今回は山梨県笛吹市の慈眼寺(じげんじ)について。
慈眼寺は笛吹市南部の国道20号沿線に鎮座している真言宗の寺院です。山号は金剛山。
創建については不明で、室町期に中興され武田氏の庇護を受けていたものの、織田氏による甲州征伐の際に焼失したとのこと。現在の伽藍は江戸初期に再建されたもので、鐘楼門・本堂・庫裏の3棟が国指定重要文化財(国重文)となっています。
現地情報
所在地 | 〒405-0073山梨県笛吹市一宮町末木336(地図) |
アクセス | 一宮御坂ICから車で10分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | なし |
公式サイト | なし |
所要時間 | 15分程度 |
境内
鐘楼門
慈眼寺の境内は東向き。境内入口には、山門と鐘楼を一体化した鐘楼門が建っています。
鐘楼門は、一間一戸、楼門、入母屋、檜皮葺。
1階部分は正面1間・側面2間の四脚門(よつあしもん)となっていますが、2階部分は正面1間・側面1間となっています。柱はいずれも円柱。
案内板*1によると、梵鐘の銘より1650年(慶安三年)の造営と判断できるとのこと。
扁額は山号「金剛山」。国重文です。
1階部分。
礎石の上に円柱が立てられ、貫で連結されています。頭貫には雲状の木鼻がつけられています。
柱と柱をつなぐ梁の上には出三斗(でみつど)の組物が置かれ、2階の床下を受けています。
内部の梁の上には、白く塗装された壁に蟇股(かえるまた)が2つ。
壁面にはこて絵のような唐草の花が描かれており、蟇股の内部はハスとアブラナ(?)が彫られています。
2階部分。内部には梵鐘が吊るされています。
欄干は擬宝珠付き。
柱をつなぐ梁の上には台輪があり、梁だけでなく台輪にも木鼻がついていて、禅宗様の木鼻となっています。
台輪の上の扁額の字は、「剛」が独特な字体。軒裏は二軒(ふたのき)のまばら垂木。
左側面(南面)の全体図。
大棟は箱棟。入母屋破風の内部は格子になっています。
屋根は鉄板葺だったようですが、復元工事によって本来の檜皮葺となっています。また、鐘楼門の左右の袖塀も復元されたもの。鐘楼門や後述の本堂・庫裡の復元工事は、2009年(平成二十一年)から4年の歳月をかけて行われたとのこと。
本堂
鐘楼門の先には本堂が鎮座しています。
入母屋、茅葺。
鐘楼門や庫裏とともに国重文です。
造営年代は江戸初期。本尊は千手観音。
案内板によると下記のとおり。
本堂は元和八年~慶安三年(1622-1650)頃の建立と見られ、建物は桁行桁行16.3メートル、梁間11.9メートルの入母屋造、茅葺で、堂内は六室で構成された方丈型本堂で、仏壇中央に本尊千手観音像を安置する。板敷の室中や仏間以外は畳敷きで、付書院や床の間など装飾性にも見るべきものが多くあり、江戸時代前期の建立ではあるが、中世の建築技法の名残を今に伝える名建築となる。
正面(東面)および左側面(南面)。
軒裏は一重のまばら垂木。
柱間は吹き放ちのようですが、保存上の都合で雨戸が立てられており、味気なさが否めません。
おそらくこの雨戸を取り外すと、内部は障子やふすまになっていると思われます。先述の案内板から察するに、外観よりも内部の意匠に見どころがあるのでしょう。
縁側は、壁面と直交に張ったくれ縁がまわされていますが、側面は縁側が途切れています。
屋根の茅は、葺きなおしてから10年くらいなので表面がきれいな状態です。
入母屋破風からは凝った造形の懸魚(げぎょ)が下がっています。破風の内部は格子。
背面(西面)。
こちらも縁側がまわされていますが途切れています。
床下には補強のため金属製の筋交いが入れられていました。
「外周は角柱でも、内側や内陣は円柱なのでは?」と思って床下を観察してみたものの、格子や筋交いのせいで暗くてよく見えず。
後日再訪してみたところちょうど掃除中で、雨戸を取り外した状態を見ることができました。
中央には両開きの桟唐戸。ご住職が障子戸を空けて下さり、内部に安置されている仏像を見ることができました。写真撮影は自重したため割愛。
庫裏
本堂の北側には、通路によって連結された庫裏(くり)があります。写真は正面(東面)。
庫裏は茅葺の入母屋(妻入)。背面側は切妻。こちらも国重文です。
案内板によると下記のとおり。
庫裏は元和八年~寛文七年(1622-1667)頃の造立となる。建物は桁行14.6メートル、梁間11.8メートルの正面入母屋造、背面切妻造茅葺で、背面下屋庇が檜皮葺となる。妻入の平面を持ち、土間部分に壮大な小屋組を見せており、全国的に見ても古い時代の庫裏建築として価値が高い。
正面の破風。
入母屋破風の内部には、海老虹梁(えびこうりょう)のような意匠が見えます。
この庫裏の最大の特徴が背面(西面)。
正面が入母屋だったのに対し、背面は切妻となっています。また、妻壁の下方に庇がついており、なぜかここだけ檜皮葺のようです。
妻壁の大きさから想像できるように、内部の小屋組が見どころ(先述の案内板より)らしく、内部を見られないため外観を眺めるしかできないのが惜しいです。
以上、慈眼寺でした。
(訪問日2020/05/24,2021/01/23)
*1:文化庁と山梨県教育委員会と笛吹市教育委員会による設置