甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【南アルプス市】長谷寺

今回は山梨県南アルプス市の長谷寺(ちょうこくじ)について。

 

長谷寺は市北部の農村に鎮座する真言宗智山派の寺院です。山号は八田山。

創建は寺伝によると奈良時代。天平年間(729-749)に行基が当地を訪れ、長谷寺(奈良県桜井市)を模して十一面観音を祀ったのがはじまりと伝わります。当初の山号は奈良県の長谷寺と同じ豊山だったらしいですが、平安時代に周辺が開拓され八田牧・八田荘となったため、現在の八田山に改められました。創建以来近郷の鎮守として崇敬され、室町時代には武田氏の崇敬を受けたとのこと。

現在の境内伽藍は山門と本堂が鎮座し、境内南に諏訪神社(上八田)が隣接しています。本堂は室町後期の建築で、年代も明らかであることから国の重要文化財に指定されています。また、本尊の十一面観音立像(秘仏のため非公開)は平安時代の造立で、県指定有形文化財です。

 

現地情報

所在地 〒400-0204山梨県南アルプス市榎原442(地図)
アクセス 竜王駅または塩崎駅から徒歩1時間
白根ICから車で5分
駐車場 3台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり(要予約)
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

山門

長谷寺の境内は南向き。境内の手前には車道が通り、道を挟んだ南側には諏訪神社があります。

右に立つ寺号標は「八田山 長谷寺」。

山門は、三間一戸、八脚門、切妻、銅板葺。

 

正面中央の通路部分。

柱は円柱で、柱間に飛貫虹梁と頭貫がわたされています。欄間彫刻や中備えといった意匠はありません。

 

向かって右。

左右の柱間は、中央よりやや低い位置に飛貫虹梁があります。

柱上の組物は出組。

 

頭貫には拳鼻がついています。

 

右側面(東面)。

側面は2間で、前方は吹き放ち、後方は横板壁が張られています。

 

妻飾りは二重虹梁。大虹梁の上に蟇股と出三斗を置き、二重虹梁の上の組物(平三斗)で棟木を受けています。

破風板の拝みには猪目懸魚。

 

内部の通路部分。通路上に虹梁がわたされています。

奥の虹梁に掲げられた扁額は、山号「八田山」。

 

内部向かって左側。

門の内部に天井はなく、化粧屋根裏となっています。

通路の左右の柱は棟木まで通っていて、多数の貫を通して小屋組を構成しています。

化粧屋根裏で貫や通肘木が多用されていて、大仏様建築のような造りだと思います。

 

背面。

こちらも虹梁や貫の上に中備えなどの意匠はありません。

左右の柱間は横板壁。

 

本堂

山門の先には本堂が鎮座しています。本尊は秘仏の十一面観音。

本堂は、桁行3間・梁間3間、入母屋、向拝1間、銅板葺。

1524年(大永四年)の再建(附の旧材の墨書銘より)。国指定重要文化財*1

 

堂内の様子については以下のとおり。

(※前略)

本堂内部は四天柱が立てられ、その内側を内陣、外側を外陣とする。内陣後方に来迎壁を張り、その前に禅宗様仏壇を据え、壇上に本尊を安置する妻入入母屋厨子を置く。厨子内には附指定の本堂嘉永二年(一八四九)再興棟札も納められている。内陣には各所に彩色が施されており、柱や貫には黒地に丹が塗られ、斗栱内側に彩色、天井格間には絵が描かれている。厨子も黒と丹の彩色のほか、壁から斗栱にかけて花や花唐草などの文様が彩色されている。

山梨県教育委員会
南アルプス市教育委員会

 

向拝の虹梁中備えは、透かし蟇股。通肘木を介して軒桁を受けています。

虹梁の下面には鰐口が吊るされています。

 

向かって右の向拝柱。

向拝柱は大面取り角柱。面取りの幅が大きく、とても古風な技法です。側面には唐獅子らしき獣の木鼻がつき、頭上に皿斗を乗せて組物を受けています。

柱上の組物は連三斗。先述の蟇股と同様に、こちらも通肘木で軒桁を受けています。

 

向拝柱と母屋柱とのあいだには、繋ぎ虹梁がわたされています。向拝側は組物の上から出て、母屋側は頭貫の下に取りついています。

向拝の縋破風に懸魚はなく、軒桁の木口が露出しています。

 

母屋正面は3間。

正面の建具はいずれも2つ折れの桟唐戸。

正面中央の扁額は寺号「長谷寺」。

 

左手前(南西)の隅の柱。

母屋柱は円柱で、頭貫に拳鼻がついています。頭貫の上の中備えは蓑束。向拝と同様に、組物と中備えは通肘木で軒桁を受けています。

飛貫には藁座がつき、桟唐戸の軸を吊っています。

 

左側面(西面)。

側面も3間。柱間は、前方が舞良戸、後方の2間が縦板壁。

桟唐戸や木鼻は禅宗様の意匠ですが、舞良戸や蓑束は和様の意匠で、和様と禅宗様を折衷した建築といえます。

 

左側面前方。中備えは蓑束。

柱上の組物は出三斗と平三斗が使われています。

 

入母屋破風には木連格子が張られ、破風板の拝みに蕪懸魚が下がっています。蕪懸魚の左右の鰭は雲の意匠。

大棟の上には小さな切妻の屋根があり、箱棟となっています。

 

背面も3間で、中備えは蓑束です。

 

右側面。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

縁側は角柱の縁束で支えられています。

母屋柱は礎石の上に据えられ、床下は八角柱に成形されています。円柱の床下を八角柱とするのは、室町時代以降に見られる技法です。

 

本堂周辺の伽藍

本堂東側には鐘楼があります。

寄棟、銅板葺。

 

本堂右後方(北東)には門と名称不明の堂があります。

門は、薬医門、切妻、桟瓦葺。

堂は、入母屋、銅板葺。桟唐戸と連子窓が使い分けられ、折衷様の造りです。

 

以上、長谷寺でした。

(訪問日2024/12/14)

*1:附:厨子1基、旧材1枚、棟札1枚