甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【所沢市】金乗院(山口観音)

今回は埼玉県所沢市の金乗院(こんじょういん)について。

 

金乗院は狭山湖畔に鎮座する真言宗豊山派の寺院です。山号は吾庵山、寺号は放光寺。通称は山口観音(やまぐち かんのん)

創建は不明。寺伝によると行基あるいは空海によって開かれたらしいです。鎌倉幕府滅亡時には、新田義貞が当寺で戦勝祈願をしたと伝わります。以降、観音霊場として広く崇敬を集め、桃山時代には徳川家康の寄進を受けています。

現在の境内伽藍は江戸中期以降のものと思われます。新田義貞の伝承が残る霊馬堂や、五重塔、開山堂、七福神堂といった個性的な伽藍が点在しています。また、本尊の木造千手観音立像は市の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒359-1153埼玉県所沢市上山口2203(地図)
アクセス 西武球場前駅から徒歩5分
入間ICから車で20分
駐車場 30台(無料)
営業時間 09:00-16:00
入場料 無料
寺務所 あり
公式サイト なし
所要時間 30分程度

 

境内

山門(仁王門)

金乗院の境内は東向き。北東側の区画には狭山不動尊(天台宗)が隣接していますが、別の寺院で宗派も異なります。

境内入口の山門は、三間一戸、四脚門、入母屋、桟瓦葺。

 

柱はいずれも角柱。

通路左右の柱間には、仁王像が安置されています。

 

通路上には無地の虹梁がわたされ、中央部に束を立て棹縁天井を支えています。

 

背面。

ほぼ前後対称の構造となっています。

 

山門をくぐって参道の先の道路を横断すると、参道左手に手水舎があります。

切妻、銅板葺。

 

柱は上端が絞られた几帳面取り角柱。

虹梁には象鼻がつき、虹梁と柱の上に台輪が通っています。組物は出組で、中備えにも詰組があります。

 

手水舎の向かいには霊馬堂。

切妻(妻入)、本瓦葺。

 

内部には神馬像が安置されています。平成期に信徒により寄進されたもの。

 

本堂

参道の先には本堂が東面しています。本尊は千手観音。

本堂は、桁行7間・梁間6間、寄棟、向拝3間、銅板葺。

1762年(宝暦十二年)造営。

 

向拝は3間あります。こちらは中央の向拝で、鰐口が吊るされています。

柱間には虹梁がわたされ、中備えは板蟇股。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。正面に唐獅子の木鼻がついています。

虹梁には渦状の絵様のほか、菊と思しき花の彫刻があります。

柱上の組物は皿付きの出三斗。大斗と巻斗のあいだの肘木は、舟肘木ではなく実肘木が使われています。

 

隅の向拝柱。側面には獏の彫刻の木鼻がついています。

海老虹梁は、向拝柱の虹梁の高さから出て、母屋柱の頭貫の位置に取りついています。

 

向拝を右側(北側)から見た図。

向拝柱の組物の上の手挟は、牡丹と思しき花が彫られています。

縋破風の桁隠しは、雲間を飛ぶ鶴の彫刻。

 

母屋柱は円柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は木鼻のついた出組。木鼻は鳳凰の頭の彫刻。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

母屋の壁面にはこのようなマニ車が並べられています。

 

背面を右後方(北西)から見た図。

母屋の正面と背面は7間。背面中央の柱間は桟唐戸で、ほかは横板壁となっています。

側面には引き戸や連子窓が設けられています。

 

南西の丘から屋根を見た図。

屋根は寄棟ですが、正方形に近い平面で棟が短いため、宝形に似た外観となっています。

訪問時は屋根南面(写真右手前)の銅板の補修工事が行われていました。

 

その他の伽藍

本堂の右側を通って境内の裏へ進むと、大日堂があります。

宝形、銅板葺。

 

大日堂の裏には階段があり、丘の上に赤い五重塔が鎮座しています。

 

五重塔は八角形の平面で造られ、独特の外観を呈しています。

五重(最上層)には屋根が設けられていますが、四重以下は上層の縁側が屋根を兼ねていて、厳密には五重塔とは言えないかもしれません。八角の仏塔というと安楽寺八角三重塔(長野県上田市)がありますが、そちらは禅宗様建築なのもあって、この五重塔とは似て非なる外観です。

 

初重と二重。

柱は円柱で、柱間は板戸と連子窓。軸部は貫と長押で固められています。

柱の上部から雲肘木のような腕木が出て、上層の縁側を支えています。

 

五重の軒裏。軒裏は平行の二軒繁垂木で、地垂木・飛檐垂木ともに四角断面の材がつかわれています。

五重の組物は大仏様の挿肘木になっており、中備えには間斗束が見えます。

 

五重塔の近くには仏国窟というトンネルがあり、四国八十八か所のお砂踏みができます。

 

本堂の南側の区画には開山堂と七福神堂があります。こちらは開山堂で、堂内には「ぽっくりさん」という地蔵が祀られています。

開山堂は、宝形、銅板葺。

 

正面の軒下。

扉の上の欄間には、波間を飛ぶ竜と怪鳥の彫刻。軒桁の下の支輪板にも波の彫刻があります。

 

柱は円柱。唐獅子の彫刻が斜め方向についています。

柱上の組物は木鼻のついた出組。木鼻は鳳凰の頭の彫刻。

 

右側面。柱間は連子窓。

こちらの堂にもマニ車が設けられています。

軒裏は二軒の吹き寄せ垂木。

 

開山堂のとなりには七福神堂。

二重、入母屋、本瓦葺。

大陸風の作風で、個性的でにぎやかな建築です。

 

上層は正面2間・側面1間。

柱は上端が絞られ、柱上は出三斗と平三斗。頭貫の上の中備えには、彩色された花の彫刻が入っています。

 

大棟の上には、塔婆と竜の彫刻。

 

下層。内部には厨子のような小堂が置かれていました。

下層の柱は円柱で、極彩色で竜が描かれています。外側にも石柱が立てられており、こちらの柱は植物が彫られ、下層の軒裏の隅木を受けています。

 

左手前の柱。正面には唐獅子、側面には象の頭の木鼻。

柱の内側の手挟(写真右下)は、牡丹と鳥の彫刻。

 

柱間には虹梁がわたされています。虹梁中備えは、詰組と花の彫刻。

組物は三斗(出三斗または平三斗)を2つ重ねた構造のもの。

 

堂内には格天井が張られ、小堂があります。案内板には「布袋尊」とありました。

 

境内南側の駐車場の近くの区画には焔魔堂が東面しています。

入母屋、茅葺型銅板葺。

 

焔魔堂の後方には鐘楼。

宝形、銅板葺。

柱は角柱で、目立った意匠はありません。

 

以上、金乗院でした。

(訪問日2024/05/31)