甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【魚津市】千光寺

今回は富山県魚津市の千光寺(せんこうじ)について。

 

千光寺は市東部の山際に鎮座していた真言宗の寺院です。山号は小川山。

創建は寺伝によると746年(天平十八年)で、行基によって開かれたらしいです。創建後の沿革は不明ですが、1362年に足利家の桃井直常の攻撃を受けて伽藍や寺宝を焼失しています。その後、室町後期には再建されていたようですが、1551年に上杉謙信が魚津城を攻めた際、千光寺は城主の椎名氏を匿ったため、上杉氏による焼き討ちを受けました。千光寺とその子院の一部は慶長年間(1596-1615年)に再建され、幕末まで存続しました。明治の廃仏毀釈では千光寺が廃寺になり、観音堂と3件の子院だけが残されて現在に至ります。

最盛期は越中国屈指の規模の寺院だったようですが、現在の境内は観音堂と一部の子院だけが残り、周辺は住宅地となっています。観音堂に納められた秘仏の金銅千手観世音菩薩立像は鎌倉時代の作で、県の有形文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒937-0022富山県魚津市小川寺2934(地図)
アクセス 魚津ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

仁王門

千光寺観音堂の境内は南向き。入口は住宅地の生活道路に面しています。

仁王門は、三間一戸、八脚門、切妻、桟瓦葺。

 

左右の柱間には仁王像が安置されています。

中央奥の扁額は「大悲願」。

 

通路部から左側を見た図。写真左が正面方向です。

柱はいずれも角柱。写真中央の角柱の上には太い桁がわたされ、繰型のついた長い肘木で梁を受けています。

中央の通路部分は板張りの天井ですが、左右の仁王像が祀られている空間は格天井が張られています。

 

観音堂

仁王門をくぐって階段を昇ると、観音堂が南面しています。観音堂の手前には、回向柱と前立ちらしき石仏。

 

観音堂は、梁間正面3間・背面5間・桁行5間、入母屋(妻入)、向拝1間、銅板葺。

本尊は秘仏の金銅千手観世音菩薩立像。鎌倉時代の作で、県指定有形文化財。

 

向拝は1間。

虹梁は若葉の絵様が彫られ、中備えは竜の彫刻。

 

向かって右の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱。正面には禅宗様木鼻、側面には獏の木鼻がついています。

虹梁と向拝柱との接続部には、繰型のついた持ち送りが添えられています。

柱上の組物は連三斗。

 

組物の上の手挟は、菊が籠彫りされています。

海老虹梁は向拝の虹梁の高さから出て、母屋の頭貫の位置に取りついています。向拝側、母屋側、どちらも下側を斗栱で持ち送りしています。

 

母屋柱は上端が絞られた角柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は出三斗と平三斗。台輪の上の中備えは蟇股。

 

正面の入母屋破風。

破風板の拝みには蕪懸魚。左右の鰭は雲の意匠。桁隠しは波の意匠です。

妻飾りは二重虹梁で、大瓶束が使われています。

 

側面は5間。そのうち後方の3間は床が高くなっているようで、おそらく内部は外陣と内陣に別けられて、密教本堂の構造になっていると思われます。

柱間は引き戸や横板壁が使われています。

 

背面は5間。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干はありません。

 

背面の入母屋破風。

正面のものとほぼ同じ造りです。

 

観音堂の右側(東側)には名称不明の境内社が南面しています。

一間社流造、銅板葺。

向拝柱の側面には見返り唐獅子の彫刻。母屋側面は2間。縁側はありません。

 

白山社

観音堂の東側には白山社が隣接しています。境内は南向き。

入口には石垣と石塀が設けられ、石造明神鳥居が立っています。鳥居の扁額は「白山社」。

 

参道を進むと、二の鳥居(石造明神鳥居)と拝殿があります。

拝殿は、入母屋(妻入)、向拝1間、銅板葺。

 

虹梁は若葉の絵様が彫られ、中備えは蟇股。

向拝柱は几帳面取り角柱で、側面に唐獅子の木鼻があります。柱上は連三斗。

 

母屋柱は角柱。頭貫には拳鼻。

柱上の組物は出三斗と平三斗で、中備えは蟇股が使われています。

 

母屋の柱間には桟唐戸と舞良戸が使われ、縁側は切目縁が3面にまわされています。

 

拝殿の後方には、本殿をおさめた覆屋があります。

 

光学坊

千光寺観音堂および白山神社の南側には、光学坊が西面しています。光学坊は千光寺の子院のひとつで、千光寺が廃寺になった現在も存続しています。

右の鐘楼は、切妻、桟瓦葺。

 

柱は角柱が使われ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。中備えは平三斗。

内部には格天井が張られています。

 

光学坊の山門は、薬医門、切妻、銅板葺。

 

主柱の上には垂れ幕のかかった冠木がわたされ、肘木と腕木(女梁と男梁)を突き出しています。腕木の先端には組物が乗り、軒桁を受けています。

冠木の端の部分(写真左)には、亀甲の文様が彫られています。

 

向かって左(北)の妻面。

角度がついていて見づらいですが、妻飾りは蟇股です。

破風板の拝みには蕪懸魚。左右の鰭は若葉の彫刻。

 

以上、千光寺でした。

(訪問日2024/11/03)