甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【駒ケ根市】光前寺 前編(仁王門、三門、鐘楼)

今回は長野県駒ケ根市の光前寺(こうぜんじ)について。

 

光前寺は駒ケ根市東部に鎮座する天台宗の寺院です。山号は宝積山。

創建は860年(貞観二)とされていますが、織田氏の甲州征伐などを受けて記録を喪失しているため詳細不明。江戸期には幕府からの庇護を受けていたようです。

現在の主要な伽藍(本堂や三重塔など)はほとんどが江戸後期のものですが、弁天堂は室町期のものであり国重文に指定されています。ほか、ヒカリゴケや杉並木、そして霊犬早太郎の伝説などなど充実した内容で、南信地方はむろんのこと信州屈指の規模の名刹です。

 

当記事ではアクセス情報および仁王門などについて述べます。

本堂、三重塔および国重文の弁天堂については後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒399-4117長野県駒ヶ根市赤穂北割二区29(地図)
アクセス 小町屋駅から徒歩1時間
駒ヶ根ICから車で3分
駐車場 100台(無料)
営業時間 随時(庭園は09:00-16:30 冬季09:00-16:00)
入場料 無料(庭園は有料 500円)
寺務所 あり
公式サイト 光前寺 公式ウェブサイト
所要時間 30分程度

 

境内

仁王門

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光前寺の境内は東向き。

市街地から若干離れた山際に立地していますが、高速ICのすぐ近くのため自家用車でのアクセスはきわめて良好。

 

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仁王門は三間一戸の八脚門、切妻、桟瓦葺。造営年は不明。

扁額は山号「寶積山」。

内部の仁王像は室町後期の作で、駒ケ根市指定有形文化財。

 

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柱はいずれも円柱。上端が絞られ、粽になっています。

柱の上部には頭貫が通り、木鼻はΣ形の独特なシルエット。

柱上の組物は出三斗と平三斗。

軒裏は一重のまばら垂木。

 

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内部は格天井。

貫の柱間には間斗束が立てられ、その左右には波のような意匠の笈形。

 

三門

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仁王門を通ると石畳の参道になり、参道の両脇は途中から杉並木に変わります。

参道脇の石積みの中にはヒカリゴケが生えているようですが、何度見てもよくわからないので割愛。

 

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三門は三間三戸の楼門、桁行3間・梁間2間、二重、入母屋(平入)、こけら葺。

1848年再建。

 

楼門は下層に屋根を設けず一重にする例がほとんどですが、この門は下層にも屋根がある二重楼門となっています。

また、3つある柱間のうち3つすべてが通路になっている(三間三戸)点も独特。

各所の意匠は禅宗様が多用されています。

 

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下層。

柱は円柱。上端がわずかに絞られています。

中間には虹梁がわたされ、中備えは蟇股。

柱の上部には頭貫、柱上には台輪がまわされ、頭貫と台輪に禅宗様の木鼻がつけられています。

組物は三手先。柱間にも組物が配置されています(詰組)。組物のあいだには巻斗。

 

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左側面(南面)。

側面の意匠は正面とほぼ同じ。ただし柱間には斜めの格子の欄間が張られています。

下層の軒裏は二軒の平行繁垂木。

 

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上層。

大部分は下層と同じ意匠ですが、こちらはすべての柱間に建具がついています。

縁側は切目縁。欄干は擬宝珠付き、縁の下には腰組。

柱の上部には長押が打たれ、組物は尾垂木三手先。

軒裏は二軒の扇垂木。

 

写真には写っていないですが、正面の柱間は中央が桟唐戸、左右が連子窓でした。

 

鐘楼

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参道からはずれて左手(南側)へ行くと鐘楼があります。

切妻、本瓦葺。造営年不明。

 

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柱は円柱。上端が絞られています。柱上の組物は大斗で、隣の大瓶束と肘木を共有しながら桁を受けています。

柱間には虹梁がわたされ、木鼻は古風な造形のものが使われています。

虹梁の下部には角柱(控柱?)が立てられ、その真上には大瓶束。

虹梁中備えはシンプルな蟇股。

 

他寺院の鐘楼では見かけない、ちょっと風変わりな造り。

とくに大瓶束と肘木の使いかたがおもしろいと思いました。

 

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妻壁。

各部の意匠は平側・妻側ともに同じですが、こちらは妻飾りに豕扠首があります。

軒裏は一重の繁垂木。

 

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足元の貫にも木鼻。

 

仁王門、三門、鐘楼については以上。

後編では弁天堂、本堂、三重塔について紹介・解説いたします。