甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【津市】専修寺の門前を巡る(玉保院、智慧光院、厚源寺、慈智院)

今回は三重県津市の専修寺の門前の子院・末寺について。

 

当記事では専修寺の門前に点在する子院・末寺について述べます。

専修寺の境内伽藍については当該記事をご参照ください。

 

玉保院

所在地:〒514-0114三重県津市一身田町2812(地図)

 

f:id:hineriman:20211002154102j:plain

専修寺山門の手前のには、2件の子院が向かい合っています。

こちらは山門向かって右側に鎮座する玉保院(ぎょくほういん)。西向き。

専修寺周辺の末寺の筆頭三ケ寺のひとつらしいです(津市教育委員会の案内板より)。

入口の門は一間一戸、四脚門、切妻、本瓦葺。

 

f:id:hineriman:20211002154151j:plain

前後の控柱は几帳面取りの角柱。

木鼻は正面と側面に拳鼻。

正面の虹梁の中備えは詰組。

組物は出組。持ち出された桁の下には軒支輪。

 

f:id:hineriman:20211002154208j:plain

内部の通路部分にわたされた梁には、蟇股が配されています。はらわたは竜の彫刻。

天井は板張りになっています。

 

f:id:hineriman:20211002154226j:plain

妻飾りは笈形付き大瓶束。

軒裏は二軒繁垂木です。

 

f:id:hineriman:20211002154238j:plain

玉保院本堂は入母屋、向拝1間、本瓦葺。

 

f:id:hineriman:20211002154248j:plain

f:id:hineriman:20211002154258j:plain

向拝は広めに取られ、ゆったりとした印象。

虹梁中備えには竜の彫刻。

 

f:id:hineriman:20211002154312j:plain

向拝柱は几帳面取り。

正面は唐獅子、側面は獏。どちらも立体的で良い造形だと思います。

 

f:id:hineriman:20211002154324j:plain

ゆるやかにカーブした海老虹梁が、向拝と母屋をつないでいます。

向拝柱の上の手挟は、菊の籠彫。

 

f:id:hineriman:20211002154336j:plain

母屋柱は円柱。

中央の柱間は桟唐戸が設けられ、桟唐戸の向こうはガラスの引き戸。戸の上は菱組みの欄間。

扉の上の虹梁には2本の大瓶束が立てられ、軒下の台輪を受けています。

 

f:id:hineriman:20211002154404j:plain

柱は上端が絞られています。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

組物は出組で、中備えは蟇股。桁下には軒支輪。

軒裏は二軒繁垂木。

 

f:id:hineriman:20211002154423j:plain

f:id:hineriman:20211002154434j:plain

玄関は向唐破風。

蟇股や懸魚に彫刻があります。

 

以上、玉保院でした。

 

智慧光院

所在地:〒514-0114三重県津市一身田町2810(地図)

 

f:id:hineriman:20211002154632j:plain

つづいては玉保院の向かいにある智慧光院(ちえこういん)。筆頭三ケ寺のひとつ。こちらは東向き。

入口の門は一間一戸、四脚門、切妻、正面軒唐破風付、本瓦葺。

 

f:id:hineriman:20211002154701j:plain

玉保院の門と較べると、こちらは開放的で軽快な造り。

軒先には唐破風が設けられ、拝みと桁隠しに懸魚がついています。

 

f:id:hineriman:20211002154714j:plain

前後の控柱は几帳面取り。

木鼻は正面に小振りな拳鼻、側面に大きめの象鼻。

組物は出三斗。

 

f:id:hineriman:20211002154753j:plain

虹梁中備えの蟇股には、唐獅子が彫刻されています。唐獅子は目と口が彩色されていて、素木ながら目力があります。

唐破風の軒下には小振りな笈形付き大瓶束。

 

f:id:hineriman:20211002154815j:plain

妻壁。

妻飾りは標準的なサイズの笈形付き大瓶束。

軒裏は二軒繁垂木でした。

 

f:id:hineriman:20211002154829j:plain

内部は板張りの天井(鏡天井?)。

主柱の間にわたされた梁の中備えは蟇股。梅らしき花が彫られていました。

 

f:id:hineriman:20211002154844j:plain

智慧光院本堂は入母屋、向拝1間、本瓦葺。

 

f:id:hineriman:20211002154908j:plain

f:id:hineriman:20211002154921j:plain

虹梁中備えは竜の彫刻。

向拝柱は几帳面取り。木鼻は正面が唐獅子、側面が獏。

組物は連三斗。獏の頭の皿斗が持ち送りになっています。

 

f:id:hineriman:20211002154940j:plain

手挟は波の彫刻。

海老虹梁はゆるやかな曲線。向拝側の下部には菊の籠彫りが添えられています。

 

f:id:hineriman:20211002154958j:plain

母屋柱は角柱。

正面には桟唐戸が立てつけられています。

頭貫と台輪には禅宗様木鼻。

組物は出三斗。

 

以上、智慧光院でした。

 

厚源寺

所在地:〒514-0114三重県津市一身田町2814(地図)

 

f:id:hineriman:20211002155030j:plain

玉保院と智慧光院の近くには厚源寺(こうげんじ)。専修寺山門と唐門のある広い通りに面しています。入口は北向き。

門は一間一戸、薬医門?、切妻、本瓦葺。

 

f:id:hineriman:20211002155053j:plain

f:id:hineriman:20211002155104j:plain

厚源寺本堂は寄棟、向拝1間、正面本瓦葺、桟瓦葺。東向きです。

子院や末寺にしては大規模な寄棟の堂で、塀越しでも存在感があります。屋根は正面だけ本瓦葺になっており、変わった造り。壁面はガラス戸や化粧板が使われていて現代的。

玄関なども撮りたかったのですが、生活感のある雰囲気だったので自重。

 

以上、厚源寺でした。

 

慈智院

所在地:〒514-0114三重県津市一身田町760(地図)

 

f:id:hineriman:20211002155222j:plain

専修寺の東側、太鼓門の近くには慈智院(じちいん)。筆頭三ケ寺のひとつ。西向き。

門は一間一戸、四脚門、切妻、本瓦葺。

 

f:id:hineriman:20211002155239j:plain

全体的に簡素な造りで、素朴かつベーシックな四脚門といった感じ。

主柱から男梁がわたされ、繰型のついた女梁が添えられています。

妻飾りは板蟇股。

天井はなく化粧屋根裏で、軒裏は一重まばら垂木。

 

f:id:hineriman:20211002155316j:plain

本堂は桁行5間・梁間6間、寄棟、本瓦葺。

鬼瓦の銘より1639年(寛永十六年)の造営と考えられているようです。江戸初期の火災でも焼け残り、一身田地域では専修寺の伽藍よりも古い建造物とのこと(津市教育委員会の案内板より)。県指定文化財。

 

f:id:hineriman:20211002155750j:plain

f:id:hineriman:20211002155800j:plain

本堂向かって右には玄関。

中備えは出三斗。

唐破風の小壁には蟇股が置かれ、牡丹と思しき花の彫刻が入っています。

 

以上、慈智院でした。

(訪問日2021/09/19)