今回は三重県津市の四天王寺(してんのうじ)について。
四天王寺は津の中心市街に鎮座する曹洞宗の寺院です。山号は塔世山。
創建は寺伝によれば飛鳥時代。推古天皇の勅願を受けた聖徳太子によって開かれたとのこと。近隣にある津観音と同様、室町期には戦火を受けて焼失を繰り返したようです。1945年の空襲では、本堂や旧国宝の仏像を多数焼失しています。
現在の境内は大部分が戦後に再建されたものですが、総門など一部の伽藍は戦前のものが現存しています。
現地情報
所在地 | 〒514-0004三重県津市栄町1(地図) |
アクセス | 津駅から徒歩10分 津ICから車で10分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | 塔世山 四天王寺(三重県津市・曹洞宗) |
所要時間 | 15分程度 |
境内
総門
四天王寺の境内は東向き。幹線道路からひとつはずれた通りに面しています。
寺号標は右が「塔世山」、左が「四天王寺」。
総門は一間一戸、四脚門、切妻、本瓦葺。
総門の前後の控柱は、角面取りされた角柱。
頭貫木鼻は拳鼻。
柱上は大斗と実肘木。
通路上にわたされた梁の中備えは板蟇股。
内部中央の扁額は山号「塔世山」。
軒裏は一重まばら垂木で、化粧屋根裏になっています。
主柱(写真中央)と控柱(右)は男梁によってつながれています。
主柱からは女梁が出て、男梁の下部に添えられています。
破風板拝みには蕪懸魚。
大棟鬼板には鬼瓦。
山門
総門の先には山門。名称不明のため便宜的に「山門」と呼ぶことにします。
桁行1間・梁間1間、楼門、入母屋、本瓦葺。
下層。
柱は円柱で、礎盤の上に立てられています。
虹梁中備えは、中央が蟇股、左右が組物。
組物は大斗と実肘木を組んだもので、上層の縁側の床下の腕木を受けています。
側面は1間ですが、3分割した前方の1区画にだけ壁板が張られています。
上層正面。
左右の2区画に分割され、火灯窓が設けられています。
軒裏は一重まばら垂木。
柱は円柱。頭貫木鼻は拳鼻と象鼻の中間的なもの。
柱上は大斗と実肘木。
上層側面。
正面と同様、2区画に分割されています。
縁側は切目縁。欄干は禅宗様の擬宝珠付き。
破風板拝みには蕪懸魚。
懸魚や瓦には「巴」の字が浮き彫りになっています。
大棟鬼板には鬼瓦。
本堂
本堂は入母屋、銅板葺。
コンクリート造の現代建築となっています。
正面側は向拝(庇)のような吹き放ちの空間が設けられています。
柱の上部には、禅宗様建築に見られる弓欄間のような波状の意匠。
庇の軒裏は、化粧材の垂木が密に配されて、寺社建築らしい雰囲気。
堂内は畳敷きになっていました。
入母屋破風には破風板がなく、破風内部がガラス窓になっています。古風なセオリーよりも、現代的な雰囲気を重視したデザイン。
屋根はむくり(斜め上に凸の曲線)がついていて、やわらかな曲面を呈しています。
古い仏堂にありがちな気取った感じの軒反りとは対照的。
本堂の南側の墓地の中央には観音堂。
屋根は三角形のグリーンルーフを組み合わせたもので、建築というよりはオブジェの一種のような雰囲気。
内部に観音像が置かれているので観音堂という名前がついているようですが、中を覗いてみたところ、ロッカー型の納骨堂になっていました。
鐘楼門
境内入口の総門の北側には鐘楼門があります。
こちらは門前の通りから少し奥まった場所にあり、閉門しているため通行できません。
桁行1間・梁間1間、二重、下層は寄棟・桟瓦葺、上層は切妻・本瓦葺。
あまり見かけない様式の鐘楼門。鐘をつくための撞木は、向かって左側面(南側)に吊るされていました。
柱は角柱。少し内に転びがついています。
ほか、虹梁中備えや木鼻といった装飾的な意匠は見当たらず、簡素な造り。
左右の袖塀は、向かって右が下見板としっくい壁、左が縦板となっており、統一感に欠けます。
上層の柱も角柱。
こちらは2間になっており、頭貫木鼻や組物(大斗と舟肘木)が使われています。
軒裏は一重まばら垂木。
屋根には唐獅子の彫刻が載っています。
側面。
上層は前後非対称の造り。
破風板拝みには蕪懸魚が下がり、その鰭や桁隠しには雲状の彫刻がついています。
この門も、懸魚や瓦に「巴」が浮き彫りになっていました。
以上、四天王寺でした。
(訪問日2021/09/19)