今回も奈良県葛城市の當麻寺について。
その1では仁王門、薬師堂などについて、
その2では本堂、講堂、金堂について述べました。
当記事では国宝の東塔、西塔などについて述べます。
東塔
金堂の正面側から、南側にある山のほうへ入ると東塔が鎮座しています。若干わかりにくく、ひっそりとした場所にあります。
三間三重塔婆、本瓦葺。全高24.4メートル。
奈良時代末期の造営と推定されています。国宝。
現存例がきわめて少なく貴重な奈良時代の建造物。後述しますが、後世の三重塔・五重塔には見られない独特の構造が採用されている点が見どころ。非常に興味深い物件だと思います。
初重。
柱は円柱で、正面側面ともに3間。
柱間は中央が板戸、左右が連子窓。
軸部は長押で固定されています。奈良時代のものなので、頭貫木鼻はありません。
柱上の組物は、和様の尾垂木のついた三手先。肘木のサイズのわりに斗が小振りで、独特なバランスの比率です。
組物によって持ち出された桁の下には、軒支輪と格子の小天井。軒支輪は非常に細い材が使われています。
組物のあいだの中備えはありません。
この三重塔の最大の特徴は二重および三重。
初重は正面側面ともに3間でしたが、二重および三重は正面側面2間になっており、中央の扉が省略されています。
このような例は法起寺三重塔(奈良県斑鳩町、飛鳥時代)だけで、異例中の異例と言える構造です。
柱間は、左右ともに連子窓が設けられています。
縁側の欄干は跳高欄。
組物は初重と同じ和様の尾垂木三手先。
ただし中央の柱上の組物には尾垂木がありません。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
頂部の相輪にも特徴があるのですが、それについては西塔の項目にて後述します。
西塔
本堂の裏手から、南側にある塔頭へつづく路地を進むと西塔があります。
三間三重塔婆、本瓦葺。全高24.21メートル。
平安時代初期の造営と推定されています。国宝。
東塔よりやや新しいものになりますが、それでも平安初期の建造物は希少です。こちらの三重塔は後世の例にも見られるようなセオリーに、おおむね則った造りをしています。
初重。
柱は円柱。正面側面ともに3間。
中央は板戸、左右の柱間は窓がなく、しっくい壁になっています。
縁側はなく、内部は土間のようです。これは塔建築(三重塔・五重塔・多宝塔)ではめずらしいですが、興正寺五重塔(名古屋市、江戸後期)など後世にも少数ながら例があります。
東塔と同様、軸部は長押で固定され、頭貫木鼻はありません。
組物は和様の尾垂木三手先。
持ち出された桁の下には軒支輪と格子の小天井が見えます。
こちらの塔は中備えに間斗束が使われています。
二重および三重。
軒下の意匠は初重と同様のようです。
縁側の欄干は跳高欄。
軒裏は平行の二軒繁垂木。
頂部の相輪。
通常の相輪と異なり、この相輪は九輪ではなく八輪になっているのが特徴。東塔の相輪も同様に八輪になっています。
大師堂
本堂の北西側には、南向きの大使堂が鎮座しています。
大師堂の鐘楼。
切妻、桟瓦葺。下層は袴腰。
柱は円柱。頭貫に拳鼻。柱上は出三斗。
中備えは大斗と花肘木が使われています。
妻飾りは大瓶束ですが、妻虹梁との接続部に木鼻が設けられている点が風変わり。
大師堂は宝形、向拝1間、銅板葺。
造営年不明。おそらく江戸中期以降のもの。
向拝柱は角柱。面取りの幅が小さめ。
組物は連三斗。木鼻は拳鼻で、皿斗を介して組物を持ち送りしています。
虹梁中備えは蟇股。はらわたの彫刻は鷹と思しき鳥。
きれいな造形なので、あまり古いものには見えません。
母屋柱は角柱。正面側面ともに3間。
正面中央は桟唐戸。左右の柱間は上下に跳ねる蔀。
組物は出三斗。
中備えはいずれの柱間も蟇股で、こちらも彫刻が入っています。題材は草花。写真の彫刻は牡丹と思われます。
側面および背面。
側面は前方1間が蔀、後方2間が横板壁。
背面は左右に閼伽棚らしき構造があります。
頂部の露盤の上には火炎の意匠がついた宝珠。
大師堂の手前には名称不明の堂。
六角円堂、本瓦葺。
桟唐戸や扇垂木など、禅宗様の意匠が使われていました。
奥の院
本堂の奥、境内西側には塔頭(子院)の奥の院があります。
こちらは鐘楼門。一間一戸、楼門、入母屋、本瓦葺。
1647年造営。国指定重要文化財。
下層。
柱は円柱。頭貫木鼻は象鼻が使われています。
上層。扁額は「奥院」。
正面の柱間は3間あり、左右は連子窓。中央は建具がありません。
頭貫木鼻はなく、柱上の組物は出組。
奥の院本堂の遠景。
寄棟、本瓦葺。
1604年造営。国指定重要文化財。
本尊は法然上人像。法然は浄土宗の開祖です。
ほか、奥の院の方丈が国重文で浄土庭園の拝観もできたようですが、前述の本堂や金堂ですっかり感動してしまい、わざわざ別料金を払ってまで子院を拝観する気になれなかったので今回は割愛。
再訪することがあったら、奥の院も拝観したいと思います。
以上、當麻寺でした。
(訪問日2021/10/15)