甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【京都市】八坂神社 その3 透塀、美御前社、悪王子神社など

今回も京都府京都市の八坂神社について。

 

その1では南楼門と舞殿などについて

その2では本殿について述べました。

当記事では透塀、美御前社、悪王子神社などの境内東側の社殿について述べます。

 

透塀と神饌所

本殿向かって右側(東側)は、透塀(すいべい)で囲われています。

折曲り延長23間、檜皮葺。潜門付。

明治中期の造営。「八坂神社」28棟1基として国指定重要文化財

 

柱は角柱が使われ、長押が打たれています。

柱間には緑色の連子窓が設けられ、その上には菊の葉と唐草の彫刻。

 

右側面(東面)。透塀の内側にある社殿は神饌所(しんせんしょ)。

入母屋、銅板葺。東面および北面下屋付、西面渡廊下付。

1893年(明治二十六年)造営。透塀と同様に国重文

 

美御前社

本殿の東側には3つの境内社が並び、本殿のほうを向いて西面しています。

こちらは美御前社(うつくしごぜんしゃ)。祭神は宗像三女神。

社殿の手前の鳥居は、石造明神鳥居。扁額は「美御前社」。

 

美御前社本殿は、一間社流造、左右両側面および背面庇付、銅板葺。

1591年(天正十九年)造営。こちらも国重文です。

 

正面の軒下。扁額は「美御前」。

建築様式は一間社流造というありふれたものなのですが、左右に庇が付加されており、独特な外観になっています。

窓の向こうには、母屋部分の扉が見えます。

 

向かって右側。

向拝柱(写真右下)は面取り角柱。

向拝の梁の上には出三斗と蟇股が置かれ、通肘木で軒桁を受けています。蟇股には人物像の彫刻が入っています。

 

右側面(南面)。

向拝柱と母屋柱はまっすぐな梁でつながれています。

母屋柱は円柱。柱上は舟肘木。柱間には長押が打たれています。

妻飾りは豕扠首。破風板の拝みには猪目懸魚。

屋根の軒裏は二軒繁垂木。左右の庇の軒裏は一重まばら垂木。

 

なお、左右両側面の庇は背面にもまわされていたようですが、背面の観察を失念していたため割愛。

 

悪王子社

並立する3社の中央にあるのが悪王子社(あくおうじしゃ)。祭神はスサノオ。

「悪」という字は強いという意味*1。当初は洛中の元悪王子町と悪王子町に鎮座していましたが、1877年に現在地へ移転したとのこと。

手前の鳥居は石造明神鳥居。扁額は「悪王子神社」。

 

悪王子社本殿は、一間社流造、銅板葺。

1878年(明治十一年)造営。国重文

 

向かって右の向拝柱。

几帳面取りの角柱で、上端が絞られています。柱上は出三斗。

外側(写真右)には透かし彫りの木鼻。

虹梁は渦と若葉の絵様が彫られています。

 

海老虹梁は向拝の組物の上から出て、大きく湾曲して軒裏をかすめ、母屋の頭貫の位置に取り付いています。

向拝の軒桁の桁隠し(写真左上)は、猪目懸魚を変形させたような独特の形状です。

 

母屋柱は円柱。

頭貫には木鼻が付き、頭貫の上には台輪が通っています。

組物は出組。中備えは蟇股。

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みと桁隠しには猪目懸魚。

 

大神宮社

悪王子神社の右側には大神宮社。伊勢神宮を勧請したもの。

手前の鳥居は木造神明鳥居。

 

拝所は、切妻、銅板葺。

屋根には千木と鰹木があり、神明造の意匠を取り入れた外観。

 

拝所の先には2棟の本殿があります。向かって左が外宮、右が内宮。

両棟とも、一間社神明造、銅板葺。

2016年竣工。伊勢神宮本殿の古材が使われているとのこと。

 

左の外宮は、鰹木が5本で、千木は先端が水平に切られています。

右の内宮は、鰹木が6本で、千木は先端が垂直に切られています。

伊勢神宮の外宮内宮の意匠をそれぞれ踏襲したようです。

 

玉光稲荷社

大神宮社の南側の、境内南東の区画には2つの稲荷社が鎮座しています。

こちらは玉光稲荷社(たまみつ いなりしゃ)。鳥居は北向き、本殿は西向きです。

入口の鳥居は石造明神鳥居。扁額は「稲荷社」。

 

本殿は、一間社流造、銅板葺。

1817年(文化十四年)造営国重文

 

向拝柱は几帳面取り角柱。上端が絞られています。柱上の組物は、皿付きの出三斗。

側面の木鼻は大ぶりな拳鼻。

虹梁には太い線で絵様が描かれ、中備えは透かし蟇股。

 

母屋柱は円柱。頭貫には拳鼻。

組物は出組で、中備えは蟇股と実肘木が一体化したものが使われています。

妻飾りは豕扠首。

破風板の拝みには猪目懸魚。桁隠しはありません。

 

正面の階段は5段。階段の下には浜床があります。

縁側には跳高欄が立てられ、背面側は脇障子を立てています。

母屋の正面の扉は、柱の筋から少し奥まった位置にあります。

 

玉光稲荷社の後方の一段高い区画には、名婦稲荷社があります。

入口の鳥居は石造明神鳥居。扁額は「命婦稲荷神社」。

 

本殿は、一間社流造、こけら葺。見世棚造。

 

向拝柱も母屋柱も角柱が使われ、柱上は舟肘木。

海老虹梁と懸魚のほかは、装飾的な部材がありません。

 

透塀、美御前社、悪王子神社などについては以上。

その4では十社、大国主社などの境内西側の社殿について述べます。

*1:「悪」という字の同様の用法として、鎌倉後期の反政府的な武士を指した「悪党」がある