甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【笛吹市】保雲寺と石尊神社

今回は山梨県笛吹市の保雲寺石尊神社について。

 

保雲寺

所在地:〒406-0015山梨県笛吹市春日居町鎮目1414(地図)

 

保雲寺(ほううんじ)は平等川北岸の住宅地に鎮座する曹洞宗の寺院です。山号は竜沢山(龍澤山)。

創建は寺伝によると1441年(嘉吉元年)とのこと。『甲斐国志』によると武田信縄(信玄の祖父)夫人の位牌があるらしく、創建以来、武田氏の崇敬を受けたようです。江戸時代には2度の火災に遭い、伽藍や古文書を焼失しています。

 

境内

保雲寺の境内は南東向き。入口は住宅地の生活道路に面しています。

入口の総門は、薬医門、切妻、桟瓦葺。

 

正面の軒下。扁額は山号「龍澤山」。

前方(写真左)に、繰型のついた男梁と女梁を突き出し、男梁の上の桁で軒裏を受けています。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

妻飾りを内部から見た図。写真左が正面側です。

梁の上に角柱の束が立てられ、棟木を受けています。束の左右には海老虹梁のような部材が添えられています。

 

右側面の妻面を外部から見た図。

破風板の拝みには蕪懸魚。左右の鰭は波の意匠。

 

総門の先にはスギ並木の参道が伸び、山門(仁王門)が鎮座しています。

仁王門は、桁行3間・梁間3間、楼門、入母屋、桟瓦葺。

 

下層の正面と左側面。

正面(桁行)・側面(梁間)ともに3間で、前方の2間通りが吹き放ちとなっています。このような楼門はたいてい側面2間で、3間のものは希少です*1

前方2間の吹き放ちの部分では、内部の柱を省略することで空間を広くしています。

 

正面中央の柱間。

柱は円柱で、柱間は虹梁でつながれています。柱の手前には唐獅子の木鼻。

柱上の組物は出三斗、中備えは間斗束で、通肘木を介して桁を受けています。

 

向かって左手前の隅の柱。

頭貫には象鼻がついています。

 

上層。扁額は寺号「保雲寺」。

正面は3間で、中央は舞良戸、左右は火灯窓が使われています。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

上層も円柱が使われています。木鼻は、隅の柱に拳鼻のようなものがあります。

柱上の組物は二手先。隅の組物には尾垂木がありますが、尾垂木と隅木のあいだに入る部材が欠けているように見えます。

 

上層左側面。

上層も側面3間。見づらいですが、柱間は縦板壁です。

縁側の欄干は擬宝珠付き。

 

背面全体図。

上層は3間とも縦板壁。下層の左右の柱間は横板壁。

 

山門向かって右側には廻廊が伸び、鐘楼につづいています。

鐘楼は、入母屋、桟瓦葺。

 

柱は面取り角柱。頭貫に象鼻が付いています。

柱上の組物は出三斗。頭貫と台輪の上の中備えは平三斗。

 

楼門の先には本堂。大棟に武田菱の紋があります。

入母屋、銅板葺。

縁側がなく、出入口が中心線からずれた位置にあります。中小規模の禅宗寺院でよく見られる造りです。

 

以上、保雲寺でした。

 

石尊神社

所在地:〒406-0011山梨県笛吹市春日居町徳条59(地図)

 

石尊神社(せきそん-)は平等川南岸の集落に鎮座しています。

創建は不明。境内案内板*2によると、年代不明ですが大山阿夫利神社(神奈川県伊勢原市)*3などの祭神が勧請されたとのこと。当初は崇神天皇、アマテラス、阿夫利神を祀り、三社神社と呼ばれていました。戦後に社号を改め、現在の石尊神社となりました。

 

境内

石尊神社の境内は南東向き。入口は集落の生活道路に面し、境内裏に川が流れています。

境内中央の拝殿は、入母屋(妻入)、鉄板葺。

 

拝殿内部は格天井となっており、天井板に花鳥が描かれています。

奥に鎮座する本殿は、三間社流造、屋根葺不明。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。正面に唐獅子、側面に獏の木鼻がついています。

組物は出三斗と連三斗。虹梁中備えは板蟇股。

 

母屋柱も几帳面取り角柱が使われています。

母屋正面には3組の扉が設けられ、前面と側面に縁側がまわされています。

 

拝殿左手には石碑が並んでいます。

中央は「駒嶽大神」。向かって右は「蚕■山」(※■部判読できず)。

左の2つは「疱瘡神」と「天満■神」(※■部判読できず)。

 

以上、石尊神社でした。

(訪問日2024/03/16)

*1:景徳院山門(甲州市)が同様の構造をしている

*2:山梨県・春日居町(現在の笛吹市)による設置

*3:案内板には“神奈川県丹山の阿夫利山”とあるが、丹山の誤記と思われる