今回は青森県弘前市の最勝院(さいしょういん)について。
最勝院は市街地南部の寺町に鎮座する真言宗智山派の寺院です。山号は金剛山、寺号は光明寺。別名は大円寺。
創建は『津軽一統志』によると1532年(天文元年)。当初は同市堀越にあったようです。弘前城の築城にともない、城の鬼門の抑えとして1611年に同市田町へ移転し、弘前八幡宮の神宮寺となりました。現在地に移ったのは明治時代で、大圓寺(大鰐町に移転)の跡地に移転して伽藍を引き継いでいます。
現在の境内は、大部分が江戸後期以降のもの。五重塔は江戸初期に藩主の寄進で建てられたもので、日本最北の五重塔です。
当記事ではアクセス情報および仁王門と本堂について述べます。
現地情報
所在地 | 〒036-8196青森県弘前市銅屋町63(地図) |
アクセス | 中央弘前駅から徒歩10分、または弘前駅から徒歩25分 大鰐弘前ICから車で20分 |
駐車場 | 5台(無料) |
営業時間 | 09:00-16:30 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | 金剛山 最勝院 |
所要時間 | 20分程度 |
境内
仁王門(新仁王門)
最勝院の境内は北向き。めずらしい方角を向いています。
公式サイトによるとこちらは鍋屋町口と言うらしく、当初は西側の新寺町口が正門だったようです。
寺院が立ち並ぶ新寺町という地域の東端にあり、住宅地の一画の高台に境内があります。
正面(北)から境内に入ると、右手に鎮守・八坂神社、左手に最勝院の仁王門が見えます。八坂神社については後編で述べます。
最勝院の入口には仁王門。公式サイトでは「新仁王門」とあり、旧仁王門は境内西側にあるようです。
仁王門は、一間一戸、八脚門、切妻、正面背面軒唐破風付、瓦棒銅板葺。
1984年竣工。
棟梁は大室勝四郎氏。青森では名の通った宮大工のようです。
仁王門の手前には、狛犬ならぬ狛兎。
津軽地方には「一代様」という独特の干支信仰があり、当寺は卯年の守り神とされているようです。仁王門の幕には「卯歳一代様」と書かれています。
正面は3間で、うち1間が通路になっています(三間一戸)。
中央の軒先には唐破風が付き、その軒下に扁額が掲げられています。扁額はくずした字で「金剛山」。
破風板の兎毛通は猪目懸魚。
向かって左の柱。
柱は円柱で、上端が絞られています。
頭貫には拳鼻が付き、柱上に台輪が通っています。
組物は出組。中備えは間斗束。
側面も、正面と同様の意匠。
妻虹梁の上には大瓶束が立てられています。
大瓶束の左右には菊水の彫刻。
破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。桁隠しはありません。
内部の通路部分。
左右の柱から出た斗栱が、通路上の梁を持ち送りしています。
背面。こちらにも軒唐破風が付き、前後対称の構造です。
唐破風の小壁には短い大瓶束が立てられ、その左右は鳳凰と思しき鳥が彫られています。
鐘楼と手水舎
仁王門をくぐるとその先に鐘楼があり、参道がクランク状に折れた先に本堂が鎮座しています。
鐘楼は入母屋、銅板葺。
造営年不明。おそらく戦後の造営。
梵鐘は戦時中に供出され、1956年に新造されたもの。礎段の石は、かつて弘前城内にあった津軽為信像の台座を再利用しているようです。
主柱は角柱で、わずかに内へ転びがついています。
主柱の脇には細い控柱が立ち、つごう12本の柱が使われています。
虹梁の木鼻は象鼻。
組物は出三斗。
内部は格天井になっています。
本堂の手前には手水舎(水屋)。
入母屋、銅板葺。
柱は角面取り。
頭貫と台輪に禅宗様木鼻がついています。
柱上は出三斗。
内部は格天井。
台輪の上の中備えには力神。
公式サイトによると、これは邪鬼が仏の教えを受けて改心した「護法四善鬼」なるものだそうです。
4面すべてにこのような彫刻があり、それぞれ喜怒哀楽の表情をしているとのこと。上の写真は北面の「怒」。
本堂
本堂は、入母屋、正面千鳥破風付、向拝3間 軒唐破風付、瓦棒銅板葺。
1970年竣工。2002年改修。
棟梁は仁王門と同じく、大室勝四郎氏。
本尊は大日如来。
大振りな千鳥破風が印象的。屋根は千鳥破風の主張が強いですが、適度なバランスが保たれ、調和と安定感のあるシルエットになっていると思います。
向拝は3間。
軒唐破風がついています。
向拝の中央。
虹梁中備えは蟇股。
唐破風の小壁には透かし蟇股が置かれています。
向拝、向かって右。
向拝柱は几帳面取り。前面と側面には拳鼻。
柱上の組物は出三斗。
蟇股の彫刻は、植物をかたどった抽象的な図形。蟇股の上の巻斗は、軒桁を直接受けていて、肘木がありません。
扁額は院号「最勝院」。
母屋柱は角柱。柱間は舞良戸。
母屋と向拝はまっすぐな梁でつながれています。
母屋の組物は出組。
中備えは間斗束。
本堂向かって左(西側)には護摩堂。
公式サイトによると、かつて大円寺の本堂だった堂のようです。
宝形、向拝1間、銅板葺。
向拝柱は角面取り。側面には象鼻。
柱上は出三斗。
仁王門と本堂については以上。