甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【一宮市】妙興寺 後編 山門と仏殿

今回も愛知県一宮市の妙興寺について。

 

前編では総門と勅使門について述べました。

当記事では山門、仏殿などについて述べます。

 

三門

勅使門の脇を通って境内の奥へ進むと、参道上に二重屋根の三門が建っています。

三間三戸、二重、楼門、入母屋、桟瓦葺。

1878年(明治十一年)再建。「妙興寺仏殿ほか」16棟として市指定有形文化財。

 

下層。4面いずれも吹き放ちです。

正面は3間あり、3間すべてが通行可能(三間三戸)。中央の柱間はやや広く取られています。

 

正面中央の柱間。

飛貫虹梁は絵様が彫られ、中備えは蟇股。

蟇股は波状の意匠が彫られ、実肘木のような部材と一体化していて、上の頭貫を直接受けています。

 

柱はいずれも円柱。上端は丸く絞られた粽柱。

柱と飛貫虹梁との接続部には、持ち送りが添えられています。持ち送りは波状の絵様が彫られ、繰りぬかれています。

 

向かって左手前の隅の柱。

飛貫虹梁の位置には、繰りぬかれた波状の木鼻がついています。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

 

柱上の組物は二手先。中備えは中央に詰組が置かれ、その左右に透かし蟇股が置かれています。

桁下には軒支輪。

 

下層左側面(西面)。

側面は2間。柱の前後方向の固定には腰貫も使われています。

柱は下端も絞られ、禅宗様の礎盤に据えられています。基壇の石畳は四半敷。

 

側面の軒下の意匠は、正面とほぼ同じです。前方(写真右)の飛貫虹梁の蟇股は、造形がやや簡略化されています。

下層の軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

上層も正面3間。

上層の軒裏は平行の一重繁垂木です。上層の軒裏を二軒にしないのは、めずらしい技法だと思います。

 

上層も、上端の絞られた円柱が使われています。

柱上の組物は出組(一手先)。下層よりも上層のほうが組物の手数が少なく、これもめずらしい技法だと思います。

柱間は3間とも桟唐戸です。

 

上層右側面(東面)。

側面は2間で、柱間は縦板壁。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

 

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

奥の入母屋破風には妻虹梁が確認できます。

 

背面全体図。

上層はこちらも桟唐戸が使われています。

 

仏殿

山門の先には、当時の本堂に相当する仏殿が鎮座しています。仏殿は裳階(もこし)のついた入母屋で、禅宗様建築の定番といえる建築様式で造られています。

 

桁行3間・梁間3間、一重、裳階付、入母屋、桟瓦葺。

1825年(大正十四年)再建。「妙興寺仏殿ほか」16棟として市指定有形文化財。

 

下層正面は5間。中央3間は桟唐戸、左右両端の各1間は火灯窓。

柱は礎盤の上に据えられています。

 

柱はいずれも円柱で、上端が絞られています。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上の組物は出三斗と平三斗。台輪の上に中備えにも、詰組として平三斗が置かれています。

 

左側面(西面)。

側面も5間。柱間は火灯窓と桟唐戸が使われ、後方の1間は横板壁です。

 

上層正面は3間。

扁額は当寺の正式名である「妙興報恩禅寺」。

 

上層も、上端の絞られた円柱が使われ、頭貫と台輪に禅宗様木鼻があります。

柱上の組物は尾垂木三手先。台輪の上には詰組がびっしりと配されています。

 

左側面。

上層側面も3間。

 

軒裏は上層下層ともに二軒繁垂木。

下層は平行垂木であるのに対し、上層は扇垂木となっています。禅宗様建築でよく見られる技法です。

 

入母屋破風の妻飾りは二重虹梁。大瓶束や蟇股が使われているのが見えます。

破風板の拝みには三花懸魚。

 

背面。

下層の背面は、中央が桟唐戸、左右各2間が横板壁。

 

仏殿周辺の伽藍

仏殿向かって右手前には手水舎。

切妻、桟瓦葺。

 

西面の軒下。後方(写真左)の柱間は広く取られています。

柱は角柱で、頭貫に木鼻があります。柱上の組物は大斗と実肘木を組んだもの。

頭貫の上の中備えには、上下対称の独特な形状をした蟇股が使われています。

 

南面の妻壁。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝みには鰭付きの蕪懸魚。

 

北面。

軒下の意匠は南面とほぼ同じ。

 

仏殿の手前から境内東へ進むと、稲荷社が南面しています。

 

鐘楼と唐門

仏殿の北西には池があり、池の奥に弁天堂が南面しています。

宝形、向拝1間、桟瓦葺。

「妙興寺仏殿ほか」16棟として市指定文化財。

 

池から境内北西の区画へ進むと、「開山門」と思われる門があります。

薬医門、切妻、桟瓦葺。

こちらも「妙興寺仏殿ほか」16棟として市指定文化財です。

 

門扉は桟唐戸。羽目板には、桔梗らしき花が図案化された意匠が彫られています。

 

主柱は上端が絞られた円柱。柱上に頭貫と台輪が通り、巻斗と実肘木で棟木を受けています。

主柱の前方には女梁と男梁が出て、軒桁を受けています。男梁の下面には金属製のつっかい棒が添えられています。

 

さらに境内西へ進むと、唐門が南面しています。

一間一戸、妻入唐門、桟瓦葺。

「妙興寺仏殿ほか」16棟として市指定文化財。

 

門扉は桟唐戸。

菱組みの格子に花狭間がついています。

 

柱は上端が絞られた円柱。頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

柱上は出三斗。

 

台輪の上の中備えは平三斗。

妻虹梁の上では笈形付き大瓶束が棟木を受けています。

破風板の兎毛通は蕪懸魚。

 

唐門の西には鐘楼。

切妻、銅板葺。

棟木の墨書銘によると1689年(元禄二年)再建*1。県指定有形文化財。

上層内部に吊るされている梵鐘は1376年(永和二年)の銘があり、こちらも県指定有形文化財です。

 

下層。

柱は角柱。

壁面は白塗りの壁で、長方形の窓が開口されています。

 

壁面には丸窓が設けられ、飛貫の上に禅宗様の弓欄間が張られています。

妻面の梁の上には、禅宗様木鼻らしき部材が突き出ています。

 

破風板の拝みには鰭付きの猪目懸魚。

 

ここまで紹介した伽藍のほか、客殿、庫裏、玄関、禅堂、開山堂、侍者寮、宗寮、書院、明暢亭、雪爪庵、宝蔵が「妙興寺仏殿など」16棟に指定されていますが、進入禁止のエリアにあったり見落としたりしていたため割愛いたします。

 

以上、妙興寺でした。

(訪問日2024/10/26)

*1:案内板(一宮市による設置)より