今回は愛知県岡崎市の六所神社(ろくしょ-)について。
六所神社は岡崎の市街地に鎮座しています。
創建は松平清康(徳川家康の祖父)の代で、豊田市松平町にある六所神社を勧請したのがはじまりとのこと。徳川家の氏神として篤く崇敬され、幕府の保護を受けたようです。社殿は江戸初期のもので、非常によく整備された境内で国重文の楼門や社殿(権現造)を楽しむことができます。
現地情報
所在地 | 〒444-0864愛知県岡崎市明大寺町字耳取44(地図) |
アクセス | 東岡崎駅から徒歩5分 岡崎ICから車で10分 |
駐車場 | 40台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり |
公式サイト | 六所神社 公式WEBサイト |
所要時間 | 20分程度 |
境内
参道
六所神社の参道は北向き、後述の社殿は西向きで、どちらもめずらしい方角を向いています。
一の鳥居は木造の両部鳥居。前後の稚児柱に八角柱が使われたタイプ。扁額は「六所神社」。
鳥居の向こうには踏切があり、名古屋本線が参道を横切っています。
鳥居をくぐって踏切を渡ると参道が松並木になります。
駐車場はこの先にあります。
社地に入ると参道がアスファルトから玉砂利にかわります。
二の鳥居は石造の明神鳥居。
参道の右手には手水舎。鉄板葺の入母屋。
手水舎にしては大きめで凝った造り。しっかりと水が出ていて管理状態も良好。
楼門
手水舎をすぎると参道が左手に90度折れて西向きになり、石垣の上に楼門が建っています。
楼門は、一間一戸、楼門、入母屋、檜皮葺。。
1688年(元禄元年)の造営で、5代将軍・徳川綱吉の命で造られたもの。後述の本殿などとあわせて国指定重要文化財(国重文)。
神社にあるこの手の門はたいてい神像が置かれていて「随神門」と呼ばれるのですが、この門には神像がないからなのか、単に「楼門」と呼ばれているようです。
下層。
柱はいずれも円柱。軸部は貫で固定され、頭貫には渦巻きの繰型が彫られた拳鼻がついています。
柱上の組物は三手先。持ち出した桁で上層の縁側を支えています。組物のあいだには蟇股と巻斗が配置され、蟇股は内部に彩色された彫刻があります。彫刻の題材は鳳凰や波などさまざま。
上層。扁額は「六所大明神」。
柱上の組物は、雲状の尾垂木が出た三手先。組物のあいだには間斗束。桁下には軒支輪。軒裏は二軒繁垂木。
母屋の隅から斜めに突き出た尾垂木の上には、彩色された力神が座って隅木を支えるポーズをしています。
このような力神は甲信地方ではまったく見かけませんが、同市内の伊賀八幡宮随神門(江戸初期)や滝山寺三門(鎌倉後期)にもあったので、岡崎の周辺ではめずらしくない意匠なのかもしれません。
右側面(南面)。
頭貫の下には長押が打たれ、頭貫の上の組物と間斗束のあいだには牡丹が描かれています。
破風板は黒く塗られ、装飾の金具と懸魚がついています。
入母屋破風の内部には黒く塗られた豕扠首が見えます。
神供所
楼門の左隣には神供所(しんくしょ)があります。
入母屋、とち葺。柱は角柱。写真左の2間は土間、その右の2間は畳、右端の1間は1段高い畳の間とのこと。
1636年の造営で、国重文。
この社殿は大部分が無塗装の素木となっていますが、頭貫の上の蟇股だけは彩色され彫刻も入っています。写真の彫刻は唐獅子。
拝殿・幣殿・本殿
六所神社の社殿(拝殿・幣殿・本殿)は楼門のすぐうしろにあります。写真は拝殿部分。
拝殿は、桁行5間・梁間3間、入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間・軒唐破風付。
拝殿・幣殿・本殿が一体化しており、3棟とも1636年(寛永十三年)の造営。3代将軍・徳川家光の命によって造られたもの。棟梁は遠州大工の鈴木近江守長次とのこと。拝殿・幣殿・本殿の3棟と、前述の楼門と神供所をあわせた「六所神社」5棟で国指定重要文化財となっています。
拝殿の向拝。
軒を支える向拝柱は几帳面取りの角柱。几帳面が黒く塗り分けられています。
柱上の組物は連三斗で、赤青緑と白で極彩色に塗り分けされています。これは室町後期から江戸初期あたりの作風。
虹梁の上の中備えには蟇股が置かれ、竜が彫られています。虹梁の両端の木鼻は唐獅子。
緑の若草の模様がついた桁の上には大瓶束が立てられ、その左右には波に浮かぶ蓮の花。
唐破風の黒い破風板には、金色の菊らしき彫刻がつけられています。
向拝柱と母屋をつなぐ虹梁はありません。
向拝柱の組物の上では、牡丹が彫られた手挟(たばさみ)が軒裏の垂木を受けています。
母屋柱は円柱。柱間は引き違いの蔀戸。
頭貫には拳鼻。組物のあいだには緑色の蟇股があり、その内部には鷹や牡丹などが彫られています。
軒裏は二軒の繁垂木で、垂木の先端が金色に装飾されています。
拝殿正面の軒唐破風(左手前)と千鳥破風(右奥)。鬼板には三葉葵の紋。
極彩色の彫刻や派手な破風板もさるものながら、檜皮葺の屋根の構成や曲面もみごと。
拝殿の後方には幣殿と本殿がつづいています。
左端が拝殿、右が本殿で、両者をつないでいるのが幣殿。権現造(ごんげんづくり)と呼ばれる構造です。
権現造のなかには「幣殿などを後付けして権現造になった」という例(伊賀八幡宮など)がしばしばありますが、この六所神社は造営当初からこのような構造であり、権現造の好例といっていい物件です。
反対側(北面)からみた本殿。
本殿は、桁行3間・梁間2間、三間社流造、向拝3間?、檜皮葺。
祭神はサルタヒコなど。
母屋柱は円柱。柱上の組物は出組で、やはり極彩色に塗り分けられています。組物のあいだには、唐獅子などの彫刻が入った蟇股。
組物によって持ち出された妻虹梁の中央には、金色のきらびやかな竜が浮き彫りになっています。
その上には間斗束とも笈形付き大瓶束ともつかない部材が棟を受けており、内側には紅白の牡丹が彫られ、外側にも花(題材不明)が描かれています。
壁面。写真右のほうが正面側、左が背面側です。
派手な妻壁に対し、壁面はシンプルに黒塗りとなっています。向拝の柱間(写真中央)には、神社ではあまり使われない火灯窓が設けられています。
背面。縁側は4面にまわされています。欄干は跳高欄。縁の下には腰組と縁束。
側面と同様、背面にも極彩色の組物や蟇股が使われており、あまり人の目に当たらない場所でもいっさい手を抜いていません。
最後に余談になりますが、この六所神社は拝殿・幣殿・本殿を前後左右すべての方向から見ることができ、非常に鑑賞しやすい点が個人的に好印象でした。重文クラスの権現造を、背面や床下まで間近でしっかり見られる神社は希少だと思います。
以上、六所神社でした。
(訪問日2020/09/12)