甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【西尾市】金蓮寺

今回は愛知県西尾市の金蓮寺(こんれんじ)について。

 

金蓮寺は市南部の集落に鎮座する曹洞宗の寺院です。山号は青龍山。

創建は不明。当初は光福寺という真言宗の寺院の子院だったようですが、1340年(暦応三年)に足利尊氏によって現在地に移されて独立し、現在の寺号になったとのこと。江戸時代には当地の領主の吉良氏の崇敬を受け、寛政年間(1789-1801)に曹洞宗に改宗しています。

境内の中心部に鎮座する弥陀堂は鎌倉時代の造営とされ、東海地方でも最古級の建築のため国宝に指定されています。堂内の阿弥陀如来坐像とその脇侍も県の文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒444-0523愛知県西尾市吉良町饗庭七度ケ入1(地図)
アクセス 吉良吉田駅または上横須賀駅から徒歩30分
岡崎ICから車で40分
駐車場 20台(無料)
営業時間 09:00-17:00
入場料 無料(弥陀堂の内部拝観は200円)
寺務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 20分程度

 

境内

弥陀堂

金蓮寺の境内は南向き。境内は名鉄西尾線沿線の集落にあります。

寺号標は左が「金蓮寺」、右が「不動山」。

 

境内の中心部には弥陀堂(みだどう)が鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、寄棟、正面庇付、右側面孫庇付、桧皮葺*1

鎌倉時代中期の造営(推定)。国宝

 

愛知県最古の建築とされ、東海地方でも屈指の古建築。

屋根は寄棟で、前面の1間通りが吹き放ちの庇となっています。そして右側面(東面)の後方には、正面1間・側面2間の孫庇が付加され、独特な平面構成です。

各所の意匠は純粋な和様で構成され、装飾的な意匠がほとんどありません。屋根は檜皮葺で、素朴で美しい外観。

 

前面の庇(外陣)。

縁側は切目縁が4面すべてにまわされています。

柱の建てられた庇の部分には腰長押が打たれ、床が一段高くなっています。

 

庇の柱は角柱。柱上は舟肘木。非常に簡素な意匠です。

庇は正面3間あります。両端の柱は、梁で母屋とつながれています。

 

庇の柱と組物の詳細。

柱は大面取り角柱。面取りの幅が非常に大きく、古風な造り。

軒桁もエッジが大きく面取りされていて、それを受ける舟肘木は凹字型に加工されています。

 

右側面(東面)からみた庇。

正面の軒先は、軒裏が三軒(三重)になっています。

母屋に近い軒裏は繁垂木ですが、軒先の飛檐垂木はまばら垂木です。

 

母屋の前面は、跳上げ式の半蔀戸。

 

左側面(西面)。

母屋の側面は3間。柱間は、板戸と横板壁が使われています。

こちらにも縁側がまわっていますが、母屋部分は床が少し高く、それにあわせて縁側も高くなっています。

軒裏は二軒(二重)で、地垂木は繁垂木、飛檐垂木はまばら垂木。

 

柱は角柱。庇と同様に、大面取り角柱です。

軸部は長押で固定されています。頭貫木鼻はありません。

柱上は舟肘木。

 

右側面(東面)後方の突出部(孫庇)。

前面(写真左)は1間で舞良戸、側面は横板壁。この写真では見えないですが、背面は横板壁です。

大面取り角柱と舟肘木が使われている点は、庇やほかの面と同様。

こちらの突出部にも縁側がまわされています。

 

突出部の縋破風。

懸魚はなく、桁の木口が露出しています。

 

背面は母屋が3間、突出部が1間で、つごう4間。

柱間は、中央が板戸、左右が横板壁。

拝観料(200円)を払うことで、こちらの扉から堂内に入れます。

 

内部の様子。

正面3間・側面3間の母屋なので堂内には4本の柱があるように思えますが、この堂は柱が省略され、須弥壇の後方の2本だけが立っています。堂内を広く感じさせるための工夫でしょう。

また、この写真では分かりづらいですが、堂内の円柱は外の角柱よりも30センチメートルほど後方にずれた場所に立っています。これも空間を広くするためと思われます。

 

外の柱は角柱だったのに対し、堂内の須弥壇の柱(来迎柱)は円柱です。柱の形状で、格のちがいが明示されています*2

写真右奥(母屋の右側面の突出部のほう)には舞良戸が見えます。前述の突出部(孫庇)は、この空間とは別室というあつかいのようです。

 

屋根は室内すべてが折り上げ小組格天井ですが、中央の仏像がある部分はさらに1回折り上げられています。ここでも格のちがいが明示されています。

 

須弥壇には阿弥陀三尊が祀られています。

中央は阿弥陀如来坐像で、鎌倉時代の作。左右の脇侍は勢至菩薩(左)と観音菩薩(右)の立像で、江戸初期に再制作されたもの。台座は3体いずれも鎌倉時代のもので、当初から三尊像として作られていたようです*3

境内案内板やご住職のお話によると、本来は素木だったものが後世に彩色され、平成期の修理で彩色をはがしたことで、現在の白木の姿に戻されたとのこと。

「木造阿弥陀如来及び両脇侍像」として県指定有形文化財。

 

本堂など

弥陀堂の東側には本堂などの伽藍があります。

こちらは経蔵。西向きに鎮座しています。

宝形、向拝1間、本瓦葺。

当寺の所蔵する写経大般若経は西尾市指定文化財とのこと。

 

向拝柱は几帳面取り。側面に象鼻。

向拝の組物は連三斗。象鼻の上の巻斗で持ち送りされています。

虹梁中備えは蟇股。

 

母屋柱は円柱で、上端が絞られています。

頭貫には木鼻がつき、柱上に台輪が通っています。

柱上の組物は出三斗と平三斗。中備えは蟇股。

 

境内の奥には本堂が南向きに鎮座しています。

切妻、桟瓦葺。

本尊は不動明王。当寺は曹洞宗(禅宗)ですが、真言宗(密教)だったころのなごりと思われます。

 

以上、金蓮寺でした。

(訪問日2022/05/02)

*1:文化遺産オンラインでは“桁行三間、梁間三間、一重、寄棟造、正面一間通り庇、左側面後部二間庇、すがる破風造、檜皮葺”としている。

*2:寺社建築では、円柱は格が高く、角柱は格の落ちる柱とされる。

*3:文化財ナビ愛知より。