愛知県岡崎市
滝山寺(たきさんじ)
2020/09/12,2025/08/23撮影
概要
滝山寺(瀧山寺)は市北部の山際の集落に鎮座する天台宗の寺院です。山号は吉祥陀羅尼山。
創建は不明。『滝山寺縁起』によると、天武天皇の命を受けた役小角によって「吉祥寺」として開かれたらしいです。その後、吉祥寺は荒廃したようで、保安年間(1120-1123)に物部氏の後援を受けた仏泉永救という僧によって天台宗寺院として再興しました。鎌倉時代には源頼朝によって伽藍が再建され、以降は三河守となった足利氏の庇護を受けて隆盛しました。室町前期には足利尊氏によって現在の本堂が再建されたようですが、室町後期から桃山時代にかけては有力な庇護者を失い衰退しています。
江戸時代には徳川家康によって再興され、1646年(正保三年)に徳川家光の命で東照宮が造られました。以降、幕末まで徳川家の崇敬を受けて隆盛しましたが、明治初期の神仏分離で滝山東照宮が独立し、寺領の多くを失っています。
現在の境内伽藍は、室町前期のものとされる本堂と三門が現存し、両者とも重要文化財に指定されています。本堂は和様と禅宗様の折衷で、中世の折衷様建築(密教本堂)の典型的な造りです。また、境内東側の区画には滝山東照宮が隣接しています。
当記事では滝山寺の三門と本堂などについて述べます。
現地情報
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| 所在地 | 三門:〒444-3173愛知県岡崎市滝町入ノ谷(地図) 本堂:〒444-3173愛知県岡崎市滝町山籠107(地図) |
| アクセス | 豊田東ICまたは岡崎から車で20分 |
| 駐車場 | 30台(無料) |
| 営業時間 | 随時(宝物殿は09:00-17:00) |
| 入場料 | 無料(宝物殿は有料) |
| 寺務所 | あり |
| 公式サイト | 瀧山寺 天台宗吉祥陀羅尼山薬樹王院 |
| 所要時間 | 30分程度 |
文化財情報
境内
三門

岡崎市街から滝山寺へ向かうと、その途中の集落の中に三門が東面しています。
この三門から滝山寺境内までは、700メートルほどの距離があります。三門の先には川に沿った車道と集落がつづいていますが、この区画は滝山寺の参道だったようです。
三門は、三間一戸、楼門、入母屋造、こけら葺。
『滝山寺縁起』によると、飛騨権守藤原光延によって1267年(文永四年)に造営されたとのこと。ただし現存の三門は、建築様式より鎌倉末期から室町初期のものと考えられています。国指定重要文化財。

下層。中央の柱間はやや広く取られています。
柱は円柱。軸部は貫が多用され、長押は使われていません。

隅の柱は頭貫に拳鼻がついています。隅の柱と頭貫との接合部には、繰型のついた持ち送りが添えられています。
柱上の組物は三手先。
中備えは間斗束。通肘木の上にも間斗束を立てており、古風な技法です。

上層。
中央には板戸が設けられています。板戸の上の扁額は、案内板によると1275年のもので、“正三位藤原朝臣経朝”なる人物の揮毫とのこと。

組物は和様の尾垂木三手先。桁下には軒支輪があります。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
縁側の欄干は擬宝珠付き。

隅の組物の尾垂木の上には青い力神が置かれ、隅木を受けています。
この力神は後世に追加されたものかと思います。

軸部は貫と長押で固めています。頭貫には小ぶりな木鼻がつけられており、案内板いわくここに禅宗様の意匠が見られるとのこと。

側面。軒下の意匠は正面とあまり差異がありません。

入母屋破風の内部は、妻飾りに豕扠首が使われています。
破風板の拝みには、雁股懸魚のような形状の懸魚が下がっています。

背面全体図。
こちらは左右の柱間に白壁が張られています。

山門の正面左には塚の上に石碑があり、「飛騨権守藤原光延塚」と彫られています。
案内板によると“工事にあたり飛騨権守藤原光延が垂木を逆さに打ったのを恥じて自殺したとの伝承があり、正面左手の塚はその墓”とのこと。
本坊
三門から移動して滝山寺境内に入ると駐車場があります。

こちらは滝山寺本坊の薬医門。
「東海四十九薬師霊場番外札所」とのこと。

本坊の玄関。
唐破風の軒下には派手な彫刻が配置されています。虹梁中備えには菊、その左右には唐獅子。その上には大瓶束が立てられ、両脇には波の意匠の笈形。
唐破風の棟の鬼板の造形も手が込んでいます。
観音堂

本坊から参道入口へ行く道中には観音堂があります。
桁行3間・梁間3間、宝形造、向拝1間、桟瓦葺。
江戸中期以降のものかと思います。

虹梁中備えは竜。木鼻は唐獅子と象。

柱上の組物は尾垂木の出た二手先。桁下には波の彫刻。
組物のあいだには唐獅子の彫刻がありますが、肝心の唐獅子の頭が欠損してしまっています。
本堂

本堂へ向かう参道には鳥居と社号標があります。
鳥居は石造明神鳥居。社号標は「瀧山東照宮」。
現在の滝山寺と滝山東照宮はそれぞれ別の寺院と神社ですが、神仏習合の時代のなごりで境内と参道を共有しています。このような事情があるため、寺院の参道に鳥居が堂々と立っています。

参道を進むと、境内の中心部に本堂が南面しています。本堂の外観は和様と禅宗様が混在し、折衷様の意匠となっています。
桁行5間・梁間5間、寄棟造、檜皮葺。

『滝山寺縁起』によると1222年(貞応元年)の造営ですが、建築様式より室町初期から中期の造営と考えられています。国指定重要文化財。
本尊は薬師如来。右奥に小さく写り込んでいるのは滝山東照宮の拝殿と本殿。
堂内は前方の2間通りが外陣となっており、自由に出入りできます。後方の3間通りは内陣で、厨子などが安置されています。外陣と内陣の境界部は格子で仕切られており、折衷様建築(密教本堂)の典型といえる造り。

正面の柱間は5間。
柱間はいずれも桟唐戸で、これは禅宗様の意匠です。

正面中央の軒下。
飛貫に藁座がつき、桟唐戸の軸を受けています。

桟唐戸の下側。
こちらは藁座ではなく、切目長押の上に板材を打つことで軸を受けています。

正面向かって左側。
柱は円柱。軸部は飛貫と頭貫でつながれていますが、木鼻はありません。

側面も5間。こちらは扉がなく、いずれの柱間も横板壁。横板壁は和様の意匠です。
縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。脇障子はありません。


背面も5間。
背面の柱間は、中央が板戸、左右各2間が横板壁。

背面の軒下。
柱上の組物は出三斗と平三斗。平三斗は内部の虹梁の木口が突き出ています。
中備えは間斗束で、ここは和様の意匠。
組物と中備えは、通肘木で軒桁を受けています。
以上、滝山寺でした。