甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【御代田町】真楽寺 前編(仁王門、観音堂)

今回は長野県御代田町の真楽寺(しんらくじ)について。

 

真楽寺は浅間山南麓の里山に鎮座する真言宗智山派の寺院です。山号は浅間山。

創建は寺伝によると第31代・用明天皇の時代とのこと。聖徳太子の進言を受けた用明天皇が、浅間山の噴火を鎮めるために開いた寺が当寺の前身らしいです。平安後期に現在地へ移転し、鎌倉時代には源頼朝が当寺を参拝したと伝わります。桃山時代以降は真言宗の道場として隆盛しました。江戸時代には水害や火災で伽藍を喪失していますが、そのたびに再建され、1778年(安永七年)に現在の伽藍が再建されています。

境内は広大な寺叢に覆われ、全体が町の天然記念物となっています。伽藍は江戸中期のもので、長野県宝の三重塔や撞木造の観音堂が並びます。また、源頼朝にまつわる古跡や、神代杉など、各所に多彩な名所が点在しています。

 

当記事ではアクセス情報および仁王門、観音堂について述べます。

三重塔、水分神社、本堂、勅使門については後編をご参照ください。

 

現地情報

所在地 〒389-0201長野県北佐久郡御代田町塩野142(地図)
アクセス 御代田駅から徒歩1時間
佐久ICまたは佐久北から車で15分
駐車場 20台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト なし
所要時間 30分程度

 

境内

仁王門

真楽時の境内は南向き。

駐車場から境内へ進むと、石造の太鼓橋の先に仁王門があります。

 

三間一戸、八脚門、寄棟造、茅葺形銅板葺。

案内板*1によると17世紀後半の再建と考えられ、後世に屋根などを改造して現在の形式になったようです。町指定有形文化財。

 

正面中央の柱間。

通路部分には棹縁天井が張られ、扁額がかかっています。

 

向かって左。こちらは柱間に飛貫があります。

柱は円柱で、頭貫には禅宗様木鼻。頭貫の上には台輪のような部材があり、この部材で軒桁を受けています。

軒裏は一重まばら垂木。

 

左側面。

側面は2間で、柱間は板壁。

 

背面。

こちらは中央の柱間にも飛貫が通っています。

 

通路部の左右の柱間には仁王像(金剛力士像)が安置されています。こちらは向かって左側のもの。

案内板によると1395年(応永二年)造立。町指定有形文化財。

 

観音堂

仁王門をくぐるとスギの並木がつづき、階段の先に妻入り屋根の観音堂が鎮座しています。

 

向かって左(西)から見た図。

梁間3間・桁行5間、撞木造、向拝1間、銅板葺。

1665年(寛文五年)造営。町指定有形文化財。

 

向拝は1間。

虹梁は眉欠きと袖切が彫られ、絵様が薄く彫られています。

中備えは蟇股。軍配と松らしき彫刻が入っています。蟇股の上は皿斗と実肘木で軒桁を受けています。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱。正面に唐獅子、側面に象の木鼻がつき、虹梁との接続部には竜の彫刻が添えられています。

柱上の組物は連三斗。象の頭の上に皿斗が置かれ、組物を持ち送りしています。

 

向拝の組物の上には手挟。手挟は菊の籠彫り。

向拝柱と母屋とのあいだには、湾曲した海老虹梁がわたされています。

破風板の桁隠しには菊の花と葉の彫刻。

 

母屋の正面は3間あります。

中央の柱間は2つ折れの桟唐戸、左右の柱間は舞良戸。

 

左側面。

側面は5間。前方の2間通りが外陣、後方の3間通りが内陣です。

外陣の柱間には舞良戸や桟唐戸の意匠の引き戸が使われています。内陣の柱間は横板壁。

 

内陣部分の柱間。

母屋柱は円柱で、軸部は長押と貫で固められています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は出組。台輪の上の中備えは蟇股で、牡丹などの植物が彫られています。

 

背面は、正面と同様に3間です。柱間は横板壁で、中央に板戸があります。

軒裏は二軒繁垂木。

縁側は欄干のない切目縁が4面にまわされています。

 

縁の下には縁束と腰組。

奥の母屋柱は床下が八角形に成形され、礎石の上に据えられています。

 

右後方(北東)から見た図。

この観音堂の正面は妻入(大棟が前後にのびる)に見えますが、側面後方には破風があり、背面から見ると平入(大棟が左右にのびる)に見えます。このように大棟がT字型となった屋根は撞木造(しゅもくづくり)と呼ばれます。撞木造の代表例には善光寺本堂(長野市)、甲斐善光寺本堂(甲府市)があります。

 

右側面の破風。

大棟には小さな切妻屋根がつき、箱棟になっています。

破風板の拝みと桁隠しには蕪懸魚が下がっています。妻飾りは懸魚の影になって見づらいですが、妻虹梁と笈形付き大瓶束が確認できます。

 

外陣の内部。

外陣は正面3間・側面2間の平面。前方と両側面の各1間通りが庇で、化粧屋根裏となっています。残りの中央部(正面1間・側面1間)は母屋で、鏡天井が張られています。

 

観音堂向かって左(西)には鐘楼。

入母屋造、銅板葺。

 

柱は面取り角柱。頭貫に拳鼻がつき、柱上に台輪が通っています。

柱上の組物は出三斗。中備えは間斗束。

 

仁王門、観音堂については以上。

後編では三重塔、水分神社、本堂、勅使門について述べます。

*1:御代田町教育委員会による設置