今回も青森県弘前市の最勝院について。
当記事では五重塔や八坂神社などについて述べます。
五重塔
境内の北西には五重塔が南向きに鎮座しています。
三間五重塔婆、銅板葺。
全高31.2メートル。五重塔としては標準的な高さ。
1658年着工、1667年(寛文七年)建立。弘前藩3代・4代藩主の津軽信義・信政父子の寄進。
棟梁については諸説あり、同市国吉の竹内彦太夫なる人物とする説と、飛騨国高山の工匠を招いて造ったという説があるようです。
国指定重要文化財*1。
文化財に指定されている塔建築(五重塔・三重塔・多宝塔)として、日本最北に位置しています。
また、国の文化財(国宝・重要文化財)の五重塔のうち東北地方にあるのは、この塔と出羽三山神社の羽黒山五重塔(山形県鶴岡市)の2基のみで、貴重な物件といえます。
初重(最下層)と五重(最上層)の母屋をくらべると、五重は非常に小さく造られています。公式サイトによると、五重の柱間は初重の約半分とのこと。
逓減率が高い(上層が小さい)ため、見上げると空に向かって高々とそびえ立って見えます。
母屋は正面側面ともに3間。
柱間は、中央が桟唐戸、左右は連子窓。
正面(南面)には階段が5段。
縁側は切目縁。欄干と昇高欄には禅宗様の擬宝珠がついています。
柱はいずれも円柱。軸部の固定は長押が多用されています。
頭貫木鼻はありません。
組物は、和様の尾垂木三手先。持ち出された桁の下には、緑色の軒支輪。
中備えは蟇股。緑色の部分には干支と方角を表す文字が書かれています。
上の写真は南面の中央なので「午」(うま)。
向かって右の面(東面)。
正面以外の面は、左右の柱間に丸窓が設けられています。寺社建築ではあまり見かけない、めずらしい意匠。
軒裏は二軒繁垂木。
軒先がわずかにカーブして反り返っています。
隅木には風鐸が吊るされています。
二重および三重。
縁側の欄干は跳高欄。母屋の中備えは間斗束。
ほかは初重と同じ造り。
二重から五重を見上げた図。
いずれの重も、軒裏は二軒繁垂木です。
頂部には宝輪。
露盤から宝輪頂部の高さは9.4メートルで、全高の3割ほどを占めています。
六角堂
境内の南側にも多くの堂宇が点在しています。こちらは六角堂。
六角円堂、銅板葺。
1864年建立、2007年改修。
正面の扉は桟唐戸。扁額は「観世音」。
屋根は単純な六角錐ではなく、唐破風のような曲線形状です。また、路盤にも小さな庇のようなものがついています。
柱は六角柱。めずらしい形状です。
柱の上部には実肘木と持ち送りがついています。
軒裏は扇垂木。
太子堂など
こちらは境内の南東端にある太子堂。
宝形、銅板葺。造営年不明。
聖徳太子を祀った堂です。
母屋柱は円柱。
前面の扉は桟唐戸。
扁額は「太子堂」。
軒裏は二軒まばら垂木で、扇垂木になっています。
退色していますが、頭貫には輪違の文様が描かれています。頭貫木鼻は拳鼻。
組物は出三斗。中備えは透かし蟇股。
太子堂向かって右にある名称不明の堂(境内社)。
一間社流造、銅板葺。
向拝柱は角面取り。内側に斗栱があって、虹梁を持ち送りしています。
虹梁の木鼻は象鼻。
柱上の組物は出三斗。
軒裏は垂木がなく、板軒になっています。
虹梁中備えは透かし蟇股。
母屋の中備えにも蟇股が見えます。
海老虹梁はなんとも奇妙な形状。母屋側は木鼻をよけながら頭貫の下から出て、向拝の軒桁の位置まで登っています。
母屋柱は円柱で、粽。頭貫と台輪に木鼻がついています。
側面も中備えに蟇股があります。
妻飾りは大瓶束。
八坂神社
最後に、最勝院と並立する八坂神社。
入口は最勝院の仁王門のとなりにあります。
一の鳥居は木造の両部鳥居で、扁額は「八坂神社」。
進むと参道が右に90度折れ、境内は東向きになります。
二の鳥居は石造の明神鳥居。扁額は「八坂神社」。
拝殿は、入母屋(妻入)、向拝1間、鉄板葺。
向拝柱は几帳面取り。柱上は出三斗。
虹梁中備えは板蟇股。木鼻は象鼻。
破風板の拝みには三花懸魚。
入母屋破風には木連格子が張られています。
側面は4間。
後方(写真右)には、本殿へとつづく幣殿があります。
4月上旬の訪問でしたが、拝殿のとなりに雪が積まれ、融けきらずに残っていました。
拝殿の後方には塀に囲われた本殿が鎮座しています。
一間社神明造、鉄板葺。
祭神はスサノオなど。当初は牛頭天王として信仰されていたようです。
母屋正面は桟唐戸。手前の階段は、蹴上と蹴込板を組み合わせたもの。
大棟には千木と鰹木。千木は内削ぎ。鰹木は5本あります。
破風板の拝みの鞭掛は、片側5本あります。ふつう、鞭掛は片側4本です。
また、室外に立つ棟持柱がなく、神明造というよりは単なる切妻と言ったほうが適当かもしれません。
以上、最勝院でした。
(訪問日2022/04/09)
*1:附 旧伏鉢、旧露盤。伏鉢に「建立寛文六年五月大吉□日」の銘がある。