甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【八王子市】多賀神社

今回は東京都八王子市の多賀神社(たが-)について。

 

多賀神社は市の中心部の住宅地に鎮座しています。

創建は社伝によると938年(天慶元年)、武蔵国に赴任した源経基が、多賀大社(滋賀県多賀町)を現在地に分祀したのがはじまり。鎌倉時代には北条時頼の寄進を受けたとのこと。1945年の八王子空襲では、鳥居が被害を受けています。

境内社殿は江戸末期から戦前にかけてのもので、現在に至るまで何度か改修工事が行われています。本殿は多数の彫刻で彩られているだけでなく、左右両側面に切妻の庇がついた独特の外観になっています。

 

現地情報

所在地 〒192-0051東京都八王子市元本郷町4-9-21(地図)
アクセス 西八王子駅から徒歩15分
八王子ICから車で10分
駐車場 5台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト 多賀神社 東京都八王子市の神社
所要時間 15分程度

 

境内

参道

多賀神社の境内は東向き。入口は生活道路に面しています。

入口には石造の明神鳥居。扁額は「多賀神社」。

右の社号標は「郷社多賀神社」。

 

参道右手には手水舎。

切妻、鉄板葺。

墨書銘より、江戸末期の建物と考えられているようです。

 

木鼻や蟇股などの意匠が使われ、内部は格天井。

 

手水舎の近くには境内社の機守神社。南向き。

切妻(妻入)、銅板葺。正面と側面に庇がついています。

大棟には千木と鰹木。

 

参道左手(南側)には神楽殿が北面しています。

入母屋、正面千鳥破風付、銅板葺。

1933年造営。

 

拝殿と幣殿

境内の中心部には拝殿があります。

入母屋、正面千鳥破風付、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

造営年不明。1951年に拝殿・幣殿の屋根を改修したとのこと。

 

拝殿は正面に向拝と千鳥破風がつき、やや複雑な形状。

後方には幣殿と本殿がつづいています。

 

向拝柱は几帳面取り角柱。側面には、見返り竜の彫刻。

柱上の組物は、出組を左右に連結させた複雑なものが使われています。

 

虹梁中備えは竜の彫刻。まっすぐ正面を向き、鋭くにらみを利かせています。

その上の妻壁には、波の彫刻。

 

向拝の組物の上では、手挟が軒裏を受けています。手挟は2つ並んで配されており、左右あわせて4つ使われています。

海老虹梁は、母屋柱の頭貫の下から出て、向拝柱の虹梁の位置に降りています。

 

母屋柱は角柱。木鼻は象鼻が使われています。

組物は出組。持出された桁の下には板支輪があり、浮彫りが入っています。

 

後方から見た図。

背面に千鳥破風はなく、そのかわりに幣殿が伸びています。

幣殿は両下造(妻入の切妻)、銅板葺。

 

幣殿は側面2間。

柱は角柱。軸部は貫と長押で固定。

柱間には格子の窓が設けられています。

 

本殿

幣殿の後方には、美麗な朱塗りの本殿が鎮座しています。

一間社流造、左右両側面に庇 切妻、銅板葺。

造営年不明。2013年に彫刻と金具の復元や、再塗装が行われたとのこと。

祭神はイザナキとイザナミ。

 

向拝。前方に幣殿があるため、真正面から向拝を見ることはできません。

向拝柱は几帳面取り。

木鼻は、正面が唐獅子、側面が獏。

柱上は出三斗。その上の手挟は菊水が彫られています。

 

左右両側面には、切妻の小屋根がついています。ほかの神社本殿では見られない独特の構造。

小屋根は縁側を覆うように掛けられ、脇障子や縁側に立てられた柱で支持されています。破風板に懸魚などはなく、軒裏の垂木もまばら。

 

縁側の床下は、板状の持ち送りで支えられています。背面側には脇障子が立てられ、極彩色の透かし彫りで松が造形されています。

 

母屋の組物は出組。

妻飾りは笈形付き大瓶束。

破風板の拝み懸魚は金色の竜の彫刻。この懸魚を保護するため、小さな屋根が破風板に増設されています。

 

背面。

母屋柱は円柱。

頭貫の上の中備えには詰組が置かれています。

軒裏は二軒繁垂木。

 

本殿の周辺には、山車を収めた倉庫がいくつも並んでいました。

毎年8月に行われる「八王子まつり」では当社の山車や神輿が巡行し、都内でも屈指の盛大なお祭りになるようです。

 

以上、多賀神社でした。

(訪問日2022/03/12)