甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【江南市】曼陀羅寺 後編(本堂、曼陀羅堂)

今回も愛知県江南市の曼陀羅寺について。

 

前編では総門、地蔵堂などについて述べました。

当記事では本堂、曼陀羅堂や境内北側の塔頭について述べます。

 

本堂(正堂)

参道を進んだ先には、本堂が南東向きに鎮座しています。別名は正堂(しょうどう)。

桁行5間・梁間5間、入母屋、向拝1間 軒唐破風付、檜皮葺

1632年(寛永九年)再建。「曼陀羅寺正堂」として国指定重要文化財となっています*1

蜂須賀家政の寄進で再建されたもののようです。

 

向拝の唐破風部分。

軒桁の上にある小壁には板蟇股が置かれ、組物を介して唐破風の棟木を受けています。

唐破風の破風板に懸魚はありません。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は面取り角柱が使われ、側面に拳鼻がついています。

柱上の組物は連三斗。拳鼻の上に巻斗が乗り、連三斗を持ち送りしています。

 

南側(向かって左)の縁側から向拝を見た図。

向拝柱の組物の上では、繰型のついた手挟が軒裏を受けています。

虹梁中備えや海老虹梁はありません。

 

母屋は前方の1間通りが吹き放ちの空間となっており、床が縁側より一段高くなっています。

上は棹縁天井が張られています。

 

母屋の外周の柱。

面取り角柱が使われています。柱上に組物はなく、桁を直接受けています。

 

母屋の入側の柱。

こちらも面取り角柱が使われ、桁を直接受けています。

 

建具は母屋外周から1間奥の柱間に設けられています。正面中央は桟唐戸、ほかは舞良戸が使われ、その内側に障子戸が入っています。

桟唐戸の上の扁額は寺号「曼陀羅寺」。

 

左側面の軒裏。

軒裏は二軒まばら垂木。簡素かつ軽快な印象。

この堂は母屋部分に組物や中備えといった意匠がなく、どちらかといえば住宅風の造りをしています。

 

右側面全体図。

縁側は正面と左右両側面の計3面に切目縁がまわされ、擬宝珠付きの欄干が立てられています。

写真右端に見えるのは書院の入口で、この奥にある書院も重要文化財となっているようです。

 

破風板の拝みには蕪懸魚が下がり、入母屋破風の妻飾りは虹梁と大瓶束が使われています。

大棟には小さな切妻屋根が設けられ、箱棟となっています。

 

本堂向かって右手前には鐘楼。奥に見えるのは曼陀羅寺公園の藤棚と、ケヤキの大木。

鐘楼は、切妻、桟瓦葺。

 

曼陀羅堂

本堂向かって左側には曼陀羅堂が並立しています。

 

桁行5間・梁間4間、入母屋、本瓦葺、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

弘化年間(1844-1848年)の造営。市指定有形文化財。

 

正面の向拝。

虹梁中備えには竜の彫刻。その左右に出組が置かれ、桁を受けています。

軒桁の唐破風部分も虹梁となっており、中備えに笈形付き大瓶束が使われています。

 

向かって右の向拝柱を右側面(北東)から見た図。

向拝柱は几帳面取り角柱。側面に獏の木鼻がついています。柱上の組物は連三斗。

 

向拝を母屋側から見た図。

向拝柱の上の手挟には、牡丹と思しき花が籠彫りで造形されています。

虹梁中備えの組物の上の手挟は、繰型のついた平板な造形のもの。

 

母屋正面は5間。柱間はいずれも桟唐戸。

案内板(江南市教育委員会)によると、“内部は、外陣、中陣、内陣に分かれ、内陣の中央の須弥壇には、曼陀羅を入れる厨子が置かれ、両脇間には位牌類が納めてあります。”とのこと。

 

柱は上端が絞られた円柱で、貫と長押で連結されています。

柱上の組物は出組。

 

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

隅の組物と軒裏の隅木のあいだには、雲状の彫刻の入った材が使われています。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

台輪の上の中備えは蟇股。植物を題材にした彫刻が入っています。

 

側面は4間。

柱間には桟唐戸、連子窓、横板壁が使われています。ここまで禅宗様の意匠が目立ちましたが、側面は和様の意匠が多めです。

 

側面も、台輪の上の中備えに蟇股が使われています。ただし、こちらの蟇股は内側に彫刻が入っていない簡素なものです。

 

曼陀羅堂(左)と本堂(右)とのあいだには、このような橋がかかっています。

桁行3間・梁間1間、切妻、本瓦葺。

柱は角柱が使われ、内部は化粧屋根裏となっています。

 

曼陀羅堂右側面の入母屋破風。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。左右の鰭は若葉とも渦ともつかない意匠です。

妻飾りは二重虹梁。大虹梁の上には、透かし蟇股と大瓶束が置かれています。

 

境内北側の塔頭

本堂や曼陀羅堂の周辺にも多数の塔頭が点在しています。

こちらは曼陀羅堂向かって左奥にある慈光院。

入口の門は、薬医門、切妻、本瓦葺。

 

主柱は角柱が使われ、門扉は板戸。

主柱の上には冠木がわたされています。中央には梵字をあしらった装飾、その左右には獏の頭の彫刻があります。

 

内部向かって右側。写真右が正面です。

妻飾りは笈形付き大瓶束。笈形は渦状の若葉の意匠。

内側の梁の中間にも大瓶束があります。

 

背面。

虹梁中備えには、このような象の頭の彫刻がありました。

 

門の先には本堂があります。

二層の構造となっており、玄関部分は軒下に多数の彫刻が配されています。

 

玄関の柱は、角を丸めた几帳面取り(唐戸面取り)の角柱。上端が絞られています。

側面には獏の彫刻。柱上は出三斗。

 

虹梁の絵様は波の意匠。中備えの彫刻は、2体の竜が向かい合った構図。

唐破風の小壁にも虹梁がわたされ、笈形付き大瓶束が使われています。笈形の彫刻は、牡丹に戯れる唐獅子。

唐破風の兎毛通は、雲間を飛ぶ鶴の彫刻。

 

慈光院のとなりには霊鷲院。

入口の門は、薬医門、切妻、本瓦葺。

 

本堂には唐破風の玄関がありますが、こちらはほとんど彫刻がなく簡素です。

玄関の近くには、曼陀羅のレプリカが展示されていました。

 

曼陀羅堂と本堂の前を通って境内北端へ進むと、3件の塔頭が並立しています。

こちらは修造院。

 

入口の門は薬医門、切妻、桟瓦葺。

白色の材が使われ、冠木の上に雲の彫刻が置かれています。

 

修造院の東側には世尊院と本誓院。

後者は「東海四十九薬師霊場第十七番札所」とのこと。

 

最後に境内東側にある曼陀羅寺公園の藤棚。

 

以上、曼陀羅寺でした。

(訪問日2024/04/27)

*1:附:棟札1枚