甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【渋谷区】金王八幡宮

今回は東京都渋谷区の金王八幡宮(こんのう はちまんぐう)について。

 

金王八幡宮は渋谷駅東側の市街地に鎮座しています。

創建は社伝によると1092年(寛治六年)。渋谷城を築いた河崎基家(渋谷重家)が八幡宮を祀ったのがはじまりらしく、金王という社号は彼の嫡男の名前に由来するようです。中世の詳細な沿革は不明ですが、1524年に北条氏の攻撃を受けて城館とともに焼き払われたとのこと。江戸時代には徳川家の崇敬を受け、3代将軍家光の乳母・春日局らの寄進で現在の社殿が造営されています。

現在の境内は江戸初期以降のもの。境内は渋谷城の跡地ですが、城の遺構は現存していません。拝殿などの社殿は江戸前期のもので、桃山風の派手な彩色で造られており、区の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒150-0002東京都渋谷区渋谷3-5-12(地図)
アクセス 渋谷駅から徒歩5分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 金王八幡宮
所要時間 10分程度

 

境内

鳥居と門

金王八幡宮の境内は南東向き。入口は市街地の生活道路に面しています。

右の社号標は「金王八幡宮」。

 

境内に入ると、鳥居と門があります。

鳥居は石造明神鳥居。扁額はありません。

 

門は、一間一戸、切妻、瓦棒銅板葺。

1769年(明和六年)または1801年(享和元年)の造営*1。「金王八幡宮社殿及び門」として区指定有形文化財。

 

門の軒下。扁額は「金王八幡宮」。

柱は角柱が使われ、前後に腕木を持ち出して軒桁を支えています。

門の左右には袖塀がつづいています。

 

向かって右の妻面。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

袖塀は懸魚や箕甲がなく、簡素です。

 

門をくぐると、参道左手に手水舎があります。

切妻、銅板葺。

 

面取り角柱が使われ、頭貫には木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。

 

妻面。

頭貫の上の中備えは、角柱の束を2本立てています。

妻飾りは、束と蟇股を一体化したような意匠です。

 

拝殿と本殿

参道の先には拝殿が鎮座しています。

入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、瓦棒銅板葺。

1612年(慶長十七年)造営。門と同様に、「金王八幡宮社殿及び門」として区指定有形文化財*2

 

正面の向拝の軒下。桃山風の極彩色となっています。

赤い虹梁には竜の彫刻がついています。竜の上の中備えにある蟇股は、「松に鷹」の彫刻。

蟇股の上には黄色い虹梁がわたされ、花と唐草が描かれています。その上には大瓶束が立てられ、左右に雲が描かれています。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は面取り角柱で、上端は複雑な彩色で塗り分けられています。柱の正面の木鼻は唐獅子、側面は獏です。

柱上の組物は出三斗。青い通肘木を介して軒桁を受けています。

 

向拝の軒下を左側から見た図。

向拝柱の上の手挟は、菊の花の籠彫りとなっています。

海老虹梁は向拝の虹梁の位置から出て、母屋柱の上部に取り付いています。

 

母屋の正面は3間。

中央の柱間は桟唐戸、左右は半蔀。

 

正面の左右の柱間の半蔀の上には、このような意匠が設けられています。

格狭間のような曲線の枠の内側に、彩色された彫刻が入っています。向かって左は虎、右はおそらく麒麟。

 

左側面は2間。柱間は、こちらも半蔀です。

母屋柱は角柱が使われ、柱上は舟肘木が使われています。

 

拝殿の後方には渡り廊下が伸び、本殿(写真左)につながっています。

渡り廊下は、拝殿や本殿の附として区指定文化財です。

 

本殿は、渡り廊下や塀の影になっていて、観察できるのは屋根のみです。

流造、瓦棒銅板葺。

拝殿と同年の造営で、区指定文化財。

祭神は誉田別命など。

 

境内社

参道の左右には境内社が点在しています。

参道左手、境内の南側には御嶽神社(みたけ-)。北東向きです。祭神はヤマトタケルなど。

御嶽神社本殿は、一間社流造、正面軒唐破風付、銅板葺。

 

向かって左の向拝柱。

几帳面取り角柱が使われ、柱上は皿付きの出三斗。

 

虹梁中備えは蟇股。

唐破風の下の小壁には、蟇股のような曲線が描かれています。

 

母屋柱は円柱。頭貫に木鼻があります。

柱上は出三斗で、中備えは蟇股。

妻飾りは角柱の大瓶束。

 

御嶽神社の右隣には玉造稲荷神社(たまつくりいなり-)。祭神はウカノミタマ(トヨウケ)。

 

玉造稲荷神社本殿は、一間社流造、銅板葺。

向拝柱は面取り角柱で、組物は大斗と肘木を組んだ簡素なものが使われています。

 

妻飾りは蟇股。

破風板の拝みには猪目懸魚。

 

玉造稲荷神社の右隣には神楽殿。

入母屋、銅板葺。

 

参道右手、境内北側には、金王丸御影堂が南面しています。

宝形、向拝1間、銅板葺。

 

祭神は金王丸(こんのうまる)こと渋谷常光。この堂には金王丸の木像が祀られているようです。

渋谷常光は、当社を開いた渋谷重家の嫡子。源義朝・頼朝の2代に仕えた武将で、奥州へ逃れた源義経の追討戦に参加し、義経の居館を攻撃する際に戦死したとのこと。

 

向拝柱は几帳面取りで、柱上は大斗と舟肘木を組んだものが使われています。

母屋の扁額は「金王丸御影堂」。

 

金王八幡宮とはとくに関係のない神社かと思いますが、境内の南側の通りをはさんだ敷地には、豊栄稲荷神社(とよさかいなり-)があります。

 

以上、金王八幡宮でした。

(訪問日2023/12/01)

*1:渋谷区教育委員会の案内板より

*2:附:渡り廊下