甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【茅野市】白岩観音堂(惣持院)

今回は長野県茅野市の惣持院(そうじいん)にある白岩観音堂(しろいわかんのんどう)について。

 

惣持院は茅野の中心市街地に鎮座しています。

寺院としての規模はさほど大きくはないですが、境内では初代和四郎こと立川和四郎富棟が初めて棟梁をつとめた白岩観音堂を拝むことができます。

 

現地情報

所在地 〒391-0002長野県茅野市塚原2-8-2(地図)
アクセス 茅野駅から徒歩5分
諏訪ICから車で10分
駐車場 20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

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茅野駅の西口(機関車と土偶が置いてあるほう)を出て市役所のほうへ向かうと、徒歩5分くらいの場所に惣持院の境内があります。

門柱には「高野山真言宗 白岩山 惣持院」。入口は冠木門になっています。

 

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門をくぐって境内を進むと、すぐに白岩観音堂が現れます。

白岩観音堂は1774(安永3)年の造営で、立川和四郎富棟(たてかわ わしろう とみむね)の初作とのこと。和四郎富棟は諏訪大社下社秋宮や静岡浅間神社などを造営したことで知られ、宮大工の一大流派である立川流の祖となった名工です。

観音堂の左手には白岩観音護持会による設置の「白岩観音堂修理記念碑」という石碑があり、建築について詳細な解説が書かれています。

私の解説よりも「白岩観音堂修理記念碑」のほうが正確かつ厳密なので、以下は碑文からの引用をメインにして、私は補足でコメントするだけにしておきます。

 

まず、建築様式については

桁行三間梁間三間、入母屋造向拝一間に軒唐破風をつけ、屋根は銅板葺である。

銅板葺の入母屋(平入)、正面3間・側面3間、向拝は1間で軒唐破風(のき からはふ)付きとのこと。

 

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母屋については、

四周に切目縁をまわし、正面一間を桟唐戸とし、その左右と両側面前方二間を蔀戸とする。

切目縁というのは、壁と直行する向きに板を貼った縁側のこと。

桟唐戸(さんからど)というのは両開きの板戸のことで、正面の中央部についている建具が桟唐戸です。その両脇や建物側面についている格子状の建具が(しとみ)で、跳ね上げるようにして開きます。跳ね上げた蔀は上から金具で吊り上げて固定するのですが、この観音堂にそれらしい金具は見られませんでした。

 

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観音堂背面の軒下。

軸部は円柱に足堅め切目縁長押、内法長押、内法貫、頭貫を回し、胴羽目板で固め、軒は和様三手先の組物で丸桁を受け、支輪は雲の彫刻とし、二重扇垂木である。

母屋の柱はいずれも円柱。これは寺社建築のセオリーです。

長押(なげし)は柱を外から打ち付ける水平材のことで、写真に写っているのは内法長押(うちのりなげし)です。また、貫(ぬき)は柱を貫通する水平材のことで、写真に写っているのは内法貫(うちのりぬき)と頭貫(かしらぬき)。

ここで言っている羽目板というのはおそらく壁板のことで、水平方向に板が張られています。これは和様の寺社建築のセオリー。

柱の上に配置されている組物は三手先(みてさき)というタイプのもので、この組物で支輪(しりん)と丸桁(がぎょう)を大胆に持出ししています。

そして屋根裏は垂木が放射状にのびる扇垂木(おうぎだるき)。扇垂木は禅宗様の寺院建築の意匠で、純粋な和様の建築では採用されません。なのでこの観音堂は折衷様でしょうか?

 

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正面の軒下を右前方から見た図。

向拝は角柱几帳面取りで、身舎と海老虹梁でつなぎ、正面虹梁上の蟇股に龍の彫物をおく。柱の木鼻は正面に唐獅子、側面に獏の彫刻をつけ、唐破風の懸魚は菊、万寿壁に鳳凰、手挟に波に雲を施している。

前述した母屋の柱は円柱でしたが、この部分だけは角柱が使われています。これも寺社建築のセオリー。なお、几帳面というのはここの角柱の面取り(角の部分の処理)のことをいい、丁寧な様子を指して言う「几帳面」の語源です。

上の写真の彫刻の配置は「正面に唐獅子、側面に(バク)」とのことですが、牙があったり耳が垂れていたりするので、獏ではなく象だと思います。

 

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向拝を右側から見上げた図。

母屋(身舎)と向拝をつなぐ曲線的な部材が海老虹梁(えびこうりょう)。

向拝の垂木を受けている手挟(たばさみ)は「波に雲」。籠彫(かごほり)という立体的な彫刻になっています。

 

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最後に向拝の虹梁部分のアップ。

前述のとおり蟇股に龍、その上の小壁に鳳凰が配置されています。

 

以上、白岩観音堂(惣持院)でした。

(訪問日2019/10/13)