今回は福井県の観光地ということで、大瀧神社・岡太神社(おおたき-・おかもと-)について。
大瀧神社・岡太神社は越前市の山際に鎮座している神社で、紙の神として知られています。この2社は奥の院こそ別々ですが、下宮は1つの社殿を共有しています。
そして最大の特徴は、あまりにも独特な構造の社殿。その異様な外観は、一度見たら忘れられないほどに強烈なインパクトがあります。
当記事では、例を見ないほど複雑な異形の社殿について、今までの私の知見をフルに活かして考察・解説して行きます。
現地情報(下宮)
所在地 | 〒915-0234福井県越前市大滝町13-1(地図) |
アクセス |
武生駅から徒歩2時間 武生ICから車で20分 |
駐車場 | 5台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 20分程度 |
境内
参道
境内は玉垣に囲われており、正面の入口には赤い鳥居が立っています。
扁額には「大瀧神社 岡太神社」と2社が併記されています。
瓦葺の手水舎の前を過ぎると、塀と門に囲われた石垣があり、その直前で参道が折れ曲がっています。
門
門を正面から見た図。門は銅板葺の切妻(平入)で、唐破風付き。垂木は二重。
門の向こうに異様な存在感を放つモノが見えますが、この門もちょっと変わっていて、正面だけでなく裏面にも唐破風が付いています。
門を裏面から見た図。
柱は全て円柱で、懸魚、蟇股、組物、拳鼻などの意匠が見て取れます。
拝殿・本殿の概要
ここから主題の拝殿・本殿の話題に移ります。
上の写真は、門の中から見た拝殿で、軒下には精緻な彫刻がびっしりと並んでいます。いつもならこの辺からウンチクを垂れ始めるところなのですが、今回はちょっと事情があり、そんなことをしている場合じゃないので、後回しにします。
この写真だけだとただの小さい拝殿にしか見えないので、別アングルから見てみましょう。
...!?
(絶句)
おわかり頂けたでしょうか...?
失礼を承知の上で言いますが、狂気の沙汰と言わざるを得ません。
どうしてこうなった! なぜこんなになるまで放っておいた?! わけがわからないよ。これを設計した人、許可した人、造った人、全員正気じゃない... まともなやつが1人くらい居なかったのか?! そうじゃなかったらこんな社殿にはならないだろ!
しかし、これを見るために片道4時間の道程を経てわざわざ福井まで来た私も、この狂気に共鳴してしまった人間のひとりなのです...
この社殿についてはウェブで画像を見て知っていましたが、いざ実物を見ると感動極まって笑いがこみ上げてきました。撮影した写真を、記事の執筆のために見返している今でも笑えてきます。こんな奇妙奇天烈な社殿が他にあるでしょうか、いや、無い(反語)。
個人的な感想はこの辺にして、以下からはこの複雑怪奇な社殿を真面目に解説していきたいと思います。“思います”と書いたのは、本当に解説しきれているか非常に不安だからです...
拝殿・本殿の構造
左側面から見下ろした図。
この社殿の建築様式を読み解くためには、まず拝殿と本殿を分けて考えましょう。
上の写真の右側が拝殿、左側が本殿で、簡単に言えば2つの社殿の屋根が前後にくっついただけです。
拝殿・本殿が一体になった社殿は別に珍しくないし、もっと複雑にくっついているものだってあります。あちこちに装飾や彫刻があるせいで、複雑に見えるだけでしょう。
左前から見た図。
右手前の拝殿を見ると、屋根は大棟が前後方向に走っており、妻入です。
軒下の垂木を見ると、正面側には隅木があって、入母屋っぽい構造で唐破風の向拝(庇)に繋がっています。そして背面側は隅木も庇もなく、ただの切妻。これは、神社建築でメジャーな春日造(かすがづくり 厳密に言うと隅木入り春日造になる)という様式です。
左奥の本殿を見ると、屋根は大棟が左右方向に走っており、つまり平入です。
そして、正面側の屋根が長く伸びています。唐破風と千鳥破風(写真 青丸)を無視して冷静に考えてみれば、これは神社建築で最もありきたりな流造(ながれづくり)という様式です。
以上をまとめると、この社殿は「拝殿は春日造(隅木入り)、本殿は流造で、両者を前後に連結したもの」というのが私の解釈です。
答え合わせとして「文化遺産オンライン 大滝神社本殿及び拝殿」を確認したところ、
「本殿 桁行正面一間、背面三間、梁間四間、一重、流造、正面小屋根、 入母屋造、妻入、向拝軒唐破風付
拝殿 桁行二間、梁間一間、一重、入母屋造、妻入、向拝一間、軒唐…」
とのこと。あー、そーゆーことね、完全に理解した(わかっていない)。
ラーメン二郎とかスタバとかの注文コールみたいに長いですね。それに漢字ばっかりで、なんとなく中国語の文章にも見えるかも。
しかも、説明すべきことが多すぎて、文章が途中で切れて「...」になってしまっています。書いている人が途中で力尽きてしまったように見えなくもないです(適当)。
解読チーム(総勢1名)が総力を挙げてこの暗号を解いた結果、「拝殿は入母屋(妻入)、本殿は流造で、両者を前後に連結したもの」ということみたいです。私が出した解釈は、当たらずとも遠からずといったところでしょうか。
また、私が“唐破風と千鳥破風”と解釈した個所は、正しくは「入母屋(妻入)で向拝に軒唐破風のついた小屋根」とのこと。
以上の答え合わせから私の解釈を100点満点で自己採点するなら、せいぜい60点くらいでしょうか...? 小屋根の部分が入母屋(妻入)だと気づかなかった点が最大の減点要素ですね。
採点はともかく、拝殿・本殿の構造を大まかに解剖できたので、後編では2つの社殿のディテール(細部)を観察して行きます。
(文章量が膨大になってしまったため、後編に続きます)