内に正面から入ると、巨大な神楽殿が建っています。
写真の右端と左端に立っているのは御柱。この境内には小野神社とあわせて計8本の御柱があることになります。
神楽殿は銅板葺の切妻(妻入)で、正面3間・側面4間。前方の2間は壁がなく吹き放ちで、柱はいずれも円柱。
1842年(天保十三年)の造営で、県宝に指定されています。
宮大工は2代目和四郎こと立川和四郎富昌(たてかわ わしろう とみまさ)。諏訪大社上社本宮の主要な社殿を造営した人物。
神楽殿の正面の妻壁と扁額。
しめ縄が吊るされた柱には、唐獅子の彫刻された木鼻が配置されています。立体的で迫力があり、まさに立川流の面目躍如たる造形。
背面。こちらにも唐獅子の彫刻があります。
唐獅子の上では平三斗(ひらみつど)の組物によって虹梁(こうりょう)が持出しされています。虹梁の上では、蟇股(かえるまた)と2つの大瓶束(たいへいづか)がさらに上の虹梁を受けており、その上にはまたも大瓶束があって大棟を受けています。
やや複雑な造りをしており、この地域の神楽殿として非常に大型のため、見ごたえがあると思います。
勅使門
神楽殿のすぐ後ろには、勅使門(ちょくしもん)があります。こちらも長野県宝。
勅使門は銅板葺の切妻(平入)で、正面1間・側面2間のいわゆる四脚門(よつあしもん)。柱はいずれも円柱。
ふつうの四脚門は前後の柱を角柱にするので、この門はちょっと変わった造りといえます。
拝殿と回廊
矢彦神社の拝殿(写真中央)は銅板葺の切妻(平入)で、正面に軒唐破風(のき からはふ)がついています。正面1間・側面2間。柱は円柱。
拝殿の両脇には切妻の回廊がついており、まるで諏訪大社下社の片拝殿のような社殿配置。
諏訪大社下社の社殿(幣拝殿と左右片拝殿)は諏訪造(すわづくり)という建築様式です。この矢彦神社の社殿はそれとは社殿の名称や形状がちょっとちがっていますが、矢彦神社も広義の諏訪造といっていいかもしれません。
拝殿の軒下。
虹梁の両端の木鼻には唐獅子と象の彫刻。虹梁の中央の彫刻は、波に鶴。
虹梁の上では三手先(みてさき)の組物で持ち出された桁が垂木を受けています。唐破風の中央から垂れる兎毛通(うのけどおし)は鶴の彫刻。
斜めから見上げた図。
側面にもびっしりと彫刻があり、妻壁では派手な笈形(おいがた)のついた大瓶束が大棟を受けています。
下社秋宮にも匹敵する圧倒的な情報量。
拝殿は回廊とともに1782年の造営で、長野県宝に指定されています。
案内板などに棟梁の名前は明記されていないですが、立川流とのこと。時系列的には、下社秋宮(1781年)の直後の造営です。2代目・和四郎は1782年生まれなので、おそらくこの社殿は初代・立川和四郎富棟(-とみむね)が中心になって造ったのでしょう。
こちらは左側の回廊。
二つの切妻がくっついてL字になった奇妙な造り。反対側の回廊は、これを左右反転させた構造です。
柱は円柱。貫のまわりには蟇股や拳鼻などの意匠が見られます。
本殿
本殿は4棟が並立。塀で囲われていて近づけないですが、窓の格子から覗き込めます。
いずれも一間社流造、銅板葺。見世棚造。
年代や棟梁などは不明。
祭神はタケミナカタの父・大国主と兄・事代主。ほか、タケミナカタと八坂刀女も祀られているようです。弥彦神社(新潟県弥彦村)の祭神である天香山命(あめのかごやまのみこと)も合祀されているようです。
以上、矢彦神社でした。
(訪問日2019/12/21)