甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【市川市】葛飾八幡宮

今回は千葉県市川市の葛飾八幡宮(かつしか はちまんぐう)について。

 

葛飾八幡宮は八幡地区の住宅地に鎮座しています。

創建は、社伝によると寛平年間(889~898)で、宇多天皇の勅命によって石清水から八幡宮が勧請されたとのこと。その後の詳細な沿革は不明ですが、武神を祀った神社として鎌倉幕府や江戸幕府の崇敬を受けたようです。

現在の境内は戦後の再建と思われます。神宮寺の遺構と思われる鐘楼があるほか、本殿のとなりには国の天然記念物に指定された千本公孫樹が生育しています。

 

現地情報

所在地 〒272-0021千葉県市川市八幡4-2-1(地図)
アクセス 京成八幡駅から徒歩5分
京葉市川ICから車で10分
駐車場 20台(無料)
営業時間 09:00-16:00(※参道や随神門は随時)
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 葛飾八幡宮
所要時間 15分程度

 

境内

随神門

葛飾八幡宮の境内は南西向き。京成線の踏切に面した場所に鳥居と参道入口があります。

訪問時(2023/06/10)は催事があったようで、参道や随神門周辺は屋台が並ぶなどして非常に混みあっていました。

 

入口の鳥居は石造明神鳥居。扁額はありません。

 

参道を進むと、随神門があります。

三間一戸、八脚門、切妻、銅板葺。

参道の狛犬の銘より、1855年(安政八年)頃の再建と考えられています。市指定有形文化財。

 

当初は仁王像が置かれていましたが、明治の神仏分離令を受けて、右大臣・左大臣を置いた随神門に改められました。もとあった仁王像は、同市行徳の徳願寺に移されたようです。

 

正面向かって右。

柱は円柱。頭貫には大ぶりな拳鼻がついています。

柱上の組物は、平三斗と出三斗。通肘木を介して軒桁を受けています。

 

組物のあいだの中備えは蟇股。

はらわたの彫刻は、竹に虎。

 

中央の通路部分の中備え。

中央は出三斗。左右は蟇股で、写真左は松に鷹、右は唐獅子。

 

通路部分には棹縁天井が張られています。

虹梁や蟇股といった装飾はなく、簡素な造りです。

 

左側面(南東面)。

側面は2間で、中央の柱は円柱ではなく八角柱です。

柱間は横板壁。

こちらの組物は、通肘木ではなく実肘木が使われています。中備えはありません。

 

妻飾りは二重虹梁。

大虹梁の上に大瓶束を2つ立て、二重虹梁の上に蟇股を置いて棟木を受けています。

破風板の拝みには猪目懸魚。桁隠しはありません。

 

左後方(北)から見た図。

背面は、正面と同様に中備えに蟇股がありました。ほぼ前後対称の造りです。

 

拝殿

随神門から50メートルほど進むと、境内中心部に到着します。こちらは拝殿の手前にある神門。

屋根は切妻、銅板葺。

 

向かって左の柱。

柱はいずれも角柱。主柱の前後に控柱が立ち、四脚門に似た構成で造られています。

 

神門の先には拝殿。

入母屋、向拝1間 向唐破風、銅板葺。

 

正面の唐破風の兎毛通には、彫刻が入っています。題材は、雲間を飛ぶ鳥(鳳凰あるいは鶴?)。

鬼板には菊の紋がつき、頂部には鳥衾が突き出ています。

 

唐破風の小壁の部分には、笈形付き大瓶束が置かれています。笈形は雲の意匠。

その下の虹梁中備えには、波の彫刻。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱。正面と側面には、波の彫刻の木鼻があります。

柱上の組物は出三斗。通肘木で桁を受けています。

 

向拝は、母屋の軒下から向唐破風を伸ばした構造になっています。

母屋柱は角柱で、柱間には引き戸と窓が入っています。

 

母屋柱の上部には、木鼻がついています。

柱上の組物は、大斗と肘木を組んだもの。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

入母屋破風には木連格子が張られています。

破風板の拝みには、鰭付きの蕪懸魚。鰭は雲の意匠。

 

拝殿向かって左には神楽殿。

入母屋(妻入)、銅板葺。

 

本殿

拝殿の後方には幣殿(写真左)と本殿が鎮座しています。祭神は誉田別命などの八幡神。

本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間?、銅板葺。

 

向拝柱(写真左の柱)は角柱。その右に見える母屋柱3本は円柱が使われています。

柱上は、向拝も母屋も舟肘木が置かれ、木鼻や中備えといった意匠はありません。

 

妻壁。補修のため金属製の棒材が入れられています。

妻飾りは二重虹梁。大虹梁の上の中備えは、中央が蟇股、左右は撥束。二重虹梁の上には豕扠首。二重虹梁に間斗束(撥束)や豕扠首を使うのは、風変わりだと思います。

 

破風板には懸魚。

拝みは蕪懸魚で、左右の鰭は雲の意匠。

桁隠しには、小さな雲の彫刻がついています。

 

背面は3間。中備えなどの装飾はなく、簡素な外観。

柱間は横板壁。床下は格子でふさがれています。

 

大棟には千木と鰹木。

千木は先端が垂直に切られたもの。

鰹木は細い紡錘形のものが5本置かれています。

 

本殿左手前(南)には、千本公孫樹(千本イチョウ)と呼ばれる大木が生育しています。

国指定天然記念物。樹齢は約1200年と推定されています。

 

その他の社殿

拝殿向かって右手前、境内南側には鐘楼があり、内部に梵鐘が吊るされています。おそらく神仏習合の時代のなごりでしょう。

鐘楼は、入母屋、銅板葺。

 

柱は円柱。飛貫の位置には、唐獅子と象の木鼻がついています。

柱の上部は絞られ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。

組物は出三斗。台輪の上の中備えは、木鼻付きの平三斗。

 

飛貫虹梁の中備えは蟇股。彫刻は、松に鷹。

 

鐘楼の手前には、力石と「源頼朝公 駒どめの石」が置かれています。

伝承によると、源頼朝は平家との戦いに敗れて安房へ逃れる途中、当社に立ち寄って戦勝を祈願したらしいです。

 

鐘楼の近くの、池の中にある島には、厳島社が鎮座しています。

入口には木造両部鳥居。

厳島社本殿は、一間社流造、銅板葺。

 

境内の北側にも、境内社が点在しています。

こちらは葛飾八幡宮本殿の後方にある八坂社。入口には石造明神鳥居。

八坂社本殿は、一間社流造、正面千鳥破風付、銅板葺。

 

向拝には、唐獅子や竜の彫刻が配されています。

 

八坂社の右側には尾上稲荷社。鳥居は木造明神鳥居ですが、笠木が円柱になっています。

 

尾上稲荷社本殿は、一間社流造、銅板葺。

向拝や脇障子に彫刻があります。

 

境内東端には葛飾天満宮。

本殿は一間社流造、銅板葺。

こちらは彫刻の類がほぼなく、並立するほかの境内社とくらべると簡素です。

 

以上、葛飾八幡宮でした。

(訪問日2023/06/10)