甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【豊川市】三明寺(豊川弁才天)

今回は愛知県豊川市の三明寺(さんみょうじ)について。

 

三明寺は豊川駅南の住宅地に鎮座する曹洞宗の寺院です。山号は龍雲山。通称は豊川弁才天。

創建は寺伝によると702年(大宝二年)。文武天皇が当地を行幸し、大和国の僧侶・覚淵に命じて仏堂を建てたのがはじまりとされます。当初の宗派は不明ですが、平安末期は真言宗の寺院だったようです。治承・寿永の乱(源平合戦)の折に源範頼によって境内を焼かれ、衰微しました。その後、応永年間(1394~1428)に無文元遷によって現在の三重塔などが再建され、それにともない曹洞宗に改められました。室町後期は、今川氏や徳川氏の庇護を受けました。江戸時代には現在の本堂が再建されています。

現在の境内伽藍は本堂、三重塔、弁天堂だけのシンプルな内容ですが、三重塔と本堂内の宮殿は室町時代の建築です。とくに三重塔は和様と禅宗様が明確に使い分けられた折衷様建築で、国の重要文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒442-0033愛知県豊川市豊川町波通37(地図)
アクセス 豊川駅または豊川稲荷から徒歩5分
豊川ICから車で10分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
寺務所 なし
公式サイト なし
所要時間 15分程度

 

境内

三重塔

三明寺の境内は南東向き。入口は住宅地に面しており、境内のとなりは三明公園となっています。

境内入口には石造明神鳥居が立ち、神仏習合の時代のなごりを感じさせます。

 

鳥居をくぐると、参道左手に三重塔があります。北東向き。

三間三重塔婆、こけら葺。全高14.5メートル*1

1531年(享禄四年)再建国指定重要文化財

 

初重の左側面(南東面)。

柱間は正面側面ともに3間。

母屋の周囲には切目縁がまわされています。初重の縁側には欄干がありません。

 

正面(北東面)の母屋。

柱間は、中央が桟唐戸、左右の各1間は盲連子の窓となっています。

 

柱は円柱。軸部は長押と貫で固定され、頭貫には拳鼻がついています。

初重の組物は、尾垂木三手先。尾垂木の先端が平たく、和様の意匠です。

 

組物のあいだの中備えは、間斗束が入っています。

組物で持ち出された桁の下には軒支輪があり、軒支輪と母屋のあいだは格子の小天井が張られています。

 

縁の下は、面取り角柱の縁束で支えられています。

母屋柱は亀腹の上に立てられ、床下は八角柱に成形されています。室町以降の建築で見られる技法です。

 

つづいて二重。

欄干には跳高欄が立てられています。

欄干の影になって見づらいですが、母屋は初重と同様に、桟唐戸と盲連子が使われています。

組物はこちらも和様の尾垂木三手先で、中備えは間斗束。

初重と二重の軒裏は、平行の二軒繁垂木です。

 

そしてこちらが三重。

縁側の欄干は、親柱に禅宗様の逆蓮がついたものが立てられています。

頭貫と台輪には、禅宗様木鼻があります。

組物は尾垂木三手先。こちらは尾垂木の先端がとがっていて、禅宗様の意匠です。中備えはありません。

軒裏は放射状の二軒繁垂木。これも禅宗様の意匠です。

 

二重と三重の比較。

初重と二重はほとんどが和様の意匠で構成されている*2のに対し、三重は禅宗様の意匠で構成されており、和様と禅宗様がはっきりと使い分けされています。

このように各重で和様・禅宗様を明確に使い分けるのは、二重の楼門ではしばしば見かける技法ですが、三重塔などの塔婆(仏塔)ではめずらしいと思います。

 

頂部の宝輪。

基部に路盤があり、その上に受花、九輪、水煙、宝珠が乗る標準的な構成のものです。

 

本堂

参道を進むと石橋があり、その先に本堂が鎮座しています。

本尊は千手観音。

 

桁行5間・梁間5間、寄棟、向拝1間、本瓦葺。

1712年(正徳二年)再建。県指定有形文化財。

大工棟梁は岡田善三郎成房。

 

正面向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱で、側面に麒麟と思しき神獣の木鼻があります。

柱上の組物は連三斗。

 

組物の上の手挟は、菊の籠彫り。

向拝柱と母屋のあいだに、海老虹梁などの懸架材はありません。

 

虹梁中備えは蟇股。

いちおう蟇股の形状をしていますが、はらわたの竜の彫刻が本体、といった感じの造り。斗や肘木はついていません。

 

母屋部分。正面中央の扁額は「弁才天」。

正面5間で、建具はガラス戸が入っています。

向拝の下の階段は、板(蹴込と蹴上)を組合わせた構成のもの。

 

母屋柱は上端が絞られた円柱。

頭貫には木鼻がつき、柱上に台輪が通っています。

組物は拳鼻のついた出組。中備えは蟇股。桁下の支輪板には波の彫刻。

 

右側面(東面)。

側面は5間で、前方2間の外陣部分はガラス戸、後方3間の内陣部分は舞良戸が入っています。

縁側は切目縁が3面にまわされ、背面側は脇障子を立ててふさいでいます。

 

軒下の意匠は、正面と同様です。

軒裏は平行の二軒繁垂木。

 

なお、堂内には厨子のかわりに宮殿(くうでん)があるようです。

宮殿は一間社流造、こけら葺。1554年(天文二十三年)建立で、国指定重要文化財*3

 

その他の伽藍

本堂の南側には鎮守社の稲荷社があります。

 

社殿は流造のような構造。

向拝には蟇股や木鼻、斗と実肘木が使われています。

 

本堂の北には、道場(本坊?)があります。

 

以上、三明寺でした。

(訪問日2023/03/11)

*1:境内案内板より

*2:ただし桟唐戸と拳鼻は和様の意匠

*3:附:棟札