甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【豊田市】猿投神社

今回は愛知県豊田市の猿投神社(さなげ-)について。

 

猿投神社は豊田市北部の山際に鎮座しています。

延喜式にも記載がある古社で、三河国(愛知県東部)の三宮でもあり、県内でも非常に高い格式を持った神社です。社殿はせいぜい江戸期のものと思われますが、独特な造りの拝殿や迫力ある中門などなど見どころの多い内容となっています。

 

現地情報

所在地 〒470-0361愛知県豊田市猿投町大城5(地図)
アクセス 豊田藤岡ICから車で5分
駐車場 20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 猿投神社
所要時間 10分程度

 

境内

参道

猿投神社の鳥居

猿投神社の境内や社殿は南向き。

写真は二の鳥居を北から見たもので、黄色く塗装された神明鳥居が道路脇に立っています。

 

猿投神社の総門

境内の入口には総門が建っています。

総門は銅板葺の切妻。屋根には千木と鰹木、破風板には4本の棒(鞭懸)があり、神明造(しんめいづくり)の本殿を模した造り。内部に天井はなく、化粧屋根裏となっています。

柱はいずれも円柱。柱や梁には太い木材がつかわれていて、神社建築としては異様なほどに豪快で力強い造りをしていると思います。

 

猿投神社の手水舎

総門をくぐって参道を進むと、左手に手水舎があります。式内社であり三宮でもあるので、しっかりと水が出ています。

手水舎は桟瓦葺の切妻。柱は角柱で、転び(内への傾き)がついています。こちらも化粧天井裏。

ほか、破風板の懸魚(げぎょ)や、虹梁(こうりょう)の蟇股(かえるまた)と木鼻が確認できます。

 

猿投神社の三の鳥居

こちらは三の鳥居。金属製の神明鳥居です。

総門からここまで100メートル弱くらいあり、この鳥居をくぐると社叢がひらけてようやく猿投神社の主要な社殿が現れます。

 

拝殿

猿投神社拝殿

猿投神社の境内の中央には妻入の社殿が鎮座しています。こちらは神楽殿ではなく拝殿

拝殿は銅板葺の切妻(妻入)で、正面3間・側面5間。壁はなく、全方向が吹き放ち。

中央の通路(?)は幅が広く天井が高くなっており、柱は円柱が使われています。それに対し、左右の通路は角柱が使われています。

 

猿投神社拝殿

中央の通路の内部は格天井になっており、舟肘木のついた束で天井が支えられています。

妻壁には虹梁が渡されており、その上の妻飾りには豕扠首(いのこさす)が使われています。

屋根裏の垂木は、二軒(ふたのき)のまばら垂木。

 

猿投神社拝殿の側面

右側から少し角度をつけて見た図。柱が整然と並ぶ様が格好良いです。

長手方向(上の写真では左右方向)に使われている桁・貫・長押は、この長さの木材をいくつも調達するのはさすがに難しいため、2本の木材を途中で継いでいました。

縁側は前後左右の4面にまわされた切目縁(きれめえん)で、欄干は跳高欄(はねこうらん)。

 

四方殿

猿投神社四方殿

拝殿の後方には、拝殿とよく似たシルエットの屋根を持つ社殿があります。こちらは四方殿というようです。

四方殿は銅板葺の切妻(妻入)。正面1間・側面1間。柱は角柱で、わずかに転びがついています。

屋根裏は二軒の繁垂木。

 

猿投神社四方殿の妻壁

妻飾りは非常に凝った造り。

木鼻のついた虹梁の上には一手先の出組が並び、持ち出された梁の下には支輪があります。その上では出三斗が並んで虹梁を受けており、波の意匠の笈形(おいがた)のついた大瓶束(たいへいづか)が棟を受けています。

 

猿投神社四方殿の天井

拝殿と同様、内部は格天井。

内側にも組物がありますが、こちら側は出三斗と実肘木を組み合わせただけの比較的シンプルなもの。

 

太鼓楼

猿投神社の太鼓楼

拝殿の右隣は、桟瓦葺の入母屋の太鼓楼。文字どおり太鼓が置かれています。

1間四方で、柱は「1階が八角柱、2階が円柱」といった構成になっています。また、1階部分の貫には木鼻が付いておらず木口が露出しているのに対し、2階部分の貫には木鼻が付けられています。

屋根裏は一重のまばら垂木。縁側は跳高欄付きの切目縁。

 

中門

猿投神社中門

四方殿の後方にある社殿は中門と言うようです。

礼拝は拝殿ではなく、この中門の前で行います。

中門は銅板葺の切妻(平入)、正面に軒唐破風(のき からはふ)。おそらく四脚門(よつあしもん)です。

 

写真左のほうにある奉納品は、絵馬ではなく「左鎌」。案内板(設置者不明)によると主祭神である大碓皇子が左利きだったことに因むそうです。

日本神話に左利きの神がいるとは初耳だったのでウェブで調べてみたのですが、猿投神社に関するページしか見つからなかったので、大碓皇子が左利きだというのはここだけの俗説でしょう。

 

猿投神社中門の軒下

中門の軒下を見上げた図。

屋根裏は二軒の繁垂木。弓形にカーブした唐破風の中央には、竜が彫刻された兎毛通(うのけどおし)がついています。

手前の柱は角柱で、唐獅子と象が彫刻された木鼻がついています。虹梁の上の蟇股には鶴の彫刻。蟇股の上には支輪と虹梁が見えます。

内部には扁額が掛けられており「猿投大明神」とあります。柱は円柱か角柱か確認できず。

 

本殿と境内社

ここまで見どころの多い個性的な社殿が連続したので本殿にも期待がかかるところですが、猿投神社の本殿はあまり見どころないというか、下の写真のように屋根だけを遠目に眺めることしかできません

猿投神社本殿と境内社

写真中央の左奥にわずかに見えるのが本殿で、本殿は銅板葺の神明造。おそらく三間社です。

造営年代は不明。祭神は前述した大碓皇子(おおうすのみこ)などの3柱ですが、サルタヒコや吉備武彦なども祀られているようです。

 

なお、右に写っている摂社も銅板葺の神明造ですが、こちらは一間社であり、本来の神明造には不要な庇が正面についています。

 

猿投神社の境内社

ほか、本殿の右のほうには多数の摂社が並んでいます。

左端は一間社の神明造、中央と右端は一間社の流造。いずれも銅板葺。

各社の社名(祭神)については瑞垣の木札に書いてあったのですが、記録を取り忘れていたためあえなく割愛…

 

境内については以上。

猿投神社には重要文化財が何点かあるようですが、いずれも刀剣などの宝物・美術品で、建造物については特に文化財指定されていないようです。また、本殿もほぼ見えないうえ、地味な神明造です。とはいえ壁のない拝殿をはじめ、おもしろい社殿が多数あって建築好きも充分に満足できる内容だと思います。

 

以上、猿投神社でした。

(訪問日2020/02/08)