兵庫県神戸市
太山寺(たいさんじ)
2025/05/01撮影
当記事では太子堂、阿弥陀堂などについて述べます。
太子堂(観音堂)

三重塔の東側には、太子堂が南西向きに鎮座しています。堂の名前は、パンフレットとGoogle Mapには太子堂と書かれていましたが、公式サイトには「観音堂」と書かれています。
石段の上には石造明神鳥居。

太子堂は、梁間3間・桁行2間、三間社隅木入り春日造、向拝3間軒唐破風付、銅板葺。
造営年不明。江戸中期以降のものかと思います。

正面の破風。
拝みに蕪懸魚が下がり、妻飾りは虹梁大瓶束。

向拝の中央。
唐破風の拝みには、兎毛通が下がっています。兎毛通の奥の棟木の部分には、鰐口と縄がかけられています。
向拝の軒桁は、中央の唐破風の部分だけ虹梁になっており、中央に大瓶束を立てています。

向拝柱のあいだには虹梁がわたされ、中備えは蟇股。虹梁は絵様や錫杖彫りのついたもの。蟇股は竜や麒麟などの神獣が彫られています。


向拝柱は面取り角柱。柱上の組物は出三斗と連三斗。
隅の柱は側面に唐獅子の木鼻がついています。

向拝柱の組物の上から海老虹梁が伸び、軒裏をかすめて母屋の頭貫の位置に取りついています。
母屋の隅の柱の上からは隅木が伸び、正面側は入母屋に似た軒まわりとなっています。ただし背面(後述)は切妻になっているため、この堂は「隅木入り春日造」です。
向拝の軒の端部には縋破風がつき、桁隠しとして鰭のついた懸魚が下がっています。

母屋の正面は3間。柱間は3間とも引き違いの格子戸。
春日造や隅木入り春日造で、母屋の正面が3間となる例はめずらしいです(たいていは正面1間)。

母屋柱は円柱。軸部は長押と貫で固められ、頭貫には拳鼻があります。
柱上の組物は平三斗と出三斗で、隅の柱は出三斗が使われています。

母屋の正面中央の柱間。
頭貫の上の中備えは蟇股。こちらの蟇股は松に鶴が彫られています。

側面は2間。柱間は横板壁。
縁側はくれ縁が3面にまわされ、跳高欄と脇障子が立てられています。

側面も中備えに蟇股があります。彫刻は、何らかの故事を題材にしたもの。

右側面。
脇障子に彫刻がありますが、欠損していて題材がわかりません。反対側(左側面)の脇障子にも彫刻がありますが、そちらも大部分が欠損してしまっていました。

背面。
正面は入母屋に似た軒まわりでしたが、こちらは軒がまわされておらず、切妻です。
背面も3間あり、柱間は横板壁です。

背面中央の中備えの蟇股。題材は枇杷に猿。


左右の柱間の中備え。
こちらは猿や雀の彫刻が入っています。

妻飾りは二重虹梁。
大虹梁の中央には孔雀の彫られた蟇股が置かれ、その左右に大瓶束を立てています。二重虹梁の上には大瓶束を立て、棟木を受けています。
破風板の拝みには蕪懸魚。

太子堂向かって左側(北)には兵庫稲荷大明神が並立しています。
本殿は、切妻造、銅板葺。
羅漢堂

本堂の裏手、境内東側の区画には羅漢堂と釈迦堂が南西向きに鎮座しています。
こちらは羅漢堂。四天王、十六羅漢、釈迦の四大弟子の像が祀られているようです。
入母屋造、向拝1間、向唐破風、本瓦葺。
寺伝によると天明年間(1781-1789)の造営。

正面の唐破風。
兎毛通は蕪懸魚で、左右に波状の意匠がついています。

柱間の虹梁は絵様が彫られ、中備えは蟇股。
その上にも虹梁がわたされ、大瓶束で唐破風の棟木を受けています。大瓶束は白い結綿がつき、左右には透かし彫りの木鼻があります。

向拝柱は几帳面取り角柱。正面と側面には雲状の象鼻がついています。
柱上の組物は連三斗。

向拝柱と母屋柱とのあいだには、繋ぎ虹梁がわたされています。
母屋の正面には桟唐戸と火灯窓。

正面中央の桟唐戸の上には、虹梁と笈形付き大瓶束。笈形は雲とも波ともつかない意匠。

母屋は正面3間、側面3間。
柱は角柱が使われ、柱上は舟肘木。柱間は白壁です。

入母屋破風には木連格子が張られ、破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。鰭は若葉の意匠です。

羅漢堂の背面には入母屋造(妻入)の棟がつながっていて、平面や大棟はT字型の構造になっています。
釈迦堂

羅漢堂の後方には釈迦堂。堂内には釈迦如来、文殊、普賢の釈迦三尊が祀られているようです。
桁行3間・梁間3間、宝形造、本瓦葺。
寺伝によると享和年間(1801-1804)の再建。

正面は3間。
柱間は格子戸が入り、軸部は貫や虹梁でつながれています。

正面中央の柱間。
飛貫虹梁には波が陰刻されています。中備えは竜の彫刻。

柱は面取り角柱。
飛貫や頭貫の木鼻は、唐獅子、獏、象が彫られています。
柱上の組物は大斗と花肘木を組んだもので、木鼻もついています。

側面は3間で、前方の1間が広く取られています。柱間は舞良戸と白壁。

前方の1間は戸の上に飛貫虹梁がわたされ、鳳凰の彫刻があります。
柱上には台輪がわたされ、この柱間だけ中備えとして詰組が置かれています。

反対側(左側面)。
こちらは飛貫虹梁の上に彫刻がありません。欠落してしまったと思われます。
軒裏は一重の繁垂木。

頂部の宝珠。
露盤の上にも瓦が葺かれ、小さな宝形屋根のような構造になっています。
阿弥陀堂

本堂向かって左側、境内北側の区画には、阿弥陀堂が南東向きに鎮座しています。
桁行5間・梁間4間、入母屋造、向拝1間、本瓦葺。
造営年不明。江戸中期以降のものかと思います。

向拝は1間。
階段は角材を使ったもので、7段あります。

向拝柱は几帳面取り角柱。側面には象の木鼻。
柱上の組物は連三斗。

虹梁は渦状の若葉が薄く陰刻され、下面には錫杖彫りがついています。
虹梁中備えは、中央が平三斗、左右が蟇股。蟇股は竜の彫刻が入っています。

向拝柱の上には手挟。手挟には菊が彫られています。
海老虹梁や繋ぎ虹梁はありません。

母屋は正面5間。柱間は5間とも桟唐戸。


母屋柱は円柱。軸部は貫と長押で固められ、頭貫には禅宗様木鼻があります。
長押には藁座が取りつけられ、藁座で桟唐戸の軸を受けています。
柱上の組物は出三斗。頭貫の上の中備えは撥束。

右側面。
側面は4間で、柱間は引き戸、桟唐戸、横板壁が使われています。
組物や中備えは正面と同様です。


背面は5間。
柱間は、中央が桟唐戸、ほかの4間は横板壁。

入母屋破風。
妻飾りは二重虹梁で、大瓶束や蟇股が使われています。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

縁側は切目縁が4面にまわされ、欄干は擬宝珠付き。
母屋柱は円柱ですが、床下は八角柱に成形されています。

堂内には国重文の阿弥陀如来坐像が鎮座しています。
平等院鳳凰堂の阿弥陀如来と似た様式で造られているらしく、定朝の流派の仏師による作と考えられています。
護摩堂と鐘楼

本堂と阿弥陀堂の北側には護摩堂と鐘楼があります。こちらは護摩堂。
桁行3間・梁間3間、宝形造、本瓦葺。

正面は3間で、中央が桟唐戸、左右は横板壁。


軸部は貫と長押で固められ、頭貫には禅宗様の拳鼻。
柱上は出組。中備えは撥束。

左側面。
正面と同様に、中央に桟唐戸が設けられています。中備えなどの意匠も正面と同様です。
縁側は切目縁が4面にまわされ、擬宝珠付きの欄干が立てられています。

頂部の宝珠。
露盤には格狭間の意匠がつき、大ぶりな反花の上にタマネギ型の宝珠が乗っています。

護摩堂のはす向かいには鐘楼。
切妻造、本瓦葺。


四隅の主柱は円柱。その脇に添えられた2本の控柱は面取り角柱。つごう12本の柱が使われています。
柱間は腰貫、飛貫、頭貫でつながれ、柱上は大斗で梁や桁を受けています。

妻虹梁は眉欠きと袖切だけが彫られたもの。妻飾りは大瓶束。
破風板の拝みには猪目懸魚。
以上、太山寺でした。