甲信寺社宝鑑

甲信地方の寺院・神社建築を語る雑記。

【笛吹市】佐久神社

今回は山梨県笛吹市の佐久神社(さく-)について。

 

佐久神社は石和町地区の住宅地に鎮座しています。

創建は不明。社伝によると雄略天皇元年(457年)の創建とのこと。平安時代の『延喜式』に当社の記載があり、式内社に列しています。その後の沿革は不明。

現在の境内は江戸後期以降のものです。本殿は多数の彫刻で飾られた大型の三間社で、県の文化財に指定されています。

 

現地情報

所在地 〒406-0043山梨県笛吹市石和町河内80(地図)
アクセス 酒折駅または石和温泉駅から徒歩50分
笛吹八代スマートICから車で5分
駐車場 10台(無料)
営業時間 随時
入場料 無料
社務所 なし
公式サイト なし
所要時間 10分程度

 

拝殿

佐久神社の境内は南向き。入口は住宅地の生活道路に面し、境内東側(写真右)は公園になっています。

右の社号標は「延喜式内 郷社 佐久神社」。

入口には石造明神鳥居が立ち、扁額は「佐久神社」。

 

参道右手には簡素な手水舎があります。

 

参道左手には、神楽殿が東面しています。

入母屋(妻入)、銅板葺。

柱は角柱が使われ、虹梁に木鼻があります。

 

参道の先には拝殿。

入母屋、向拝1間、桟瓦葺。

 

母屋の扁額は「神徳悠久」。

母屋柱は角柱で、柱上は舟肘木が使われています。ほか、目立った意匠はありません。

 

本殿

拝殿の後方には、鉄柵に囲われた本殿が鎮座しています。

桁行正面1間・背面3間・梁間2間、三間社流造、向拝1間 軒唐破風付、銅板葺。

1862年(文久二年)再建。県指定有形文化財*1

 

祭神はイワサク、ネサク、タヂカラオの3柱。

社伝によると、かつての甲府盆地は湖で、イワサクとネサクが湖岸を切り裂いて水を流出させたことで、広大な平地が拓かれたそうです。甲府盆地の湖水伝説は穴切大神社(甲府市)などの神社にも伝わり、『甲斐国志』や『甲陽軍鑑』にも記載されていますが、それを裏づける地質学的な証拠は見つかっていません。

 

向拝の正面。

虹梁中備えには竜の彫刻が配されています。その上の唐破風の小壁には、鳳凰の彫刻。両社とも、幕末らしい派手な彫刻です。

 

向かって左の向拝柱。

向拝柱は几帳面取り角柱。正面には唐獅子、側面には獏の木鼻があります。

柱上の組物は、出三斗の上に連三斗を乗せたもの。

 

向拝の下には、角材の階段が5段設けられ、階段の下に長押が2本打たれています。階段と長押の下には浜床が張られています。

 

向拝の軒唐破風。

唐破風の拝みと桁隠しに、懸魚が下がっています。拝みの懸魚(兎毛通)は鳳凰らしき彫刻が入っていますが、金網が反射して詳細な観察ができませんでした。

唐破風の棟には鬼板が乗り、屋根のついた箱棟で覆われています。鬼板の中央部は、格狭間のようなくぼみがついています。

 

母屋は正面1間(背面は3間)、側面2間。前方の1間通りは壁がなく吹き放ちで、後方の1間通りに3組の板戸が設けられています。

母屋の周囲は切目縁が4面にまわされ、跳高欄が立てられています。

 

母屋正面の軒下。

柱は円柱。柱間は頭貫でつながれ、中備えに組物と蟇股が置かれています。組物は木鼻のついた三手先、蟇股には植物を題材にした彫刻が入っています。

 

左手前(南西)の隅の柱。

柱の正面側は海老虹梁が付き、その下に菊の籠彫りが添えられています。側面には唐獅子の木鼻。

柱上の組物は三手先が使われています。

 

右側面(東面)。

側面は2間で、頭貫の下には長押が打たれています。

後方の神座のある柱間には、横板壁が張られています。

 

側面の頭貫の上にも、中備えの彫刻があります。題材は花鳥。

組物で持ち出された桁のあいだには、雲の彫刻の入った支輪板が使われています。

 

妻飾りは二重虹梁。

大虹梁の上には、出三斗と蟇股があります。蟇股は波の彫刻。

二重虹梁の上には大瓶束が立てられています。その左右には、唐獅子らしき神獣の彫刻が入っています。

 

背面は3間。柱間は横板壁。

背面側にも、木鼻や中備えの彫刻があります。

 

縁側の脇障子は、母屋の斜め後方に向けて立てられています。

脇障子の羽目には、天女の彫刻。

 

縁の下は三手先の腰組で支えられています。

縁の下の柱のあいだの欄間にも、派手な彫刻があります。

 

こちらは右側面後方の欄間。

題材は、波間を駆ける麒麟。

 

背面中央の欄間。

こちらも神獣が波間を駆ける構図となっています。

柱の根元には2本の長押が打たれ、長押のあいだの部分は柱の成型が八角柱になっています。

 

地震対策のためなのか、母屋の両側面は鎖でつながれ、背面には丸太のつっかい棒が入れられていました。

 

以上、佐久神社でした。

(訪問日2024/03/16)

*1:附:神額