今回は愛知県岡崎市の滝山寺(たきさんじ)について。
滝山寺(瀧山寺)は岡崎市北部の山間にある天台宗の寺院です。山号は吉祥陀羅尼山。
草創は奈良時代で、もとは山岳信仰の霊場だったようです。平安後期から鎌倉期にかけて隆盛し、室町期は衰退するものの江戸期は徳川家から篤く庇護を受けています。
境内は2棟の伽藍が国重文に指定されています。三門は鎌倉初期に造営されたと伝わり、県内でもとくに古い建造物です。本堂は室町期の造営と考えられ、大型の密教系本堂で屋根は桧皮葺が維持されています。
現地情報
所在地 | 三門:〒444-3173愛知県岡崎市滝町入ノ谷(地図) 本堂:〒444-3173愛知県岡崎市滝町山籠107(地図) |
アクセス | 豊田東ICまたは岡崎から車で20分 |
駐車場 | 30台(無料) |
営業時間 | 随時(宝物殿は09:00-17:00) |
入場料 | 無料(宝物殿は400円) |
寺務所 | あり |
公式サイト | 瀧山寺 天台宗吉祥陀羅尼山薬樹王院 |
所要時間 | 30分程度 |
境内
三門
三門は境内の外にあり、滝山寺境内へつづく集落の中に鎮座しています。東向き。
三門の向こう側には川にそって集落が続いていますが、もとは滝山寺の参道だったようです。なお、ここから滝山寺境内まで車で5分足らずです。
三門は三間一戸、楼門、入母屋、こけら葺。
『滝山寺縁起』によると、飛騨権守藤原光延によって1267年(文永4年)に造営されたとのこと。ただし、建築様式から判断すると鎌倉末期~室町初期のものと考えられています。国指定重要文化財。
下層(1階部分)。柱は円柱。
軸部は貫を多用して固定しており、長押は使われていません。
頭貫の木鼻は渦状の繰型が彫られた拳鼻。頭貫と柱の接合部には、繰型のついた持ち送りが設けられています。
柱上の組物は三手先。組物のあいだには間斗束(けんとづか)が立てられています。
上層(2階部分)。
組物は和様の尾垂木が出た三手先。桁下には軒支輪。軒裏は二軒繁垂木。
扁額の字は私には判読できませんが、1275年のものとのこと。案内板によれば“正三位藤原朝臣経朝”の揮毫とのことですが、検索しても藤原経朝という人物の情報が見つかりません...
軸部は貫と長押を併用して固定されています。頭貫には繰型のない小さな木鼻がつけられており、案内板いわくここに禅宗様の意匠が見られるとのこと。
写真左上、尾垂木の上には青い力神が置かれ、隅木を受けています。鎌倉後期あたりの寺社建築で力神が使われているのは初めて見たので少し驚きました。
側面。軒下の意匠は正面とあまり差異がありません。
入母屋破風の内部は、妻飾りに豕扠首が使われています。
右後方から見た図。
山門の正面左には「飛騨権守藤原光延塚」。
案内板によると“工事にあたり飛騨権守藤原光延が垂木を逆さに打ったのを恥じて自殺したとの伝承があり、正面左手の塚はその墓という”とのこと。
どこの垂木をまちがえたのだろうと気になって探してみたものの、それらしい垂木は見つかりませんでした。
本坊
三門から移動して滝山寺境内に入ると駐車場があります。
こちらは滝山寺本坊の薬医門。
「東海四十九薬師霊場番外札所」とのこと。
本坊の玄関。
唐破風の軒下には派手な彫刻が配置されています。虹梁中備えには菊、その左右には唐獅子。その上には大瓶束が立てられ、両脇には波の意匠の笈形。
唐破風の棟の鬼板の造形も手が込んでいます。
観音堂
本坊から参道入口へ行く道中には観音堂があります。
桟瓦葺の宝形。方三間、向拝1間。おそらく江戸中期後期のもの。
虹梁中備えは竜。木鼻は唐獅子と象。
柱上の組物は尾垂木の出た二手先。桁下には波の彫刻。
組物のあいだには唐獅子の彫刻がありますが、肝心の唐獅子の頭が欠損してしまっています。
本堂
本堂へ向かう参道には鳥居と社号標が立っています。
鳥居は石造の明神鳥居、社号標は「瀧山東照宮」。
現在の滝山寺と滝山東照宮はそれぞれ別の寺院と神社ですが、神仏習合の時代のなごりで境内と参道を共有しています。そういった事情があって、寺院の参道に鳥居が堂々と立つというちょっと妙なことになっています。
本堂は桁行5間・梁間5間、寄棟、檜皮葺。
『滝山寺縁起』によると1222年(貞応元年)の造営ですが、建築様式から室町初期~中期の造営と考えられています。国指定重要文化財。
本尊は薬師如来。
右奥に小さく写り込んでいるのは滝山東照宮の拝殿と本殿。
堂内は前方の2間通りは自由に出入りできる外陣となっています。後方の内陣は格子で仕切られていて、厨子などが安置されています。
柱間には両開きの桟唐戸。軸部は貫で固定され、木鼻は使われていません。
柱上の組物は出三斗、組物のあいだには間斗束。軒裏は二軒の繁垂木。
側面は扉がなく、壁板が横方向に張られています。
縁側は切目縁が4面にまわされています。欄干は擬宝珠、床下は縁束。脇障子はありません。
全体的に和様をベースにした作風ですが、貫を多用したり桟唐戸が使われたりしているところは禅宗様の影響があるように見えます。
滝山寺の伽藍については以上。本堂のすぐ隣には東照宮があり、ここまで来たのならそちらもあわせて見て行くのが良いでしょう。滝山東照宮については当該記事をご参照ください。
以上、滝山寺でした。
(訪問日2020/09/12)