今回も滋賀県彦根市の長寿院について。
当記事では本堂(弁才天堂)と阿弥陀堂について述べます。
本堂(弁才天堂)

境内の中心部には、大規模な本堂が鎮座しています。別名は弁才天堂。
権現造、本瓦葺。
1695年(元禄八年)造営。「長寿院弁才天堂」として国指定重要文化財*1。

南側の阿弥陀堂付近から見た図。
写真左の棟が礼堂、右奥の大きい棟が本堂で、本堂の前にある一段低い妻入りの棟が石の間です。
このように、拝殿(礼堂)と本殿(本堂)とのあいだを石の間でつないだ建築様式を、権現造(ごんげんづくり)といいます。なお、権現造は神社建築の様式であり、純粋な寺院建築とはいえません。権現造は天満宮(菅原道真)や東照宮(徳川家康)のような神仏習合の要素の強い祭神を祀る社殿(堂)に採用されることが多く、弁才天も神仏習合が顕著な祭神のひとつです。

礼堂部分。
桁行3間・梁間3間、入母屋造、向拝1間、軒唐破風付、本瓦葺。

正面の破風。
千鳥破風に見えますが、文化庁のデータベースの当該ページには“石の間の屋根は礼堂の棟をこえて破風をつくる”とあり、後述の石の間の切妻破風というあつかいらしいです。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。鰭は若葉の意匠。
奥の妻飾りは虹梁と大瓶束。虹梁の下の蟇股にはなんらかの獣の彫刻がありますが、遠くてよく見えず。

向拝の軒唐破風。
鬼板には竜の彫刻があります。
破風板の飾り金具は、宝珠の意匠の彫金。兎毛通は蕪懸魚で、菊の花のような形状の鰭がついています。

向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象の彫刻。
柱上は連三斗。

虹梁中備えは竜の彫刻。
その上の唐破風の小壁にも虹梁がわたされ、大瓶束で棟木を受けています。大瓶束の左右には鯉の彫刻。

海老虹梁は向拝の組物の上から出て、軒裏をかすめて母屋柱の頭貫付近に取りついています。母屋側は、麒麟の頭の彫刻が添えられています。
縋破風の桁隠しには懸魚があります。

母屋は正面3間。扁額は「大寶王」。
柱間は、中央が桟唐戸、左右は半蔀。

右側面。
側面も3間で、いずれも半蔀。
縁側は切目縁が4面にまわされています。欄干や脇障子はありません。

母屋柱は面取り角柱。柱上は舟肘木。
中備えの意匠はありません。

側面の入母屋破風。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。
金網がかかっていてほとんど見えませんが、妻飾りは虹梁と大瓶束が確認できます。

礼堂(写真右)と本堂(左)のあいだには石の間。
梁間3間・桁行3間、両下造、本瓦葺。
縁側はなく、内部は土間になっていると思われます。

側面は3間で、柱間は桟唐戸。
中央の柱間は低い位置に扉が設けられ、扉の上にはまばらな連子状の欄間が入っています。

柱は面取り角柱。軸部は貫や長押で固定されています。
柱上の組物は木鼻のついた平三斗。中備えはありません。
礼堂、石の間、本堂の3棟の軒裏が直交しており、石の間の軒裏は礼堂の軒裏とほぼ一体化しています。

石の間の後方には本堂。左側面(北西)には雪囲いが設けられています。
正面は5間ありますが、そのうち3間は石の間と接続しているため、見えるのは左右両端の各1間だけです。
正面の柱間には半蔀が入っています。

反対側の右側面(南東)から本堂を見た図。
本堂は、桁行5間・梁間4間、入母屋造、背面向拝1間、本瓦葺。


側面は4間。後方の1間は狭く造られています。
柱間は、半蔀、桟唐戸、横板壁となっていて、和様と禅宗様が混在しています。

母屋柱は円柱。
建具の上には長押が打たれ、長押の上の欄間には花狭間が張られています。
頭貫は花のような文様が描かれ、隅の柱には唐獅子の木鼻がついています。
柱上の組物は出組。中備えは蟇股で、植物の彫刻が入っています。

入母屋破風。
破風板の拝みには鰭付きの懸魚。
妻飾りは虹梁と大瓶束。

本堂背面には1間の向拝が設けられています。

向拝柱は四角い礎盤に据えられ、下端に飾り金具がついています。
向拝と母屋のあいだには角材の階段が5段。

向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象の木鼻。
柱上は連三斗。

向拝柱の上には雲状の手挟。
海老虹梁はありません。

虹梁中備えは蟇股。
造形がつぶれてしまい、題材がわかりません。

母屋背面は5間。
柱間は、中央が桟唐戸、その左右各1間が半蔀、左右両端の各1間が横板壁。


背面中央の桟唐戸の上には、花狭間の欄間があります。
こちらも頭貫に文様が描かれ、中備えに蟇股が配されています。


背面向かって左側。
こちらも頭貫木鼻や蟇股が使われています。
阿弥陀堂

本堂向かって右には阿弥陀堂が鎮座しています。
桁行5間・梁間5間、入母屋造、正面および左右両側面向拝1間、本瓦葺。
1695年造営。県指定有形文化財。

正面の向拝は1間。
虹梁には鰐口が下がり、中備えは透かし蟇股。

向拝柱は面取り角柱。側面には獏の木鼻。
柱上の組物は連三斗。

組物の上の手挟は、菊が籠彫りされています。
縋破風の桁隠しは猪目懸魚。

母屋正面は5間。
柱間は、中央が桟唐戸、左右各2間が半蔀。

右側面(南東面)。
側面も5間で、こちらも中央に桟唐戸があります。前方の2間は半蔀、後方の2間は横板壁。
中央の軒先には1間の向拝がつき、渡廊と思われる棟(写真右)につながっています。こちらの向拝は、正面のものとくらべて手挟や桁隠しの意匠が簡素です。

母屋柱は円柱。軸部は貫と長押でつながれていますが、頭貫に木鼻はありません。
柱上は舟肘木。中備えはありません。

左側面(北西面)。こちらにも向拝がついています。
背面には、向拝などの構造はないようです。

入母屋破風。
樹木の影になってしまいましたが、破風板の拝みと桁隠しに三花懸魚が下がり、妻飾りに二重虹梁が使われているのが確認できます。
本堂と阿弥陀堂については以上。
*1:附:棟札1枚