甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【米原市】坂田神明宮

今回は滋賀県米原市の坂田神明宮(さかた しんめいぐう)について。

 

坂田神明宮は坂田駅北側の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。伊勢神道の『倭姫命世記』によると垂仁天皇*1八年とのことで、伊勢神宮の祭神が2年ほど当地に祀られていたのが由来とされます。平安時代には確立されていたようで、『延喜式』に「岡神社」と記載されています。伊勢神宮の御厨が置かれ、「元伊勢」として信仰を集めたようです。

鎌倉以降は戦乱で荒廃したようで、室町時代には佐々木秀綱が、安土桃山時代には片桐且元が社殿を再建していますが、どちらも現存しません。江戸時代には彦根藩の崇敬を受け、1733年(享保十八年)に8代藩主・井伊直惟によって再建されました。

境内は北陸本線によって東西に分断されています。西側には桧皮葺の拝殿のほか、明治時代に造られた神明造の本殿が2棟並立しています。

 

現地情報

所在地 〒521-0062滋賀県米原市宇賀野835-2(地図)
アクセス 坂田駅から徒歩3分
米原ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

参道

坂田神明宮の境内は南向き。境内は鉄道で分断されていて、その東側はさらに生活道路で分断されています。

一の鳥居は境内の最東端に、北向きに立っています。石造の神明鳥居。

左の社号標は「式内岡神社」。

 

生活道路を横断して水路をわたると、境内の中央部分に入ります。

水路には太鼓橋がかかっています。

 

二の鳥居は東向きに立っています。こちらも石造の神明鳥居。

 

二の鳥居の左手前には手水舎。

入母屋、桟瓦葺。

 

手水舎の軒下。

蟇股、拳鼻が使われ、柱上は大斗と舟肘木。

 

参道の右手には、祖霊殿が東向きに鎮座しています。

神明造風の切妻。

 

立札の案内板に従って参道を進むと、警報機・遮断機をそなえた踏切があります。

境内に鉄道が通っていて踏切があるのは、久世神社(京都府城陽市)と似ています。

 

拝殿

踏切を渡って境内西側へ入ると、拝殿と本殿が南向きに鎮座しています。

拝殿は、入母屋、正面軒唐破風付、檜皮葺。

造営年不明。

 

破風の中央に下がる兎毛通は、蕪懸魚をアレンジした意匠。

唐破風の小壁には、大瓶束が立てられています。

 

柱は面取り角柱。柱上は舟肘木。

柱間に中備えなどの意匠はありません。

軒裏は一重のまばら垂木。

 

背面には軒唐破風がありません。

柱間の建具は蔀。

大棟には千木と鰹木。千木は内削ぎ(先端が水平にカットされたもの)で、いわゆる女千木。鰹木は5本あります。

 

本殿

境内の北西には本殿が鎮座しています。こちらは本殿の手前の幣殿(拝所)。

切妻、銅板葺。

 

柱は円柱。前面は吹き放ちになっています。

中央の扁額は「坂田神明宮」。

 

破風の拝み。

大棟には覆い板が乗り、破風板には鞭掛(4本の棒)が突き出ています。

棟持柱はないですが、神明造の意匠が盛り込まれています。

 

塀の内側には2棟の本殿が並立しています。こちらは向かって左の外宮(げくう)。

一間社神明造、銅板葺。

1891年(明治二十四年)造営*2

祭神はトヨウケ。

 

正式な神明造は正面を3間(三間社)とするため、この社殿は神明造としては簡略的な造り。

 

幣殿と同様、棟に覆い板がつき、破風の拝みから鞭掛が出ています。室外には棟持柱が立てられています。

大棟の千木は外削ぎ。鰹木は5本乗っています。

 

向かって右は内宮(ないくう)。

外宮と同じく、一間社神明造、銅板葺。1891年造営。

祭神はアマテラス。

 

大棟の千木は内削ぎ。鰹木は6本。ほかは外宮と同様の造り。

本殿の側面や背面にはまわり込めなかったため、細部は割愛。

 

幣殿左手には、旧社殿が東向きに並んでいます。

 

旧社殿は2棟あります。両者とも、一間社流造?、銅板葺。

切妻(神明造)の正面の軒を無理やり伸ばしたような形状。母屋の大きさの割に、小屋組と屋根が妙に高く、アンバランスな感が否めません。

 

以上、坂田神明宮でした。

(訪問日2022/06/25)

*1:11代天皇。3世紀から4世紀にかけての天皇と推定されるが、実在したかどうかは不明。

*2:境内の案内板(設置者不明)より。