甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【八王子市】広園寺

今回は東京都八王子市の広園寺(こうおんじ)について。

 

広園寺(廣園寺)は住宅地に鎮座する臨済宗南禅寺派の寺院です。正式な寺号は廣園禅寺。山号は兜卒山。

創建は諸説あり不明。室町前期に大江氏によって開かれたようです。『新編武蔵風土記稿』によると1389年(康応元年)の開基。

当初は10件ほどの塔頭のある大寺院だったようですが、1590年の小田原征伐で八王子城とともに焼失しました。その翌年から徳川家康の庇護を受けて再興されましたが、1697年(元禄十年)の大火ですべての伽藍を焼失しました。その後、現存の伽藍が江戸後期に再建されています。

境内は鬱蒼とした木立に覆われ閑静な雰囲気。総門・山門・仏殿が一直線に並ぶ典型的な禅宗様伽藍配置で、これらの伽藍が都指定有形文化財となっています。

 

現地情報

所在地 〒193-0933東京都八王子市山田町1577(地図)
アクセス 山田駅から徒歩5分
八王子ICまたは打越ICから車で15分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 あり(要予約)
公式サイト 廣園寺
所要時間 20分程度

 

境内

総門

広園寺の境内は南向き。入口は住宅地に面し、裏手(北側)は丘陵がそびえます。

総門は、一間一戸、四脚門、切妻、銅板葺。

1830年(文政十三年)再建

後述の山門、仏殿、鐘楼とあわせた計4棟で、都指定有形文化財となっています。

 

柱はいずれも円柱。

四脚門は前後の控柱を角柱にするのがセオリーですが、すべて円柱とする例も少数ながらあります(恵林寺山門など)。

 

門扉の上に掲げられた扁額は山号「兜卒山」。

軒裏は二軒繁垂木。

 

柱の上端がわずかに絞られ、柱上には台輪が通っています。

柱の正面および側面には象鼻。

柱上の組物は出三斗。

 

向かって右(東面)の妻壁。

主柱の側面には冠木が突き出ています。柱上は木鼻のついた平三斗。

妻飾りは蟇股。

 

破風板の拝みには、雲上の鰭が付いた蕪懸魚。桁隠しの懸魚も雲の意匠です。

 

門扉は縦板のもの。

前後の柱は貫で連結されています。

左右には袖塀がつき、境内を囲う長い塀に接続しています。

 

総門は通行できないため、境内を出入りするにはこちらの通用門(高麗門)を通ることになります。

通用門は、一間一戸、高麗門、切妻、銅板葺。

 

主柱と後方の控柱のあいだには、切妻の屋根がかけられています。

 

山門

総門の先には山門(楼門)があります。

三間三戸、二重、楼門、入母屋、銅板葺。

1811年頃の再建と考えられています。前述のとおり、こちらも都指定有形文化財。

 

下層にも屋根がついた、二重の楼門。

下層の柱間はいずれの面にも壁板や建具がなく、ほぼ完全な吹き放ち。向こう側が透けて見え、上層だけ宙に浮かんでいるような印象を受けます。

 

山門内部は通行禁止。向こうに見えるのは仏殿。

総門・山門・仏殿が南北方向に一直線で並び、典型的な禅宗様式の伽藍配置となっています。

 

柱は円柱で、上端が絞られています(粽柱)。

柱の上部には頭貫と台輪が通り、禅宗様木鼻がついています。

組物は出三斗と平三斗。柱間にも組物が置かれています。

 

右側面(東面)。

上層に昇る階段らしきものがついています。

各所の意匠は正面と同じ。

 

上層。扁額は「廣園禅寺」。

屋根の軒裏は、上層も下層も平行の二軒繁垂木。

 

上層も粽柱で、頭貫と台輪に木鼻がついています。

柱間は火灯窓と桟唐戸。

組物は、詰組になっている点は下層と同じですが、上層は出組になっています。

 

背面。

上層の柱間に窓や建具はなく、縦板壁になっています。

 

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

仏殿

山門の先には仏殿が鎮座しています。

桁行3間・梁間3間、寄棟、銅板葺。

1811年(文化八年)再建。総門や山門と同様、都指定有形文化財です。

本尊は弥勒菩薩とのこと。

 

正面は3間。

中央は桟唐戸、左右は連子窓が使われています。

扁額は「禅林法窟」。

 

桟唐戸の上を通っている貫の部分には彫刻がついています。中央が菊花、左右は唐獅子の頭。

この箇所に彫刻をつけるのはめずらしいです。

 

柱は角柱で、頭貫と台輪に禅宗様木鼻がついています。

柱上の組物は出三斗。中備えの詰組は、木鼻の入った平三斗。

軒裏は二軒繁垂木。

 

側面も3間。

前方の1間はやや低い位置に連子窓が設けられています。後方の2間は縦板壁。

縁側はなく、内部は土間になっているようです。これは禅宗様建築でよくある造り。

 

仏殿の後方には本堂と玄関がありますが、立入禁止となっていました。

 

鐘楼

参道右手、境内東側には鐘楼があります。

宝形、銅板葺。

1842年(天保十三年)再建。都指定有形文化財。

 

柱は円柱で、上端が絞られています。

頭貫の上には台輪が通っています。頭貫木鼻は象鼻。

柱上は出三斗。台輪の上の中備えは平三斗。

軒裏は一重の扇垂木。

 

内部には梵鐘(銅鐘)が下がっています。

銅鐘は1397年(応永四年)と1468年(応仁二年)の銘があり、1649年(慶安二年)の改鋳とのこと。

鐘楼などの4棟の附(つけたり)として、都指定有形文化財。

 

境内社

参道左手(境内西)には境内社の八幡社が東面しています。

入口には石造の明神鳥居。

 

本殿は見世棚造の一間社流造、銅板葺。

向拝の虹梁が省略され、母屋の正面は寺院風の桟唐戸。後方の軒裏には垂木がなく板軒になっています。

本殿として正式な造りではないですが、赤と黒できれいに塗装されていて趣があります。

 

以上、広園寺でした。

(訪問日2022/03/12)