甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【川越市】日枝神社(小仙波町)

今回は埼玉県川越市小仙波町(こせんばまち)の日枝神社(ひえ-)について。

 

日枝神社は川越市街の中心部に鎮座しています。

創建は伝承によると860年(貞観二年)。円仁が無量寿寺(喜多院)を開いたとき、鎮守社として日吉大社を勧請したのがはじまりとされます。その後の創建は不明。1478年には太田道灌が当社の分霊を江戸城内に祀ったようで、当社は遅くとも室町中期には確立されていたと思われます。室町後期の川越夜戦や江戸前期の大火で喜多院が焼失していますが、当社が被災したかは不明です。江戸時代は喜多院とともに再興されて隆盛しました。当初は日吉山王社と呼ばれていましたが、明治時代に喜多院から分離されて現在の社号に改められ、大正時代に現在地へ移転となりました。

現在の境内は喜多院境内からわずかに離れた場所にあり、社殿は拝殿と本殿だけの簡素な内容です。本殿は室町後期の造営と考えられ、国の重要文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒350-0036埼玉県川越市小仙波町1-4-1(地図)
アクセス 本川越駅または川越駅から徒歩15分
川越ICから車で15分
駐車場 なし(喜多院に有料駐車場多数あり)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト 日枝神社
所要時間 10分程度

 

境内

拝殿

日枝神社の境内は南向き。境内入口は幹線道路に面しています。

右の社号標は「國寶 日枝神社」。ここでいう国宝(國寶)は戦前の法で指定された旧国宝で、現行の法の重要文化財に相当します。

入口の鳥居は石造明神鳥居。扁額は「日枝神社」。

 

鳥居の左手前には手水舎。

切妻、銅板葺。

2本の主柱の前後に控柱を立て、貫でつないだ構造。両部鳥居に似た構造です。

 

参道の先には拝殿。

入母屋、向拝1間、銅板葺。

 

向かって右の向拝柱。

向拝柱は面取り角柱。柱上は連三斗。柱の側面に木鼻がつき、皿斗を介して連三斗を持ち送りしています。

 

虹梁中備えは蟇股。植物の彫刻が入っています。

蟇股と軒桁のあいだの実肘木には、猪目(ハート形)のくぼみが彫られています。

 

母屋の正面と側面。

正面は3間で、中央は板戸、左右は格子の引き戸。側面は2間で、格子戸と横板壁。

柱は面取り角柱で、柱上は舟肘木。

縁側は切目縁が3面にまわされています。欄干や脇障子はありません。

 

入母屋破風には木連格子が張られています。

破風板の拝みには猪目懸魚。

 

本殿

拝殿の裏には、透塀に囲われた本殿が鎮座しています。祭神は大山咋神と大国主。

桁行3間・梁間1間、三間社流造、向拝3間、銅板葺。

室町後期の造営国指定重要文化財*1

 

大棟には千木と鰹木。

千木は置き千木が2つあり、先端は水平に切りそろえられています。鰹木は紡錘形のものが4本。

 

向拝は3間。

向拝柱は面取り角柱が使われ、隅の柱は側面に禅宗様木鼻がついています。柱上の組物は出三斗と連三斗。

虹梁は眉欠きと袖切だけが彫られた無地のもの。3間のうち中央の虹梁には中備えに蟇股がありますが、左右の虹梁は中備えがありません。

 

縁側は、母屋正面の1面のみ設けられています。縁側の手前には角材の階段が5段。縁側、階段ともに欄干はありません。

本殿は、大谷石と思われる石材の基壇の上に据えられています。

 

母屋柱は円柱。軸部は貫と長押でつながれています。頭貫には禅宗様の拳鼻。

母屋正面は3間で、3組の板戸が設けられています。母屋側面は板壁。

 

向拝柱と母屋とのあいだには、繋ぎ虹梁がかかっています。向拝側は組物の上から出て、母屋側は頭貫の位置に取りついています。

向拝の桁隠しには蕪懸魚。

 

母屋の組物は出三斗。中備えはありません。

妻飾りは、無地の妻虹梁の上に大瓶束が立てられています。

破風板の拝みには蕪懸魚。母屋には桁隠しの懸魚がなく、木口が露出しています。

 

背面は3間。柱間は板壁で、床下も同様です。

隅の柱は組物に出三斗が使われていましたが、背面の中央の2本の柱は、巻斗と舟肘木を組んだ簡素な組物となっています。

土台部分の横木は、井桁状に組まれています。

 

以上、日枝神社でした。

(訪問日2024/10/11)

*1:附:宮殿1基