甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【府中市】高安寺

今回は東京都府中市の高安寺(こうあんじ)について。

 

高安寺は市の中心部に鎮座する曹洞宗の寺院です。山号は龍門山。

前身にあたる見性寺は、平安時代に藤原秀郷により開かれたとのこと。分倍河原の戦い(1333年)では新田義貞が当地に本陣を置き、南北朝の騒乱で荒廃しました。

高安寺の創建は室町時代。初代将軍・足利尊氏によって改宗されて建長寺(臨済宗)の末寺となり、安国寺として隆盛しました。しかし地勢的・軍事的な要衝にあったため幾度となく戦乱に巻き込まれ、戦国期は北条氏の庇護を受けましたが荒廃しています。江戸時代には海禅寺(青梅市)の末寺となり、曹洞宗に改めました。

現在の境内伽藍は江戸後期から明治にかけて再建されたもの。観音堂が市指定文化財、独特な構造の山門などが都選定歴史的建造物となっています。

 

現地情報

所在地 〒183-0021 東京都府中市片町2-4-1(地図)
アクセス 分倍河原駅から徒歩5分
稲城ICまたは府中スマートICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

境内

観音堂

高安寺の境内は東向き。

境内は大國魂神社の北西に鎮座し、入口は北側にあります。

 

境内入口には六地蔵と総門(高麗門)。

総門は、一間一戸、高麗門、切妻、銅板葺。

扁額は「武野禅林」。

 

山門の手前を横切って進むと、境内の南東に観音堂が東面しています。

桁行3間・梁間3間、入母屋、向拝1間、銅板葺。

享保年間(1716~1736)の再建とのこと(府中市教育委員会の案内板より)。

 

向拝は1間。

軒下は、江戸中期らしい白木の彫刻で飾られています。

 

向拝柱は几帳面取り。

正面には唐獅子、側面には象の木鼻。

柱上の組物は、連三斗を拡張したもの。

 

虹梁中備えは蟇股。

カササギと思しき鳥のつがいが彫られています。

 

海老虹梁は母屋の頭貫の位置から出て、向拝の虹梁の位置に取り付いています。向拝側は木鼻と斗栱で持ち送りされています。

向拝柱の上では手挟が軒裏を受けています。

縋破風の桁隠しには猪目懸魚。

 

母屋の前面。扁額は「観世音」。

中央は桟唐戸。左右は火灯窓。禅宗様の意匠です。

 

側面は、引き戸と横板壁が使われています。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

 

柱は円柱で、上端が絞られています。

軸部は長押と頭貫で固定され、柱上に台輪が通っています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は、禅宗様の尾垂木二手先。柱間にも組物が並んでいます。

 

軒裏は扇垂木の二軒繁垂木。

分類するなら折衷様建築かと思いますが、かなり禅宗様の割合の多い折衷様です。

 

山門

参道に戻って進むと、山門が鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、三間一戸、二重、楼門、入母屋、銅板葺。

1872年再建。

 

正面側面(桁行と梁間)が各3間という、非常にめずらしい構造の山門

正面のシルエットはふつうの二重楼門と変わりないですが、側面に特徴があります。

 

まずは下層の正面から。

左右の柱間には仁王像。仁王門と呼んでも差し支えないでしょう。

 

柱は円柱で、前面には彫刻の木鼻がついています。

柱上には台輪がまわされ、組物は三手先。柱間にも組物があります。

 

彫刻は遠目に見ると獏のようなシルエットですが、近くで見ると雲をまとった天女が彫られています。トリックアートの一種といったところでしょうか。

 

隅の柱。

こちらも天女が彫られています。遠目には見返り唐獅子に見えます。

 

そしてこちらが問題の側面。上の写真は右側面(北面)です。

側面は3間あり、中央の柱間が通路になっています。つまり、門の内部は前後方向の通路と左右方向の通路が、十字に交差しています。

 

梁間(側面)2間の四脚門・八脚門タイプの楼門はありふれていますが、このような梁間3間の楼門は、私の知るかぎりほかに例がありません。分類不能の建築様式です。

 

上層の正面。扁額は山号「龍門山」。

柱は円柱。柱間は桟唐戸と連子窓。

木鼻は、遠くて目立たないからか、ふつうの象鼻が使われています。

組物は和様の尾垂木三手先。

軒裏は二軒繁垂木。下層は平行垂木ですが、上層は扇垂木です。

 

上層も側面3間。

柱間は格子戸。

破風板の拝みには鰭付き蕪懸魚。

 

背面。

各所の意匠は正面と同様。

下層背面にも仏像が置かれています。

 

鐘楼と本堂

参道左手には鐘楼。

宝形、銅板葺。下層袴腰。

1856年造営。

 

柱は円柱。木鼻は竜の頭の彫刻。

組物は和様の尾垂木二手先。

 

内部に吊るされた鐘は、江戸幕府の認可を受けた「時の鐘」とのこと。

1858年改鋳。明治以降も伝統に則って朝昼夕に鐘を撞いているようです。

 

境内の奥には本堂が鎮座しています。

寄棟、銅板葺。

1803年(享和三年)再建。

本尊は釈迦如来。

 

案内板によると、内陣の組物周辺に特徴があるとのこと。

 

正面中央の扁額は「等持院」。当寺を開山した足利尊氏の戒名に由来するようです。

ほか、本堂周辺には「弁慶硯の井」なるものがあるらしいですが、見逃したため割愛。

 

以上、高安寺でした。

(訪問日2022/03/12)