今回は静岡県磐田市の府八幡宮(ふ はちまんぐう)について。
府八幡宮は磐田の中心市街地に鎮座しています。
創建は不明。社伝によると天平年間(729-748年)の創建で、遠江国の国司として当地に赴任した桜井王によって国府内に祭祀されたのがはじまりとのこと。中世以前の詳細な沿革は不明ですが、室町以降は足利氏、今川氏、徳川氏といった歴代の権力者の崇敬を受けました。
現在の境内や社殿は江戸前期のもので、徳川氏の寄進で造られたものと伝わります。社殿のうち、和様の意匠で造られた楼門が県の文化財、本殿などの3棟が市の文化財に指定されています。
現地情報
所在地 | 〒438-0078静岡県磐田市中泉112-1(地図) |
アクセス | 磐田駅から徒歩15分 見附ICから車で10分 |
駐車場 | あり(無料) |
営業時間 | 08:30-16:30 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 府八幡宮 |
所要時間 | 20分程度 |
境内
参道
府八幡宮の境内は南向き。入口は境内西側にあり、市内の南北方向をつなぐ幹線道路に面しています。
入口の鳥居は木造明神鳥居で、西向きに立っています。扁額は「府八幡宮」。
右の社号標は「県社府八幡宮」。
参道右手には手水舎。
切妻、桟瓦葺。
柱は面取り角柱が使われ、柱上に桁が直接乗っています。柱間には飛貫虹梁が入っていますが、木鼻はありません。
妻虹梁の上には笈形付き大瓶束があります。
楼門
境内を進むと参道が左手に折れ、南向きの境内となります。
楼門は、三間一戸、楼門、入母屋、こけら葺。
1635年(寛永十二年)造営。県指定有形文化財。
下層。
正面は3間で、中央の1間は通路(三間一戸)。通路部分は左右の柱間より少し広く取られています。
中央の柱間。竹竿としめ縄がかかっています。
中備えは蓑束。
向かって左の柱間。
柱は円柱。軸部は貫で固定されていますが、木鼻はありません。 和様の造りです。
柱上の組物は三手先。中備えはこちらも蓑束です。
左側面(西面)。
側面は2間で、柱間は横板壁。
組物や中備えは正面と同様です。
上層。扁額は「府八幡宮」。
上層も正面3間です。柱間は、中央が板戸、左右は連子窓。
軸部は長押と貫で固定されています。下層と同様に、頭貫木鼻は使われていません。
柱上の組物は和様の尾垂木三手先。
頭貫の上の中備えは透かし蟇股。
縁側は切目縁で、欄干は跳高欄。
上層左側面。
欄干の影になって見づらいですが、柱間は連子窓が入っています。
そのほかの意匠は正面と同様。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
入母屋破風。
妻飾りは豕扠首。
破風板の拝みには猪目懸魚。
下層の通路部分。奥に見えるのは中門と拝殿。
背面全体図。
下層の左右の柱間は横板壁となっています。
中門
楼門をくぐって参道を進むと、拝殿の手前に中門(なかもん)があります。
一間一戸、平入唐門、銅板葺。
境内案内板*1によると、文化年間(1804-1818年)の再建。市指定有形文化財。
向かって右の主柱。
主柱は上端の絞られた円柱が使われています。
主柱から前方に腕木を出し、組物を介して軒裏を支えています。腕木の先端には木鼻のような繰型がつき、若葉状の絵様が彫られています。また、腕木の下側に添えられた持ち送り材は菊の葉の彫刻が入っています。
主柱を妻面方向から見た図。
主柱の上部には頭貫と台輪が通り、禅宗様木鼻が付いています。柱上には組物が乗り、棟木を受けています。
右側の妻面(東面)。
主柱の上から前後方向に海老虹梁がわたされ、軒桁につながっています。
反対側の左側面(西面)。
主柱の周辺は前後対称に近い構造ですが、後方(写真左)に控え柱が立ち、腕木を支えています。
破風板には兎毛通と桁隠しが下がっています。兎毛通は蕪懸魚で、左右の鰭は雲の意匠。桁隠しは菊水の彫刻。
控柱の上端には、逆蓮が彫られています。
逆蓮は欄干の親柱に使われることがほとんどで、この部分に使うのは風変わりだと思います。
柱の基部。
主柱(写真右)は下端も絞られ、禅宗様の礎盤の上に立てられています。
控柱は下端が絞られておらず、円錐状の礎石の上に立てられています。
背面全体図。
拝殿
中門の先には拝殿が鎮座しています。
桁行5間・梁間4間、入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間、銅板葺。
境内案内板によると、拝殿と本殿は1714年(正徳四年)再建。「府八幡宮本殿及び拝殿付幣殿」として市指定有形文化財。
向かって左の向拝柱。
向拝柱は几帳面取り角柱。側面には唐獅子の木鼻。
柱上の組物は出三斗。
向拝柱を左側(西側)から見た図。
組物の上の手挟には、菊と思しき花が彫られています。
向拝柱と母屋のあいだに懸架材はありません。
虹梁には竹竿としめ縄がかかり、中備えに蟇股があります。
母屋の正面は5間。中央は桟唐戸、左右各2間は半蔀で、蔀を吊る金具が軒裏から下がっています。
母屋の正面中央の軒下。扁額は「八幡宮」。
頭貫の上の蟇股には、つがいの鳩が彫られています。
左端の柱間。
母屋柱は面取り角柱。軸部は貫と長押で固められています。木鼻は使われていません。
柱上の組物は出三斗と平三斗。通肘木を介して軒桁を受けています。
中備えは蟇股。鳥獣が彫られており、こちらの彫刻は獏と思われます。
左側面。
側面は4間で、柱間は引き戸。
縁側は切目縁が3面にまわされ、縁側はありません。
屋根正面の千鳥破風。
妻飾りは虹梁と大瓶束。破風板の拝みには蕪懸魚。
左側面の入母屋破風。
こちらも蕪懸魚が使われています。
妻飾りは豕扠首。
拝殿の後方には幣殿がつながっています。こちらは左後方(北西)から見た図。
入母屋(妻入)、背面孫庇付、銅板葺。
中備えは蟇股ではなく撥束が使われ、拝殿よりやや簡素な造りとなっています。
本殿
拝殿の後方には透塀に囲われた本殿が鎮座しています。祭神は八幡三神。
桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間、銅板葺。
拝殿と同年の造営で、拝殿・幣殿とあわせて市指定の文化財となっています。
向拝は3間あります。手前(写真右)に建物があるため、虹梁などの意匠は観察できず。
縁側は切目縁が3面にまわされ、跳高欄が立てられています。
正面には角材の階段が5段設けられ、昇高欄は擬宝珠付き。
向拝柱は糸面取り角柱が使われ、手挟で軒裏を受けているのが確認できます。
隅の向拝柱と母屋柱のあいだには、繋ぎ虹梁がわたされています。
母屋正面は3間。3間とも桟唐戸が設けられています。
母屋柱は円柱で、長押と貫で固定されています。
頭貫の上の中備えは蟇股。
母屋側面は2間。
柱上の組物は出三斗と平三斗で、通肘木を介して妻虹梁を受けています。
頭貫の上の中備えは蟇股。植物の彫刻が入っています。
妻飾りは豕扠首。
破風板の拝みには蕪懸魚が下がり、桁隠しにも懸魚があります。
縁側の背面側の終端には脇障子が立てられ、羽目板には花の彫刻が入っていました。
背面は3間。
こちらは中備えの蟇股が省略されています。
境内社
本殿の裏手には境内社が点在しています。こちらは本殿後方(北側)にある武内社。
入母屋、向拝1間、銅板葺。
武内社の近辺にはほかにも多数の境内社があります。
いずれも一間社流造、板葺。見世棚造。
本殿右後方、境内北西の少し離れた場所には東照宮が祀られています。
東照宮は、一間社流造、銅板葺。見世棚造。
目立った意匠はなく、簡素な造りです。
以上、府八幡宮でした。
(訪問日2024/04/13)
*1:磐田市教育委員会文化財課による設置