甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【高岡市】気多神社

今回は富山県高岡市の気多神社(けた-)について。

 

気多神社(氣多神社)は海に面した伏木地区の高台に鎮座しています。4社ある越中国一宮の1社。

創建は不明。社伝によると717年(養老七年)の創建とのこと。一宮である気多大社(石川県羽咋市)から勧請され、757年に能登国が越中国から分立されると、当社は越中国一宮となったようです。平安期の『延喜式』にも掲載されているようですが、資料によって記載の有無や記述が異なるようです。平安期には源義仲(木曽義仲)の軍勢による兵火で近隣の国分寺とともに境内社殿を消失。室町末期には上杉謙信の兵火を受けたようですが、本殿は焼失を免れて現存しています。江戸期は加賀藩前田氏の庇護を受けています。

境内は社叢に覆われた傾斜地にあり、古社らしい雰囲気。室町期に造営された大型の本殿が現存しており、国重文に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒933-0116富山県高岡市伏木一宮1-10-1(地図)
アクセス 越中国分駅から徒歩20分
高岡北ICから車で20分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 あり
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

拝殿

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気多神社の境内は東向き。境内は丘陵の傾斜地にあり、近くには伏木港があります。

鳥居は石造の神明鳥居。笠木は円柱。

 

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拝殿は切妻(妻入)、桟瓦葺。

左右に回廊のような屋根が伸びていて、諏訪造や尾張造の社殿になんとなく似たシルエット。

 

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柱は大面取りの角柱。新しいものだと思いますが、古式を再現したのかC面が大きく取られています。

木鼻は正面・側面ともに、直角三角形のシルエットで繰型が彫られたもの。

柱上の組物は舟肘木。

 

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扁額は「氣多神社」。

虹梁中備えは板蟇股。板蟇股の上には巻斗が乗り、実肘木ではなく舟肘木で梁を受けています。

妻飾りは扁額があってわかりにくいですが、豕扠首が使われています。

 

本殿

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拝殿の後方には本殿が鎮座しています。フェンスがあるためこれより先は進入できません。

本殿は桁行3間・梁間3間、三間社流造、向拝1間、こけら葺。

正面(桁行)3間・側面(梁間)2間の母屋の前に、吹き放ちの前室を1間設け、屋根から正面1間の向拝を伸ばしたタイプの流造。この近辺だと白山神社本殿(新潟県糸魚川市能生)と完全に一致する様式で、どちらかといえば滋賀県など近畿地方でよく見られる造り。

 

伝承によると永禄年間(1558~1570)の再建とのこと(設置者不明の案内板より)。文化遺産オンラインの当該ページには“室町後期/1457-1572”と非常にアバウトな年代が記載されていました。

国指定重要文化財

祭神は大国主など。

 

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向拝は1間。

向拝の前に通路があるため柱がよく見えないですが、写真をズームして確認したところ、室町期らしい大面取り角柱が使われていました。

木鼻の彫刻はビニールの幕が反射してしまい観察できず。柱上の組物は連三斗。

縋破風の桁隠しは猪目懸魚。

 

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吹き放ちの前室の扁額(写真左端の奥)は「一宮」。境内案内板(設置者不明)によると弘法大師こと空海の揮毫で、“真筆”だそうです。真偽のほどは不明。

前室の柱は大面取り角柱。柱上の組物は出三斗と連三斗。中備えはありません。

前室の柱と母屋はまっすぐな梁でつながれ、前室側は組物の上に取りついています。

 

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母屋柱は円柱。

正面は格子戸。側面は前方の1間が板戸、後方の1間が横板壁。

柱上の組物は連三斗と平三斗。母屋の隅となる柱からは、挿肘木の斗栱が横に突き出て、連三斗を持ち送りしています。

頭貫木鼻や中備え(蟇股)などは使われていません。

写真上端に見える妻飾りは大瓶束。ふつうは母屋の中央に立てるのですが、後方にずれた場所に立てられているのが独特。

 

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反対側、左側面(南面)。

屋根は破風ぎわで大きく折れ曲がり、厚みのある箕甲を形成しています。非常にきれいな曲面だと思います。

破風板の拝みと桁隠しは猪目懸魚。

 

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縁側。

切目縁が3面にまわされ、欄干は跳高欄。後方に脇障子が立てられています。

吹き放ちの前室と後方の母屋で床に高低差がついており、空間の格差が表現されています。

母屋柱は亀腹の上に建てられ、床下も円柱に成形されています。

 

大伴神社

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最後に本殿左手にある境内社・大伴神社

一間社流造、銅板葺。

 

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社殿は古いものではなさそうですが、木鼻の意匠がおもしろいです。

木鼻は少し上に反り返った形状で、木口(写真右側)は約物の中括弧のような曲面で繰り取られています。正面は赤く彩色され、梅(あるいは八重桜?)が描かれています。

 

以上、気多神社でした。

(訪問日2021/05/01)