甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【甲州市】通神社

今回は山梨県甲州市の通神社(かよい-)について。

 

通神社は市南部の斜面の農地に鎮座しています。

創建は、社伝によると文治年間(1185-1190)、地頭の樋口治郎左衛門なる人物によって創建されたとのこと。その後の詳細な沿革は不明ですが、武田氏の崇敬を受けたようです。かつては当社の祭神を浅間神社(笛吹市)に送る「通ひ祭」なる祭事があったようですが、明治時代に途絶しています。

現在の境内は古いものではありませんが、本殿は江戸前期の造営で、市の文化財に指定されています。本殿は二間社というめずらしい様式で造られ、屋根は桧皮葺が維持されています。

 

現地情報

所在地 〒409-1301山梨県甲州市勝沼町中原767(地図)
アクセス 勝沼ぶどう郷駅から徒歩20分
勝沼ICから車で10分
駐車場 なし
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

境内

拝殿

通神社の境内は南向き。

境内の入口は北西側にあり、石造明神鳥居が北向きに立っています。扁額は「通大明神」。

 

鳥居をくぐると参道が左手に折れ、南向きの社殿が鎮座しています。

拝殿は、入母屋、鉄板葺。

 

正面中央の軒下。扁額は「通神社」。扁額の裏には蟇股があります。

柱は角柱が使われ、柱上は舟肘木。

軒裏は二軒まばら垂木。

 

右側面の入母屋破風。木連格子が張られています。

破風板の拝みには猪目懸魚。

鬼板の紋は五三の桐。

 

拝殿のはす向かいには手水舎。

切妻、銅板葺。

 

本殿

拝殿の裏には、板塀に囲われた本殿が鎮座しています。主祭神はニニギで、スサノオが合祀されています。

祭神のニニギが、妻のコノハナノサクヤビメの祀られた浅間神社(笛吹市)に通うという伝承があり、これが当社の社名の由来らしいです。

 

本殿は、桁行2間・梁間1間、二間社流造、向拝1間、檜皮葺。

1666年(寛文六年)造営。市指定有形文化財。

案内板によると、本殿の附として多数の棟札が保存されており、後世の補修や改変の経過がはっきりと分かっているようです。造営時の大工棟梁は竹内越前守幸次という工匠とのこと。

 

写真右の向拝は1間。

左の母屋の正面には2組の扉が設けられ、二間社というめずらしい様式で造られています。たいていの神社本殿は一間社か三間社で、二間社は非常に数が少ないです。

 

向拝柱は面取り角柱。江戸前期のものにしては、面取りの幅が大きくて古風だと思います。

側面(写真手前)には木鼻。

柱上の組物は連三斗。組物の上では、板状の手挟が軒裏を受けています。

 

向拝を内側から見た図。

虹梁中備えは平三斗。通肘木が使われており、中備えの平三斗と向拝の組物とで肘木を共有しています。

向拝と母屋をつなぐ海老虹梁はありません。

 

母屋の正面。

扉や頭貫の上に中備えはなく、簡素な造りです。

 

左側面(西面)の柱。母屋柱は円柱です。

軸部は貫と長押で固定。長押は、頭貫より少し低い位置に打たれています。頭貫には拳鼻。

柱上の組物は出三斗。桁の方向(写真では前後)は通肘木が使われ、梁の方向(左右)は虹梁を直接受けています。

 

妻面。こちらも、頭貫の上に中備えがありません。

妻虹梁には、若葉状の絵様が線彫りされています。

妻飾りは大瓶束。

 

側面は1間で、柱間は横板壁。

破風板には4つの懸魚が下がっています。拝みは猪目懸魚、桁隠しは蕪懸魚です。

 

大棟の鬼板。

五三の桐の紋があります。

 

背面は2間。

縁側は背面以外の3面にまわされ、背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

 

側面と同様に中備えはなく、柱間は横板壁。

中央の柱の上の組物は平三斗で、こちらも桁行方向で通肘木を共有しています。

 

本殿の左右の塀の外には、計4棟の境内社があります。

様式は4棟とも流造ですが、本殿東側の1棟は屋根が檜皮葺です。おそらく境内社の中でも格の高い祭神が祀られているのでしょう。

ほかの3棟はいずれも銅板葺。

 

以上、通神社でした。

(訪問日2023/04/22)