甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【川越市】熊野神社と蓮馨寺

今回は埼玉県川越市の熊野神社蓮馨寺について。

 

熊野神社

所在地:〒350-0066埼玉県川越市連雀町17-1(地図)

公式 :川越 熊野神社

 

熊野神社(くまの-)は川越市街に鎮座しています。

創建は1590年(天正十八年)。蓮馨寺の然誉文応によって熊野権現が勧請されたのがはじまりとされます。創建以来、当地の氏神として庶民から崇敬されたようです。1713年には現在の二の鳥居が立てられました。

 

境内

熊野神社の境内は東向き。正面の入口は商店街の一画にあります。

右の社号標は「熊野神社」。

一の鳥居は石造神明鳥居。

 

参道を進むと二の鳥居があります。石造明神鳥居。

 

参道の先には拝殿。

入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

 

向拝柱と母屋柱はいずれも角柱。柱上には舟肘木。

母屋柱は長押でつながれ、建具は板戸と半蔀が使われています。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

入母屋破風。

拝みに猪目懸魚が下がっています。

妻飾りは豕扠首。

 

拝殿の後方には本殿が鎮座しています。祭神は熊野権現。

本殿は、神明造、銅板葺。

棟持柱、鞭掛、棟覆板など、神明造に特有の意匠が確認できます。大棟の千木は、棟から突き出た形式のもの。

 

境内北側には、境内社が並立しています。境内社はいずれも南向き。

こちらは加祐稲荷神社(かゆう いなり-)。案内板によると1869年に蓮馨寺から遷座されたとのこと。

 

社殿は、切妻、向拝1間、銅板葺。

昭和以降の再建と思われます。

 

加祐稲荷神社の左側には3棟の境内社。

右から、厳島神社、秋葉神社、大鷲神社。

 

3棟のうち、右端にあるのが厳島神社。加祐稲荷神社と同様に1869年に蓮馨寺から遷座。訪問時は石畳の工事中でした。

社殿(写真左端)は、流造、銅板葺。

神仏習合により弁財天と同一視されており、銭洗弁天の別名があるようです。社殿のとなりは銭洗池。

 

3棟の中央にあるのが秋葉神社。『新編武蔵風土記』によると1723年の創建とのこと。

内部には狐に乗った烏天狗の像が安置されています。

 

左端が大鷲神社(おおとり-)。1922年に鷺宮神社(久喜市)から勧請されたとのこと。

社殿は、一間社流造、銅板葺。

 

以上、熊野神社でした。

 

蓮馨寺

所在地:〒350-0066埼玉県川越市連雀町7-1(地図)

公式 :蓮馨寺| Home

 

蓮馨寺(れんけいじ)は川越市街に鎮座する浄土宗の寺院です。山号は孤峰山。

創建は1549年(天文十八年)。河越城主・大道寺政繁の母の蓮馨による開基で、大道寺政繁の甥の感誉存貞によって開山されました。1602年には関東十八檀林のひとつとなり、江戸時代をとおして幕府に庇護されました。

 

境内

蓮馨寺の境内は東向き。正面の入口は幹線道路に面しています。

向かって右の標柱は「子育 呑龍上人」、左は「檀林 蓮馨寺」。

 

境内に入ると、右手に鐘楼があります。

切妻、本瓦葺。

造営年不明ですが、水舎の案内板によると1893年の大火で焼け残った堂のひとつとのこと。

 

柱は面取り角柱。頭貫に象鼻がつき、柱上に台輪が通っています。

柱上の組物は出三斗。

 

南側の妻面。

台輪の上の中備えは、木鼻のついた平三斗。

妻虹梁の上には笈形付き大瓶束が置かれ、斗栱を介して棟木を受けています。

破風板の拝みには、鰭のついた懸魚。鰭と桁隠しは雲の意匠です。

 

参道左手には手水舎。案内板には水舎(みずや)と書かれていました。

向唐破風、銅板葺。

造営年不明。先述の鐘楼とともに1893年の大火をまぬかれた堂宇です*1。江戸後期から明治初期のものかと思います。

 

正面向かって左(北東)の柱。

柱は几帳面取り角柱。柱上の組物は出三斗。

側面の木鼻は柱の手前にまで覆いかぶさる派手な造形で、彫刻の題材は牡丹に唐獅子。

柱と虹梁の接続部には持ち送りが添えられています。持ち送りの彫刻は波に亀。

 

正面向かって右(北西)。

木鼻はこちらも牡丹に唐獅子。紐のついた鞠をくわえています。

 

虹梁は唐草の絵様が浮き彫りになっています。虹梁の上には台輪が通り、中備えに彫刻があります。

彫刻の題材は闘鶏。中央で2羽の鶏が格闘し、左右の指揮者が軍配を振っています。

 

右側面(西面)。

中備えの彫刻は、唐子。

彫刻の上の妻虹梁は、絵様を陰刻したもの。妻飾りは雲状の蟇股。

 

破風板の兎毛通には、松に鶴の彫刻が下がっています。

 

背面。

こちらも木鼻は牡丹に唐獅子、持ち送りは波に亀。

中備えは題材不明。

 

左側面。

中備えの彫刻は、戯れる犬を唐子が眺めている構図。

 

参道の先には本堂が東面しています。本尊は阿弥陀如来。

入母屋、向拝1間 軒唐破風付、桟瓦葺。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱。側面の木鼻は見返り竜。

柱上の組物は、皿付きの出三斗をベースとしたもの。

 

虹梁中備えは竜の彫刻。左右には組物が置かれ、唐破風の桁を受けています。

竜の彫刻の上にも小さい虹梁がわたされ、中央に笈形付き大瓶束を置いて棟木を受けています。

破風板の兎毛通は猪目懸魚。

 

向拝柱と母屋柱は、まっすぐな繋ぎ虹梁がわたされています。

向拝柱の組物の上には板状の手挟が使われ、軒裏を受けています。

 

母屋柱は上端の絞られた円柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

組物は出三斗と平三斗。台輪の上の中備えは平三斗。

 

母屋は前方の1間通りが吹き放ちの土間となっています。

土間の空間にはびんずる像(なで仏)が安置されています。

 

左側面。

前方の母屋柱は円柱が使われていましたが、側面後方の柱は角柱が使われ、組物も省略されています。

 

入母屋破風や妻面はしっくいで白く塗りこめられています。

破風板の拝みには三花懸魚。妻飾りは笈形付き大瓶束。

 

本堂の北側、境内北西には客殿と思しき堂が東面しています。

二重?、入母屋(妻入)、本瓦葺。

 

下層は前方の1間通りが吹き放ちとなっています。

柱は角柱。母屋正面の建具は舞良戸と障子戸。

 

上層。扁額は山号「孤峰山」。

こちらも柱は角柱。組物はなく、母屋から腕木をのばして桁を外へ持ち出し、軒裏を受けています。

破風板には鰭のついた懸魚。

 

以上、蓮馨寺でした。

(訪問日2024/10/11)

*1:蓮馨寺設置の案内板より