今回は愛知県瀬戸市の定光寺(じょうこうじ)について。
定光寺は瀬戸市の山間に鎮座する臨済宗の寺院です。山号は応夢山。
境内の中央に建つ本堂は典型的な禅宗様建築で、重要文化財に指定されています。
また、後編にて述べますが本堂の裏手には源敬公廟という尾張徳川家初代の墓があり、多数の建造物が重要文化財となっています。
現地情報
所在地 | 〒480-1201 愛知県瀬戸市定光寺町373(地図) |
アクセス |
定光寺駅から徒歩30分 春日井ICまたはせと品野ICから車で20分 |
駐車場 | 10台(無料) |
営業時間 | 随時 |
入場料 | 無料 ※源敬公廟は100円 |
寺務所 | あり(要予約) |
公式サイト | なし |
所要時間 | 30分程度 |
定光寺本堂
門と鐘楼
定光寺の境内は南向き。門の奥に見えるのが本堂です。
木札には「臨済宗妙心寺派 定光寺」とあります。山号は応夢山(おうむざん)。
こちらは門の右側にある鐘楼。
桟瓦葺の切妻。柱は角柱で、転び(内への傾斜)がついています。軒裏は一重のまばら垂木で、化粧屋根裏になっています。
木鼻や蟇股(かえるまた)のような装飾はほぼ無く、シンプルな外観。
本堂
境内の中心にあるこちらの建物が本堂。扁額は「無為殿」。
本堂はこけら葺きの入母屋(平入)、裳階付き。正面3間・側面3間。重要文化財に指定されています。
禅宗様(唐様)のお手本といえるくらいに典型的で混じりけがない、純然たる禅宗様建築です。
案内板(瀬戸市教育委員会)によると室町幕府が成立した直後である1340年(暦応3年)に建立。何度か災害に遭ったため1534年(天文3年)に修理再興されたとのこと。
本尊は地蔵菩薩。
裳階(もこし)の下。
写真に写っている屋根は、正式には屋根ではなく裳階という庇の一種。
母屋の腰をぐるりと囲うように設けた庇のことを、裳階と言います。神社ではまず見かけませんが、寺院建築では普遍的に見られるものです。
扉は、木枠に板をはめ込んだ桟唐戸(さんからど)。そして壁板は、板を縦方向に張っています。桟唐戸と縦板壁は禅宗様の意匠です。
なお、桟唐戸は和様の神社建築や、近現代の擬洋風建築でもしばしば使われます。
右側面。
中央の壁についている梵鐘型の窓は、火灯窓(かとうまど)。
火灯窓(花頭窓とも)も鎌倉期に登場した禅宗様の意匠の1つですが、禅宗様でない寺院や城郭、茶室、書院などでも使われます。
写真左端の木鼻は上部に台輪がついたタイプのもの。
裳階の下なので軒下の組物はシンプルで、持出しのない出三斗(でみつど)です。また、柱間にも平三斗(ひらみつど)の詰組が配置されています。
柱はいずれも円柱ですが、上のほうがわずかにすぼまった粽(ちまき)となっています。
台輪木鼻、柱間の組物(詰組)、粽、これらは禅宗様建築の典型的な意匠であり、ほかの様式の建築でつかわれることは稀です。
屋根を見上げると、軒裏の垂木は二重の繁垂木ですが放射状にのびています。これを扇垂木(おうぎだるき)といい、これもまた禅宗様建築のわかりやすい特徴の1つ。
軒桁を支える組物は三手先の出組で、尾垂木が突き出たタイプのもの。やはりこちらも柱間に詰組が配置されています。
なお、禅宗様建築の組物から突き出る尾垂木は、先端がすぼまったシャープな形状になっているのが特徴です。
左側面を俯瞰した図。
裳階の下は柱間が5つですが、上は柱間が3つ。この場合は、裳階の上の柱間で規模を表現するのが一般的です。
よってこの本堂は桁行3間・梁間3間。
外観だけでも充分にすばらしいですが、扉が開いているので内部を見学することもできます。
ぱっと見では2層になっているものの、下の屋根は裳階なので、この本堂は平屋です。
内部の天井は化粧屋根裏になっており、中央のいちばん高くなった箇所は板を面一(つらいち)に張った鏡天井。鏡天井も禅宗様の意匠です。
裳階の内部はこのようになっています。
中央の柱は母屋柱。右上の垂木は裳階のものです。
母屋の柱から挿肘木(さしひじき)に支えられた海老虹梁が延び、裳階の軒先を受ける桁につながっています。
なお、本来の組物は柱の軸上に置くものです。このように柱に挿して持ち送りとして使うのを挿肘木といい、これはどちらかといえば天竺様(大仏様)の意匠です。
内部は土間になっており、中央には須弥壇(しゅみだん)があります。
須弥壇の欄干の柱にある擬宝珠は、錐(きり)のように尖った形状。
案内板によると、欄干の中央辺りに鯱の意匠が彫られているのが珍しいとのこと。
本堂については以上。
本堂だけでも充分に見ごたえのある内容ですが、この裏山には源敬公廟という重要文化財の墓所があります。そちらもボリュームのある内容なので、後編に続きます。