今回は新潟県糸魚川市能生(のう)の白山神社(はくさん-)について。
白山神社(能生)は国道8号沿線の海岸に面した集落に鎮座しています。
創建は崇神天皇の代とのことですが、詳細不明。同市内の奴奈川神社(天津神社の境内社)とともに式内社に比定されている古社で、多数の文化財を所有している神社です。社殿については本殿が室町期の造営で国重文に指定されているほか、拝殿は茅葺で非常に立派なものとなっています。
現地情報
所在地 | 〒949-1352新潟県糸魚川市大字能生7239(地図) |
アクセス | 能生駅から徒歩20分 能生ICから車で5分 |
駐車場 | なし |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 |
社務所 | あり(要予約) |
公式サイト | 能生白山神社公式ホームページ |
所要時間 | 15分程度 |
境内
参道
白山神社の境内は、入口は南西向き。後述の社殿は南向きとなっています。
鳥居は石製の神明鳥居で、笠木は丸い部材が使われています。扁額はありません。
社号標は「白山神社」。
参道の左手には手水舎があります。
手水舎は銅板葺の入母屋。柱は内に転び(傾き)がついています。
手水舎の軒下。新しいもののようですが、手水舎にしては凝った造りをしています。
軒裏は一重の繁垂木。内部は格天井。
柱は几帳面取りされた角柱。柱上の組物は出三斗(でみつど)。柱についた木鼻は象鼻。梁の上には蟇股が配置されています。
二の鳥居は石製の明神鳥居。扁額なし。
狛犬はなんとも言いがたい独特な味のある造形で、大きくて威圧感があります。
鳥居の奥に見えるのは拝殿の左側面(西面)。
境内の中央には重厚な拝殿が鎮座しています。
拝殿は茅葺の入母屋(妻入)。向拝なし。正面に軒唐破風(のき からはふ)。
真正面から見た図。
屋根は入母屋ですがとても寺社建築とは思えない外観をしており、寺社というよりは住宅に近いように思えます。
正面の出入口の上に扁額がかかっており、その上の軒に唐破風がついているので辛うじて寺社建築だと分かります。
軒裏は一重のまばら垂木。唐破風の軒下にある扁額は「白山神社」。
出入口の上にわたされた虹梁(こうりょう)は、柱にささった挿肘木(さしひじき)で持ち送りのように支えられています。ここは神社としては変わった造り。
柱は角柱で、柱上の組物は平三斗(ひらみつど)と舟肘木(ふなひじき)。
妻入なので奥行が長くなっています。
数えてみたところ柱間は8ありました。よって梁間8間。拝殿としてかなり大規模な部類に入ります。
本殿
拝殿の左手からまわりこむと、本殿のほうへ進めるようになっています。
本殿はこけら葺の三間社流造(さんけんしゃ ながれづくり)。正面3間・側面3間、向拝1間。
案内板(糸魚川市教育委員会)によると1515年(永正12年)の造営。国指定重要文化財となっています。
祭神はヌナカワ、イザナギ、大国主の3柱。
真正面から見た図。
正面に伸びた向拝は、C面取りの角柱で支えられています。
2本の角柱は虹梁でつながれており、しめ縄のせいで見づらいですが虹梁の下側には挿肘木の持ち送りがついています。虹梁の上では、古風でシンプルな蟇股(かえるまた)が軒桁を受けています。
左側面。
建築様式としては三間社流造というありきたりなものですが、正面(写真右)の階段を覆う庇(向拝)が1間だけ屋根から伸びているのが特徴的。ふつうの流造は1間だけ伸ばすようなことはせず、正面の屋根の全体を伸ばして庇にするものです。
屋根の様式がちがうものの、天津神社本殿もこの本殿とほぼ同じ構造をしています。
母屋(建物の本体)は3間ですが、前方の1間は吹き放ちで角柱が使われています。一方、後方(写真左)の2間は円柱が使われています。
神社建築では「円柱>角柱」という格差があり、円柱が使われた後方の2間だけ縁側の床が高くなっていて、はっきりと格差をつけている様子が見てとれます。
軒裏は三軒(みのき)の繁垂木で、向拝の部分にいたっては垂木が四重になっています。
縁側は切目縁(きれめえん)が3面にまわされ、欄干は前方が跳高欄(はねこうらん)、後方が擬宝珠。縁の下は角柱の束で支えられています。
妻壁の妻虹梁の上には大瓶束(たいへいづか)が2本立てられ、その上の虹梁には板蟇股のような部材が棟を受けています。
背面の柱上の組物は出三斗(でみつど)。
こちらには縁側がまわされておらず、脇障子でふさがれています。室町期の本殿なので、脇障子には彫刻などの意匠はありません。
この写真からは見えないですが、母屋の柱の床下を観察してみたところ、床下までしっかりと円柱に成形されていました。
その他の社殿
拝殿の右手には、神楽殿と思しき社殿があります。
桟瓦葺の寄棟(平入)で、軒唐破風付き。
神社建築で寄棟はちょっと珍しいですが、それ以上に変な個所が多く「なんだこれ...」と困惑してしまうような造り。この神社の社殿は変わったものばかりですが、その中でも際立って奇妙です。
奇妙な個所を列挙すると、唐破風が右に寄っている、6つある間口の幅がばらばら、左の3つの間口は板戸なのに右の3つは桟唐戸、左から3つ目の間口だけ火灯窓のような形状になっている、左の2間は縁の下に柱間に束がない...といったところ。
こちらは拝殿の左前にある境内社・秋葉神社。東向きです。
桟瓦葺の入母屋(平入)、向拝1間。
おそらくこの神社でいちばんまとも(というより標準的)な造りの社殿です。
虹梁の上の蟇股には、流麗な造形で波と花が彫られています。ここから察するに、この社殿は明治期あたり、古くとも江戸末期のものでしょう。
扁額は「秋葉神社」。
入母屋破風の内部には妻虹梁があり、笈形(おいがた)付きの大瓶束が棟を受けています。
最後に境内の俯瞰図。
境内はよく整備されていてとても歩きやすいです。しかし参道も鳥居も社殿もそれぞれ思い思いの方向を向いていおり、社殿についてはどれも個性派で、1つの神社としての一体感がありません。ここまで一体感がないのはある意味では貴重で、参拝していて新鮮に思えました。
個人的に今まで参拝した中でも特に印象深い神社でした。本殿をはじめとする社殿は文化財としての価値も高く、見応え抜群。必見の神社です。
以上、白山神社(能生)でした。
(訪問日2020/04/30)