今回は埼玉県川越市の成田山川越別院(なりたさん かわごえべついん)について。
成田山川越別院は川越市街に鎮座する真言宗智山派の寺院です。山号は成田山、院号は本行院(ほんぎょういん)。
創建は1853年(嘉永六年)。成田山新勝寺の僧・石川照温が、廃寺となっていた本行院を再興して不動明王を祀ったのが当寺のはじまりです。前身となった本行院の縁起や沿革については不明。1876年に成田山の末寺となり、1877年に成田山川越別院という名称になりました。
現在の境内伽藍は近現代のもの。本堂には成田山の不動明王の分霊にあたる本尊が祀られ、境内の一画には成田山の境内から勧請された出世稲荷が鎮座しています。
現地情報
所在地 | 〒350-0055埼玉県川越市久保町9-2(地図) |
アクセス | 本川越駅または川越駅から徒歩20分 川越ICから車で15分 |
駐車場 | 20台(有料) |
営業時間 | 08:00-16:00 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり |
公式サイト | 成田山川越別院 |
所要時間 | 15分程度 |
境内
山門
成田山川越別院の境内は東向き。正面の入口は住宅地の道路に面し、南へ100メートルほど行くと喜多院の多宝塔があります。
右の寺号標は「大本山 成田山川越別院」。
山門は、四脚門、入母屋、正面背面軒唐破風付、瓦棒銅板葺。
向かって右の柱。見返り竜の彫刻があります。
柱上の組物は出三斗を変形させたもので、中備えの出三斗(写真左)と舟肘木・実肘木を共有しています。
虹梁の上には台輪が通り、中備えに竜らしき彫刻が配されています。
唐破風の小壁には笈形付き大瓶束。
内部向かって右側。写真右が正面方向です。
柱はいずれも円柱が使われ、写真中央の主柱の上には冠木が通っています。
内部の通路部分には格天井が張られています。
背面の軒下。
こちらも正面と同様に、柱や中備えに彫刻があります。
右側面(北面)の入母屋破風。
破風板の拝みには蕪懸魚。左右の鰭は雲の彫刻。
妻飾りはほとんど見えませんが、組物と妻虹梁が確認できます。
山門をくぐると、右手に大師堂が南面しています。
2つの直交する寄棟屋根を組み合わせた形式です。屋根葺きは桟瓦。右手前の棟は吹き放ちで、内部には四国八十八か所のお砂踏みがあります。
左側の主屋部分。扁額は「大師堂」。
柱は角柱。正面には桟唐戸が設けられ、内部には空海(弘法大師)の像が安置されていました。
手水舎と鐘楼堂
本堂の手前まで進むと、参道右手に手水舎が南面しています。
入母屋、正面軒唐破風付、銅板葺。
正面の軒下。
破風板の兎毛通の彫刻は、波に亀。
唐破風の左右の桁のあいだには、絵様のついた虹梁がかかり、その上に蟇股を置いて唐破風の棟木を受けています。
柱は几帳面取り角柱。柱間の虹梁は波状の絵様が彫られ、柱に木鼻がついています。
柱上には台輪が通り、組物は出三斗、中備えは蟇股。
手水舎の奥(北側)には鐘楼堂。下層の袴腰はコンクリートで造られています。
入母屋、桟瓦葺。
1892年の造営で、梵鐘も同年の鋳造(公式サイトより)。
柱は几帳面取り角柱。斜め方向に唐獅子の木鼻がついています。
柱上の組物は出組。
柱間の虹梁は、袖切、眉欠き、絵様が彫られたもの。虹梁の上に台輪が通り、中備えに彫刻が配されています。上の写真の彫刻は、梅と鵲(カササギ)と思しき鳥。
桁下の支輪板には、唐草のような意匠が彫られています。
本堂
境内の中心部には本堂が東面しています。本尊は成田山新勝寺から勧請された不動明王。
入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、瓦棒銅板葺。
公式サイトによると1933年の再建。
向拝の軒唐破風と虹梁中備え。彫刻は、当地の工匠・野本民之助の作(境内案内板*1より)。
軒唐破風の破風板の拝みは、鳳凰の彫刻。
虹梁中備えは金網がかかっていますが、竜の彫刻が配されています。竜の上にも細い虹梁がわたされ、笈形付き大瓶束を置いて棟木を受けています。
向かって左の向拝柱。
向拝柱は几帳面取り角柱。内側(写真右)の虹梁との接続部には、牡丹に唐獅子の彫刻が添えられています。
金網で見づらいですが、柱の正面は唐獅子、側面は獏の木鼻があります。
柱上の組物は、出三斗の上に連三斗を重ねた形状のもの。写真右の虹梁の上にも同形状の組物があり、肘木を共有しています。
向拝を左側(南面)から見た図。
向拝柱と母屋柱とのあいだには、湾曲した海老虹梁がわたされています。
反対側(北側)から見た図。
海老虹梁と向拝柱との接続部にも持ち送りが添えられています。持ち送りの彫刻は牡丹。
向拝の組物の上には手挟が使われ、軒裏を受けています。手挟は雲の意匠のものが2つ並んでいます。
母屋柱は上端が絞られた円柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。
柱上の組物は出三斗と平三斗。台輪の上に中備えはなく、母屋部分の意匠は簡素です。
母屋の右側面(北面)。孫庇が設けられています。
縁側はコンクリート製の床板の上に、木製の擬宝珠付き高覧が立てられています。
軒裏は二軒まばら垂木。
正面の千鳥破風。
破風板の拝み懸魚の左右には、波状の鰭が添えられています。
妻飾りは見づらいですが、笈形付き大瓶束が確認できます。
左側面の入母屋破風。
拝み懸魚は正面千鳥破風のものと同様のもの。
妻飾りは二重虹梁ですが、その上の意匠は懸魚の影になってしまい観察できず。
境内北側の伽藍
参道の右手、境内北側にも多数の伽藍が点在しています。
こちらは出世稲荷で、成田山新勝寺にある同名の境内社の分霊が祀られています。鳥居と本殿は南向き。
入口には石造明神鳥居。扁額は「だ枳尼天尊」*2。
出世稲荷本殿は、一間社流造、瓦棒銅板葺。
1922年造営。日清紡川越工場の鎮守として造られたもので、2009年の工場閉鎖にともない当地に移築されたもの。棟梁は、先述の本堂の彫刻を手がけた野本民之助。
向拝柱は几帳面取り角柱。側面には見返り唐獅子の木鼻。柱上の組物は皿付きの出三斗。
虹梁中備えは竜の彫刻。覆屋や金網がかかっていませんが、非常に保存状態が良いです。
縁側には狐の像が並べられています。
母屋正面の扉は蝶番で吊られています。扉の左右には、昇り竜・降り竜の彫刻。
右側面(東面)。
母屋側面の壁にも彫刻があります。こちらの彫刻は鳳凰が彫られています。
縁側は切目縁が3面にまわされ、跳高欄が立てられています。側面後方には脇障子が立てられ、羽目板に彫刻があります。
左側面。
壁面の彫刻は、松の木の下に鷹匠らしき男性と子供が立つ構図。
脇障子の彫刻は欄干の影になってしまいましたが、槌をふるう刀鍛冶が彫られています。案内板によると題材は三条宗近とのこと。
母屋柱は円柱。軸部は長押と頭貫で固められていますが、木鼻がなく、柱と頭貫の上に台輪が通っています。
組物は出三斗で、中備えは蟇股。妻飾りは笈形付き大瓶束。
破風板の懸魚の彫刻は、波に兎。
出世稲荷の左側には福寿殿と開山堂。
右の福寿殿は、切妻(妻入)、正面庇付、銅板葺。
左の開山堂は、宝形、正面庇付、銅板葺。
本堂向かって右側には放生池があり、石橋の先に弁財天と地蔵が祀られています。
境内北西の出入口には、名称不明の門が北面しています。
薬医門、切妻、桟瓦葺。
柱は角柱。柱上に冠木をわたし、腕木を出して軒桁を受けています。
背面。
門扉は板戸。ほか、目立った装飾はなく、簡素な造りです。
以上、成田山川越別院でした。
(訪問日2024/10/11)